舞台『ザ・ウェルキン』に主演する吉田羊さん。死刑囚の少女の裁判に陪審員として集められた12人の女性たち。吉田さんはその1人、真偽の鍵を握る助産師を演じます。そんな吉田さんに、同作品のこと、今後の展望などについてお話を伺いました。
衣装:ブラウス35,200円、スカート42,900円/ラシュモン(アペリア) ピアス49,500円/プライマル ブレスレット22,000円、オーバルブレスレット29,700円/リューク
舞台を通してジェンダーを考える
――『ザ・ウェルキン』、いまの時代こそ観たい作品ですね。
舞台は約250年前の英国ですが、国も時代も超えて共感できる物語だなと。
ジェンダー問題も滲ませる作品ですが、事件に関わる男たちの横暴を非難する陪審員の女性たちが、互いにぶつけ合う罵詈雑言はむしろ乱暴で残酷。
さらには母・妻・女という立場がもたらすヒエラルキーも炙り出されて、人間の業に男も女もないんだなと。
それは昨年の舞台『ジュリアス・シーザー』の時も感じました。
――『ジュリアス~』は男たちの戦いを描いたシェイクスピア劇。
女性キャストだけで演じられていましたね。
力関係を生むのは性差ではなく、立場や職業で、男でも女でも同じことが起きるんだなと。
また、これは個人的な感覚ですが、女性は命を産み育てる性だからこそ、作中の、命を奪うという行為が、より悲しく感じられたのかなと。
演出家も、女性が演じることで「本当はこんなことはしたくない」という思いが透けて見えたと仰っていて。
今作では、性差や階級差といった理不尽が横行する時代に、命の尊厳をめぐって審議が行われますが、そこには個人的な思惑も絡み、嘘と真が錯綜しながら、二転三転と展開していきます。
「女」を生きる彼女たちの、かしましくたくましい生きざまを、ぜひ劇場でご覧ください。
まずは靴を履いて扉の外へ
――舞台の稽古などお忙しい毎日だと思いますが、どう気分転換されていますか?
動いて汗をかいて、呼吸を深くして、ぐっすり眠る。
それに尽きます。
独り身なので、フットワークは軽いんですよ。
ふと思い立って新幹線に飛び乗って、遠方にも出かけます。
貧乏性だから、せっかく出かけるならと予定を詰め込んでへとへとになったりもしますが。
出かけてみないと何に出会うか分からないので、まずは靴を履いて扉の外へ、ですね。
部屋の片付けが気分転換になることもあります。
2カ月ほど前に整理したのは、昔の日記や手紙、アルバムの写真。
一瞬勇気が要りましたが、捨ててみると意外と平気。
記憶ではなく執着だったんだなと気付くと、空いた部分を埋めるであろうこれからの新体験にワクワクしました。
―― 思い出と経験が重なってくると、改めてこんなふうに年齢を重ねたいと憧れる女性も出てくると思いますが。
私は、亡くなった母です。
他人の悲しみ苦しみをいち早く察知して寄り添う人で、家族以外の人たちにいつもケーキやパンを焼いたり、お弁当を配って歩いたり。
最初はそんなの要らないと突っぱねていた人も、母のおせっかいに根負けして、そのうち心を開いて涙ながらに打ち明け話をしてくれるようになるんです。
自分が当時の母と同じ年齢になって、同じことはできないですが、せめて相手の気持ちには気付ける人間になれたらなと。
――50代以降を見据えて、今後の展望をお聞かせください。
小劇場からスタートして、当時は楽しい一心でしたけど、ここ数年は舞台は修行だなと思うんです。
任せていただく役割の大きさに比例して、やり直しがきかない緊張感の中で結果を出さなくてはいけない怖さが大きくなっていて。
今後は海外に活動の拠点を置いてみるとか、環境を大きく変えるような挑戦ができたらいいなと思います。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/吉原朱美 スタイリング/梅山弘子(KiKi inc.) ヘアメイク/赤松絵利(ESPER)