専門医が指南する!認知症予備軍の「軽度認知障害」をセルフチェック

日常生活に大きな支障がなくても、もの忘れや家事や仕事にやる気が起きないことがありませんか。そのままにしておくと、認知症の予備軍である「軽度認知障害」になる可能性も。今回は、筑波大学附属病院 精神神経科教授 認知症疾患医療センター 部長の新井哲明(あらい・てつあき)先生に、「軽度認知障害」についてお聞きしました。

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「軽度認知障害」セルフチェック

日常生活には特に大きな支障はないが、

□ 以前と比べて、もの忘れが多くなった
□ これまで楽しく取り組んでいた趣味が楽しくなくなった
□ 家事や仕事にやる気が起きない
□ 最近、怒りっぽくなった

上のチェックに当てはまる項目が3つ以上ある場合は、病院の「もの忘れ外来」や精神科を早めに受診しましょう。

小さな兆候を見逃さず
早期の発見・治療がカギ

年を重ねると脳の老化に伴い「もの忘れ」が起こりがちです。

家族などから「〇〇を買ってきて」と言われて買い物に行ったものの、買い忘れてしまうことがあるでしょう。

帰宅後に「〇〇買ってきてくれた?」と言われて気付くのは単なるもの忘れですが、何度も同じことが起きたり、頼まれたこと自体の記憶が曖昧になってきた場合は「軽度認知障害」の疑いがあります。

「軽度認知障害は、MCI(Mild Cognitivelmpairment※)とも呼ばれます。もの忘れがあることは本人や家族も気付きますが、日常生活には大きな支障がない状態です。軽度認知障害はいわば認知症の前段階で、年間約1割が認知症へ移行すると推計されています」と、新井哲明先生。

認知症へ移行すると、時間や場所が分からなくなり、人から言われたことを理解できない、料理などを手順通りに行えないなど、日常生活に支障が生じるようになります。

一方、軽度認知障害では、もの忘れの症状はあるものの、外出や料理、会話などに問題はなく、日常生活を普通に送ることは可能です。

「軽度認知障害の段階で適切に対処することで、約4割の人は認知機能の改善ができると考えられています。早期に発見し、いかに進行させないか。その重要性を多くの方に知っていただきたいと思います」と新井先生は話します。

「軽度認知障害の兆候は、(1)もの忘れが増えた、(2)趣味が楽しくなくなったなどの意欲の低下、(3)落ち込むなどのうつの症状です。これら3つが現れたら、『もの忘れ外来』や、近隣の地域包括支援センターへ相談しましょう」と新井先生はアドバイスします。

※ Cognitive は「認知」、Impairment は「障害」という意味。


非認知症

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認知症

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全国の65歳以上では軽度認知障害の

有病率 約13%
有病者数 約380万人

厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(平成21~24年)より


楽しいことで脳を活性化

思い出話も効果的

「60代を過ぎると軽度認知障害、そして認知症のリスクは一気に高まります。『まだ大丈夫』と思わず、ぜひ脳を活性化することを考えていただきたいです。脳を活性化するには『楽しい』ことが重要です。つまらないと思いながら無理に取り組んでも、脳は活性化しにくいといえます。ゲームやパズル、カラオケや地域の体操教室など、自分が楽しめることに取り組んでいただきたいのです。いつ始めても遅いということはありません。いまから始めましょう」と、新井先生はすすめます。

また、記憶をよみがえらせることも脳の活性化に役立ちます。

日記をつけたり、家族や友人と思い出話に花を咲かせたりするのも効果的です。

筑波大学附属病院では、軽度認知障害の患者に対し、運動、音楽や絵画といった芸術活動、パズルやゲームといった脳トレーニングなどを組み合わせた、専門的な多要素デイケアを実施しています(下記参照)。

脳の活性化に加え、生活習慣の見直しも認知機能の改善に欠かせません。

「中年期に動脈硬化になると、脳への血流が減ることにつながり、認知症の発症リスクを高めます。動脈硬化は高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病で促進されるため、その改善・予防はとても重要です」と、新井先生。

フィンランドの研究報告では、食事や運動を厳格に見直して脳トレを行った群は、そうでない群よりも脳の機能が格段にアップしていました。

生活習慣病の予防として提唱されていることは、認知症の予防にもつながるのです。

《脳を刺激する「多要素デイケア」》

認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症では、脳の血流低下が見られます。

新井先生らの研究グループが、軽度認知障害の患者に運動、音楽、絵画、脳トレなど多要素のデイケアを導入したところ、出席率が高い人ほど脳の血流が保たれていることが分かりました。

これらの取り組みは、認知症リスクを軽減すると考えられています。

取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

筑波大学附属病院 精神神経科教授 認知症疾患医療センター 部長
新井哲明(あらい・てつあき)先生

1990年、筑波大学医学専門学群卒。東京都立松沢病院精神科、東京都精神医学総合研究所などを経て、2016年より現職。認知症の早期発見・早期治療の診断・治療・研究に尽力し、新たな診断ツールの開発も行っている。

この記事は『毎日が発見』2023年4月号に掲載の情報です。
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