「舞台公演中はセリフを覚えるため、頭の9割方を使ってしまうので、忘れ物や失くし物が多いのが悩みです。でも、子どもの頃から母に『あっちゃん、ない、ない、言う前に、3回探しなさい』とよく注意されていました(笑)」
やらないよりはやったほうがいい
――昔の夢をあきらめきれずにいる人は少なくありません
そういう方は、ぜひ挑戦したほうがいいと思います。
仮にそれが、すべてをひっくり返すようなことであれば、いろんな人を巻き込むので、自分一人で決断するのは難しいかもしれません。
その場合、一歩でも近づけそうなことをしてみたらいいと思います。
その一歩が二歩目に繋がり、他の誰かを巻き込んで三歩、四歩と本来の夢に近づく可能性もあるはずです。
逆に、挑戦したものの「違った」と引き返すこともあるでしょう。
でも、やらないよりは、やったほうがいい。
やらずに「あのとき、ああしておけば...」といつまでも言い続けるより、たとえダメでも、夢に向かっていく自分に出会えるほうが幸せではないでしょうか。
その過程で努力もするし、謙虚にもなるでしょうから。
私の場合、周りから「交通量の多い道路にばかり飛び出していくような危なっかしい生き方」とよく言われますが(笑)。
しかも、舞台の幕が開くときは怖くて、いまでも毎回、「絶対に救急搬送される」というくらい心臓がドキドキします。
でも、人間はいつか必ず死にます。
そのとき、後悔しない生き方をしたいですよね。
――健康維持はどのように?
体力維持のため、1日おきにプールに行き、20~30分かけて1kmずつ泳ぐようにしています。
行きはクロール、帰りは背泳ぎ。
最後はバタフライを交えた個人メドレーとウォーキングをやって。
本当は2kmくらい泳いだ方がいいのですが、なかなか難しいですね。
記憶力も衰え、セリフを覚えるのも、昔よりずっと時間がかかるようになりました。
だから、いまはセリフを紙に書き、自宅の壁に張って覚えるようにしています。
芝居の開幕直前は、壁一面にセリフが呪文のように張られていて、まるで「耳なし芳一」です(笑)。
――人生百年時代、目標は?
今後、年齢を重ねて芝居を続けていく上では、「半生(はんなま)」が大事だと思っています。
リハーサルを繰り返して芝居を完璧に仕上げるのではなく、不完全でもいいから、半分生の状態で本番に臨む...といった感じでしょうか。
森繁久彌さんの有名なエピソードがあります。
テレビドラマがまだ生放送だった頃、森繁さんが、覚えきれないセリフをセットの仕切屏風に書いておいたところ、演出家の方が撤去してしまったそうなんです。
出てきた森繁さんは仕方なく、スタッフが気付くまで30秒くらいじっと宙を見つめて芝居をしたんだとか。
でも、その芝居が絶品だったらしく、「森繁の空白の30秒」と語り継がれることになりました。
そんなふうに、身をさらすだけで「面白い」と言われる境地に辿り着けたらと。
4月に渡辺えりさん作・演出の「さるすべり」という舞台に出演する予定です。
私は昔から、神経質すぎる傾向があるので、そういうものをえりさんから学べたら、と思っています。
取材・文/井上健一 撮影/吉原朱美 ヘアメイク/山口勝久(Allure) スタイリスト/森 美幸(監物事務所)