古い表現や常用外漢字が「逆に新しい」場合も
2つ目は、対象物に関する表現を見慣れないものとすることで、新しさを表そうとする例です。よく使われる語(新しさが失われた語)を外国語などのあまり使われない語に言い換えます。
外来語として定着しよく使われている「リッチ」を「ラグジュアリー」「リュクス」などの使われにくい語に言い換えるような例が多く見られます。先の(1)でも、「象徴的」「シンボリック」などとは言わずに「アイコニック」を用いていました。しかし、あまり使わない語へ言い換えられていると、完全には意味が伝わらない可能性があります。
そこで、(1)の「アイコニックな」、(2)の「アヴァンギャルドな」のように修飾語として用いられることになります。修飾語として使用すれば、正確な意味が伝わりにくかったとしても(例:「シアーなアーバンバカンススタイル」「アグレッシブなトレンチ」など)、修飾されている対象物を写真画像などで確認することが可能ですし、語感としての新しさが伝わります。
なお、修飾語として導入されやすい新しい表現も、修飾語としての「AなB」(例:「ガーリー[A]なカジュアル[B]」)の形が定着し、新しさが失われてくることがあります。
そうすると、複合語「AB」(例:「ガーリー[A] カジュアル[B]」)も使われやすくなり、さらには「BA」(例:「大人[B] ガーリー[A]」)のような複合語や、単独の「A」(例:「ガーリー[A]を加速する」)として用いられるまでに定着することもあります。
このように、新しかった表現が十分に定着して一般的な表現となると、新しさが失われたがゆえに用いられにくくなっていた修飾語の用法が再度現れることがあります。一周回って目新しい用法としての修飾語(例:「マリン[A]なリボン[B]」〈2010年〉)で現れることがあるのです。
また、3つ目として、対象物やその説明に他分野の用語や表現を借用したり、異表記を混入したりすることによって新しく見せる例も見られます。
たとえば、「甘辛ミックスで奏でる」(2008年)の「奏でる」という表現や、「隠し味を注入」(2011年)の「隠し味」「注入」などの表現は、他の分野の表現を借りています。2005年までの用例が確認できる『現代日本語書き言葉均衡コーパス』において、ファッション雑誌の用例としてこれらを取得することはできませんでした。
「イットルック」(1920年代の流行語「イット(性的魅力)」)や「リアルクローズ」(1970年代の用語で、日常生活で着られるような衣服)などの古い表現、「裸色」「熱帯色」のような漢語をまぜたり、「LOVEバッグ」「スカーフで華やぎをIN」のようなアルファベットまじり表記、「キレイ色」「コーデのハズシ」(2008年)のような和語や漢語のカタカナ表記を用いたりする例もあります。
(3)では、「ポンチョをラフに纏ったバランス」とカタカナ語の中に常用漢字ではない「纏う」が用いられていました。常用外の漢字表記によって表現に新しい印象が加わっているのではないでしょうか。
*1― 篠崎晃一(1997)「流行語の発生と伝播」『國文學 解釈と教材の研究』42(14)、pp.52-56、學燈社
*2― 保田祥、岡本雅史、荒牧英治(2012)「〈新しさ〉のために循環する表現―女性向けファッション雑誌『InRed』を材料に―」『社会言語科学会第29回発表論文集』pp.134-137、社会言語科学会
* 「倉科カナがディオールの最新コレクションに身を包む!トレンチコーデからマリン風ルックまで」『InRed』宝島社、2022.09.26(https://fashionbox.tkj.jp/archives/1699518)
* 『InRed』(宝島社)の2008年11月号から2011年8月号までの3か月毎12冊(広告と連載小説等の編集部外記事を除く)