くしゃみをしたときに、尿漏れしたことはありませんか? 女性は年とともに、尿漏れを起こしやすくなります。LUNA骨盤底トータルサポートクリニック院長の中村綾子先生によると、骨盤の底にある骨盤底筋を鍛えることで、不快な尿漏れは改善できるそうです。
ご存じですか? 「尿漏れ」
尿漏れを分類すると?
▶腹圧性尿失禁 約50%
くしゃみやスポーツなど、おなかに力が入ったときに尿漏れするタイプ。骨盤底筋の緩みで尿道の締まりが悪くなっていることが原因。
▶切迫性尿失禁 約25%
我慢できないほど強い尿意を感じトイレに行く前に漏らしてしまうことも。骨盤底筋の緩みでぼうこうの神経が過敏になるのが原因。
▶混合性尿失禁 約25%
腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の二つが合わさっているタイプ。くしゃみに伴う尿漏れと我慢できないほどの尿意が起こるのが特徴。
なりやすい人は
・40代以上の人
・出産経験のある人
・便秘がちな人
・日常生活で腹圧のかかる姿勢が多い人 (農作業など、しゃがむ姿勢が多い)
どんな特徴があるの?
漏れてしまうときは
・くしゃみをしたとき
・運動しているとき
・トイレに行こうとして間に合わない
出産・加齢は最大要因 。過活動ぼうこうによることも
骨盤底筋は、ぼうこうや子宮、直腸をつり上げていて、尿道、膣、肛門の出口の開閉にも関わっています。トイレまで尿を我慢できるのは、骨盤底筋がしっかり働いている証ともいえます。でも、年とともに足腰の筋力が落ちるように、骨盤底筋の働きも衰えていくのです。
「出産も、骨盤底筋の緩みの大きなリスクになります。出産では膣が大きく開くため、骨盤底筋にダメージを与えるのです。大きな赤ちゃんの出産や、出産回数の増加は、若い頃からの尿トラブルにつながります。また、肥満も悪影響を及ぼします」と中村先生。
おなかに脂肪がついていると、その圧力で骨盤底筋を傷めてしまうそうです。便秘がちでいきむことが多いことも、骨盤底筋にダメージを与えます。さらに、農作業などでしゃがむような姿勢を続けると、腹圧がかかりやすくなります。
一方、トイレへ行くのが我慢できないほど強い尿意を感じ、トイレに間に合わないこともある切迫性尿失禁は、過活動ぼうこうが原因になります。過活動ぼうこうでは尿意が過敏な状態で、ぼうこうが異常に収縮します。さまざまな原因が考えられますが、骨盤底筋の緩みが原因になることもあります。腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が混合していると、咳やくしゃみで尿漏れすることに加え、「さっきトイレに行ったばかりなのにまた行きたい」といった頻尿に陥りやすくなります。
骨盤底筋って、 体のどの辺りにあるの?
どんな役割?
