女優を引退し・復帰、さらには結婚・離婚・同じ方との再婚を経験した白川和子さん。多くの苦労をしながらも、映画やテレビドラマに出演されています。その波乱万丈の人生についてお話をおうかがいしました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年10月号に掲載の情報です。
義理の親子だと言葉を選ぶ。
ただ、嘘をついたりごまかしはやめようと思っていました。
――白川さんは出演した映画『春画先生』について、「脚本を読み終え、50年程前の撮影現場に引き戻され、新鮮な気持ちにさせて頂きました」とコメントされています。
春画を通して性のおおらかさを描くコメディータッチの作品ですが、いまはあまりこういう映画がありませんよね。
私が日活ロマンポルノに出演していた頃は、なんでも自由に表現していたんですけど。
「世の中、男と女しかいないのに、つまらないな」なんて思いながら、当時を懐かしく思い出しました。
私が演じた絹代さんは長い間、家政婦として春画先生の身のまわりの世話をしてきた女性。
だから、2人だけの絆があると感じたんです。
そのため、先生のところに若い女性がやって来ると、嫉妬心も湧いてくる。
布団たたきで追い返そうとする場面など、そういう気持ちをお芝居で表現したつもりです。
年をとると、そういうものはなかったようにされますが、いくつになっても女性としての気持ちを失っていないことが表現できればと思って。
――その気持ちを忘れずにいたことが、ご活躍を続けてこられた秘訣でしょうか。
実は70歳を過ぎた頃、女優をやめようと思ったことがあるんです。
普通の会社員なら、とっくに定年退職している年代ですから。
でも、同級生や友達に相談してみたら、口を揃えて「オファーがあるうちは、やった方がいいわよ」と言うんです。
「私たちは無理だけど、あなたはまだできるから」と。
私に言わせれば、「あなたたちも、頑張ればいいじゃない」と思うんですけど、みんな私に託してきて。
それを聞き、同年代の代表選手になろうと思ったんです。
後妻として子育ての苦労を経験
――とはいえ、白川さん同様にロマンポルノで活躍された女優さんで、いまも現役の方はほとんどいません。
実は私、日活ロマンポルノには1年半くらいしか出演していないんです。
その後結婚して、二度と女優をやるつもりはなく引退したのですが、ロマンポルノをやっていたことの印象が強かったんでしょうね。
世間からの風当たりはすごかったです。
そのとき、「いじめられるって、こんなに悲しいことなんだ」と気付いて。
考えてみれば、私も子どもの頃、人をいじめたことがあったなと思い出し、当事者になって初めてその気持ちが分かりました。
その後、ご縁があってカムバックしましたが、自分の好きな仕事は大事にしたいし、家族に迷惑もかけたくなかったので、みんなが寝静まってからセリフを覚えていました。
――先妻を亡くし、2人の子を持つ方との結婚は、子育ても苦労されたとか。
日活の営業マンだった17歳年上の夫と結婚したのは25歳のときで、(先妻の子の)長女とは11歳、長男とは13歳しか離れていなかったんです。
血の繋がった親子だったら、何かあったとき、ストレートに怒ることもできるんでしょうけど、"なさぬ仲(義理の親子)"だから、言葉を選んでしまうんですよね。
「こんなとき、本当の母親だったらなんて言うだろう?」と考えてしまって。
ただ、嘘をついたり、ごまかしたりするのだけはやめようと思っていました。
そんな中、長女と長男、どちらも本当の意味で親子になれたのは、仲がいいときではなく、本音でぶつかったときでした。
例えば長男の場合、当時の日活は給料の遅配が続き、日々の食事にも困る状況だったんです。
だから、子どもたちのお弁当のおかずも毎日、たくあんと梅干しと昆布の佃煮くらい。
そんなとき、ご近所から当時は高級品だったたらこをいただいたので、自分が食べたい気持ちを我慢して、お弁当に入れてあげたんです。
なのに、長男が「腐ってた」と残してきたので、思わずお弁当箱で殴ってしまったんです。
そこでハッと気付いて。
「本当の母親だったら、殴らなかったはず」と。
そう考えたら、夜も眠れなくて。
でも翌朝、長男が「お母さん、昨日はごめんな」と謝ってきたとき、「親子になれた」と思いました。
おかげでそれから、すごく楽になりました。
――その後、白川さんも女の子を出産されていますね。
次女を出産した際、もし私が亡くなり、残された次女が困ったとき、手を差し伸べてもらえるような関係を作っておこうと思い、あえて長男と長女に世話を任せることもありました。
その中で、長女とこんなことも。
彼女が中学2年生だった頃、反抗期真っ最中でなかなかいい関係を築けなかったんです。
ところが次女が生後1カ月くらいのとき、「お風呂に入れたい」と言い出して。
さすがに危険なのでやんわり断ったんですけど、それでも毎日言ってくるので、「意地悪しているな」と思ったんです。
でもあるとき、自分が試されていることに気付いて。
そこで信頼して、任せてみたんです。
とはいっても心配で、お風呂場の前でうろうろしていたので、無事に出てきたときは、ほっとしました。
そのとき、家族に大事なのは「信頼」だと気付かされました。
おかげで、子どもたちは仲のいいきょうだいに育ってくれました。
「実は私、『毎日が発見』の愛読者で、"わたしの体験記"に載ることは夢でした。こうしてお話しすることができて、すごくうれしいです」