年末から年始にかけて食事の機会が増える中、胃もたれや痛みを感じる大人世代の方も多いのではないでしょうか。胃の不調には、胃がんなどの怖い病気が潜むこともあるので、油断は大敵。そこで今回は、東京医科大学 消化器内視鏡学 主任教授の河合 隆(かわい・たかし)先生に、「胃の不調」についてお聞きしました。
こんなこと、ありませんか?
□ 胃が痛いことがある
□ 胃がもたれる感じがある
□ 胸やけする
□ 酸っぱい液体が上がってくる
□ みぞおち辺りに鈍痛を感じる
□ ピロリ菌を除菌したことがある
□ 市販の解熱鎮痛薬をよく服用する
上の項目が当てはまったら
痛みやもたれなど胃の不調が続くようなら、早めに消化器科を受診しましょう。
十二指腸の炎症が胃の不調に関わる
年末に向けて飲食の機会が増えますが、食べると「胃がもたれる」「胃が痛い」などの症状を感じ、食事を楽しめないことがあります。
加齢とともに胃などの消化器の機能が衰え、「脂っこいものを食べると胃もたれがする」といったことは起こりがちです。
とはいっても、胃の調子が悪い状態が長引くと気になってしまいます。
「胃の内視鏡検査を受ける人の約半数は、食道や胃の粘膜に異常が見られない『機能性ディスペプシア』です。一見すると胃の状態は良いのですが、近年、十二指腸に関係があることが分かってきました」と河合隆先生は話します。
機能性ディスペプシアの「ディスペプシア」は、胃もたれや痛みなどの不快な症状を指します。
内視鏡の画像では胃の粘膜などに異常は見られませんが、胃の機能が落ちて症状につながっていることから「機能性ディスペプシア」と名づけられています。
「特殊な内視鏡で十二指腸を調べると、免疫細胞の一種の好酸球による炎症が見られます。胃液が食道に逆流すると逆流性食道炎になりますが、胃液が十二指腸に流れて異変を起こし、機能性ディスペプシアになっている可能性があるのです」と河合先生。
機能性ディスペプシアは、かつて「気のせい」ともいわれましたが、十二指腸の炎症などの原因が明らかになりつつあり、生活習慣の改善や服薬などでよくなる場合もあります。
また、胃の不調には、胃がんなどの怖い病気が潜むこともあるので、油断は大敵です。
「例えば、ピロリ菌を除菌しても、ピロリ菌が主な原因とされる萎縮性胃炎があれば、胃がんのリスクは残存します。胃がんの初期症状は無症状といわれますが、胃の違和感で内視鏡検査を受けて早期胃がんが見つかるケースも。放置しないようにしましょう」と河合先生はアドバイスします。
食道の動きが悪く逆流性食道炎に
寝ているときの胸やけも、胃の不調では一般的によくいわれる症状です。
チリチリと焼けるような痛みで夜中に目が覚め、酸っぱい液が口に込み上げてくることもあります。
水を飲んでみても症状が治まらず、結局、目が覚めて寝不足の状態に。
この状態が続いて食道に炎症が起こるのが「逆流性食道炎」です。
「加齢により食道につながる噴門(胃の入口)が緩みやすくなると、食後に体を横にしたときに胃液が逆流し、逆流性食道炎になりやすいといえます」
気付かぬうちに起こしやすい主な「胃の不調」
機能性ディスペプシア
主な症状
胃が痛い、胃もたれがするなどの症状があります。ただし、内視鏡検査で胃の粘膜には異常は見られないのが特徴です。
主な原因
胃や十二指腸の機能異常が影響していると考えられます。また、強い不安など心理的な要因が関係することもあります。
逆流性食道炎
主な症状
みぞおちから胸の辺りにかけた痛みや、胸やけ、酸っぱい液が口に込み上げる「吞酸」があります。夜間の症状で眠れないことも。
主な原因
胃から逆流した胃液によって食道の粘膜が傷つくことで起こります。噴門(胃の入口)が緩んでくると、胃液が逆流しやすくなります。
胃潰瘍
主な症状
空腹時に胃の痛みを感じることが多く、食事をすると軽減されるのが特徴です。吐き気や胸やけ、ひどい場合は吐血することも。
主な原因
ピロリ菌の感染、非ステロイド性抗炎症薬の服用(アスピリンのような血液をサラサラにする薬も含む)。ストレスなどでも悪化。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史