宝塚歌劇団雪組の男役トップスターとして活躍、退団後に数々の舞台で活躍した、麻実れいさん。長いキャリアの中で身体の不調があったことも。歳を重ねながら、自分の変化とも向き合ってきた体験や思いなどを語っていただきました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年9月号に掲載の情報です。
壮大な夢のようなミュージカル
――2020年の春、コロナ禍で多くの上演日が中止になったミュージカル『アナスタシア』がこの秋、再演されます。麻実さんにとっては25年ぶりのミュージカルですね。
1998年の『蜘蛛女のキス』以来ですから、そうですね。
たまたま25年も空きましたが、宝塚で育っていますから、ストレートプレイもミュージカルも垣根がないんです。
いい作品なら、ジャンルは問わず、ご一緒したいと思っています。
『アナスタシア』もすてきな作品ですから。
殺伐としたニュースの多いいま、本当にロマンティックで幸せな気持ちになれますし、セットと映像の融合がすてきなんです。
例えば列車のシーンは、セットの列車が走っていると、背景の映像の線路が花々の咲く街並みを抜けて、やがてパリ市内に入っていく。
美しさにぱっと目が開かれる感じで、壮大な夢を見ているような世界なので、幅広い世代に楽しんでいただけると思いますし、子どもたちにも見せたいですね。
うちの孫も見に来るんですよ。
――コロナ禍の舞台ですと、『MISHIMA2020』(2020年)。狂気に陥った若い女性を偏愛する年配の女性という難役でしたが、すごいオーラでした。
私は役を作るときにいつも無性化させてしまうんです。
歌舞伎の女形さんみたいに。
一度、性別をゼロにして、そこから女・男って分けて肉づけしていくんですね。
それは宝塚で男役をしていた影響もあると思います。
いまは性別をめぐって自由に発言ができる良い時代になってきていますが、私の周囲には恋愛対象が同性の人もわりといたので、そこに偏見がなんです。
女が女を愛する役も、女が男に変身して、女を愛する役を演じるのも違和感がない。
だからこそ、そうやって自分の中で無性化できるのかな、と思います。
宝塚のときも、あれだけ男っぽいレット・バトラーを演じても、その日の公演を終えて楽屋を出たら、本来の自分に戻るんですよ。
反対に男役に乗り変わる瞬間もあって、舞台袖のお稲荷さんにいつも手を合わせるのですが、横に姿見があるんです。
劇場に入って、その姿見を見た瞬間、そこには普段の分の女っぽさは全くない。
もう男役になっているんです。
面白いですよね。
エリザベス1世やメアリー・ステュアートなどの威厳のある女王を演じることもありますが、ああいう偉大な女性たちは精神的にどこか両性具有的なところがあって、男役の線の太さがないと出せない存在感ですし、声も強さを出すために、低めの声を使ったりもします。
宝塚の男役をしていたから、男にも女にも振れる幅を広く、役を作っていけるんでしょうね。
だから、普通に生活している人の役は逆に演じにくいのではないかと思います。
それは女で生まれてきてはいるんだけど、やっぱり自分の人生を歩んでいく中で、見てきた世界の影響なんでしょうね。
神田明神の近くで生まれましたが、宝塚に入ることなく、そのまま下町で普通に家庭を持って子どもを育てていたら、また違った考え方を持っていたかもしれないなと思うと、面白いですね。
「25年ぶりのミュージカルですが、声って普段から出しておかないと、急に出そうとしても難しいでしょ。朝起きると、軽くストレッチして発声。それはずっと続けています」