定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「ドリルやコグニサイズで、楽しみながら脳を鍛えよう」です。
メモを見ずに、さかさまに読んでみよう
コロナ自粛で活動量や人と会う機会が減るなか、認知機能の低下が心配になっています。
高齢者だけでなく、比較的若い40代、50代の人たちも、仕事の段取りが悪くなった、ひらめきが少なくなったという"異変"に気付いている人もいます。
ぼくの内科外来にも、認知症や認知症予備軍が疑われる人がちらほら増えています。
そんなときには、次のような質問をしています。
「今から言う数字を覚えておいてください。3・5・4・9」しばらく別の話をし、最後にこう質問します。
「先ほど、数字を覚えておいてほしいと言いました。その数字を終わりのほうから言ってみてください」
正解は「9・4・5・3」です。
これを応用して、メモを見ずに、電話番号や人の名前を、さかさまから言ってみましょう。
どうですか?
すらすらとできますか?
作業効率や感情のコントロールにかかわる前頭前野
この質問はワーキングメモリ(短期記憶)という脳の働きをチェックしています。
ワーキングメモリは、何らかの作業を滞りなく行うときに必要な手順やルールを一時的に記憶しておく脳の働きのことをいいます。
料理などの家事の作業や、読書、仕事など多くのものが、このワーキングメモリによって円滑にすすめられています。
読書なども、前のページに何が書かれているかを記憶しながら読み進めていきます。
登場人物の名前が出てくるたびに、「あれ、この人だれだっけ?」と読み返していたら、なかなか先へ進めません。
舌を噛みそうな長い名前や愛称が出てくるロシア文学などは、けっこう難易度が高いですね。
このワーキングメモリは、脳の前頭前野が関係しています。
前頭前野は人間の心の中核と言われており、応用力、判断力、アイデアだけでなく、感情をコントロールしています。
前頭前野の機能が低下すると、感情が不安定になり、怒りっぽくなったり、すぐにメソメソしたり、うつうつとしたりします。
頭を働かせながら、同時に体を動かす
前頭前野を鍛える方法として、まずはコグニサイズを紹介しましょう。
頭と体を同時に動かす運動です。
「認知」を意味する「コグニション」と、「エクササイズ」を合わせた造語で、国立長寿医療研究センターが認知症予防のために開発しました。
コグニサイズをすることで、認知症予備軍ともいえる軽度認知障害(MCI)の人の40%程度が認知機能を改善したというデータを出しています。
そこで、「足踏み」と「数を数える」と「しりとり」という3つの動きを同時にするコグニサイズに挑戦してみましょう。
室内でもできます。
まず、右足のももを上げて下ろし、左足のももを上げて下ろす「足踏み」をします。
このとき、1、2、3、4...と数を数えましょう。
ただし、5の倍数のときには、数字は言わず、しりとりをします。
5のときに「ゴリラ」と言ったら、10のときに「ラッキョウ」、15のときに「ウマ」...といった具合です。
一人でやってもいいですし、家族や友人、お孫さんと一緒にやって、しりとりを順番に回していくのもよいでしょう。
けっこう難しいコグニサイズです。
間違うくらいが脳にはいい刺激になるので、間違っても気にせず、楽しみながら挑戦してください。
1日5分程度のドリルで、脳を刺激
『毎日が発見』でも、毎号楽しいドリルを掲載していますが、ぼくも脳を刺激するドリル本を出しました。
『鎌田實の大人のいきいき健脳ドリル101』(二見書房)。
第1弾がたいへん好評で、これは第2弾になります。
1日5分程度のドリルが、101日分載っています。
たとえば、「色読みチャレンジ」。
漢字の「読み」に惑わされずに、文字の色を読むという単純なものですが、「緑」という漢字が、赤い色で書かれていると、緑? 赤? と一瞬脳が混乱します。
正解は、色を読むので「赤」です。
そのほか「間違い探し」「都道府県ご当地クイズ」「二字熟語」などいろいろなドリルがあり、集中力、注意力、記憶力、空間認知力などを鍛えるしくみになっています。
鎌田式筋トレの無料動画配信の付録もあります。
手書きも身近な脳トレに
「手書き」もおすすめです。
最近は、スマートフォンやパソコンで文字を打ち込むことが多く、場合によっては文章をコピペ(※)して、簡単に文章を作ることができます。
しかし、脳の活動という観点からは、手書きのほうがずっと脳を刺激します。
一日の終わりに日記を書く、読んだ本の感想を書く、友人に手紙を書くといったときにぜひ、手書きをしてみましょう。
ぼくは毛筆でお礼のはがきなどを書きますが、いろんな筆記具を使うのも楽しいものです。
冒頭の数字を暗記して、さかさまから言うのが難しかったという人は、今回紹介したコグニサイズやドリルに、ぜひ挑戦してみてください。
大切なのは楽しんでやること。
認知症になることを怖がって「脳を鍛えなければ」と思うのではなく、今楽しめることを探すことが大切です。
※ コピー&ペーストの略。スマホやパソコンで、文章などを複製して貼り付けること。