骨盤の最下部でハンモックのように内臓を支える働きをします。
いすに座り、両方の手のひらを上向きにしてお尻の下に置きます。指が触れる、硬い骨の出っ張りが坐骨結節です。「骨盤底筋」は、この坐骨結節の間に張られています。
骨盤底筋は、骨盤や内臓を支え、尿道、膣、肛門をつなぐ筋肉群の総称です。出産や女性ホルモンの減少、加齢などとともに緩みやすく、その緩みが尿漏れや頻尿につながります。
基本はトレーニング 。食生活の見直しも大切
「尿漏れが軽症から中等度の方は、骨盤底筋トレーニングと同時に、骨盤底筋を矯正するパンツを活用するとより効果的です。」 矯正パンツと尿漏れパッドを併用すると、安心してお出かけすることもでき、同時に骨盤底筋を鍛えることにもつながります。でも、矯正パンツに頼り過ぎてはいけないそうです。パッドを着けっ放しにすると、尿意を感じずに尿漏れをしてしまう癖がつきやすいため、外出のときだけ使うなど限定的な使用が効果的。
「過活動ぼうこうで頻尿の方は、訓練で改善することがあります。ぼうこうに尿をためる訓練で、トイレに行きたくなったら5秒だけ我慢します。5秒の我慢ができるようになったら10秒我慢する。数カ月かけて少しずつ時間を延ばしていく訓練です。我慢できないときには、無理せずに受診してください」
骨盤底筋トレーニングやぼうこう訓練、矯正パンツの適切な使用に加え、食生活の見直しも大切になります。頻尿の人は、1日2リットル以上の水分の摂り過ぎに加え、ぼうこうを刺激しやすい食べ物を摂っているケースも。「これを食べたらトイレに行きたくなった」という食材は、控えるようにしましょう。
最新治療法 その1
ボトックス
治りにくい切迫性尿失禁に対して、米国泌尿器科学会は、ボトックスという筋肉の緊張を緩める薬をぼうこうに注射することが有効であることを発表しました。日本でもできる病院は限られますが、この治療が行われるようになっています(保険適用外)。
最新治療法 その2
磁気刺激療法
骨盤底筋を鍛えるのはトレーニングが基本ですが、症状が改善しないときの治療の選択 肢の一つに、磁気刺激療法(※)があります。骨盤底筋や神経へ体外から磁気刺激を行うことで改善効果が期待できます。欧米では、約85%の患者に有効との報告も。
※保険診療と保険適用外の両方あり。医療機関ごとに施設基準に該当していれば保険診療となる。
さっそく実践!骨盤底筋を鍛えるトレーニング
早い段階で骨盤底筋を鍛えながら、尿トラブルの原因を解消することで、不快な尿漏れは改善できるそう。骨盤底筋を鍛えるトレーニングをご紹介します
【1】寝た姿勢で行う
あおむけに寝た状態で足を肩幅に開き、腰が反らないようにします。腰の下に手を入れて、腰と手の間に隙間がないのが正しい姿勢です。
おならを止める感じで肛門を締め、次に、尿を途中で止める感じで膣をキュッと締めると、骨盤底筋を前後に動かすことができます。5~10回の1セットを1日何度も行います。
【2】立った姿勢で行う
足を肩幅に開いて真っすぐな姿勢で立ち、肛門、尿道、膣をキュッと締めた後、それらを 引き込むような気持ちで上に持ち上げます。
持ち上げた状態で5秒間キープして緩めます。このときお尻や脚は動かさないように。5~ 10回の1セットを1日何度も行います。
◎ここがポイント!
姿勢に気を付けよう
腰が丸まった状態では、骨盤底筋と呼吸の連動がうまくいきません。正しい姿勢を意識して。
息を吐きながら
骨盤底筋の動きは呼吸と連動しているので、息を全て吐くと持ち上げることができます。
▼もっと鍛えたい人のために
ピフィラティス[骨盤底筋強化に特化したピラティス(※)]
※ピラティスとは、体の深層部を意識してリズミカルに小さく体を動かす運動のこと。
1.足を肩幅(骨盤臓器脱の症状がある人は腰幅程度)に開き、両足先は少しだけ外に向ける。ひざが足先と同じ方向に向くように、ゆっくりと3回腰を落とす。そのときなるべく、ひざがつま先よりも前に出ないように注意する。
2.3回目に腰を落としたら、そのままの状態で3秒間キープ。
3.その後「フッ、フッ、フッ」と3回息を吐きながら、腰を上下にバウンドさせる。 この弾むような動きがポイント。
1 〜 3 を朝晩各3回繰り返す。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史
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中村綾子(なかむら・りょうこ)先生
LUNA骨盤底トータルサポートクリニック院長。2007年横浜市立大学医学部卒業。みなと赤十字病院、横浜市立大学附属病院、藤沢市民病院、横浜保土ヶ谷中央病院勤務を経て2017年4月より現職。泌尿器疾患を数多く治療している。