寄生虫アニサキスが原因の食中毒アニサキス症が、近年増加傾向にあります。食中毒の発生件数としては、カンピロバクターやノロウイルスを超え1位に。被害を防ぐにはどうすれば良いのか、注意が求められています。東京都健康安全研究センター 微生物部病原細菌研究科・統括科長の鈴木 淳(すずき・じゅん)さんに、「食中毒のアニサキス症」についてお聞きしました。
1.アニサキスって何?
アニサキスは魚介類に寄生する虫の一種で、その幼虫は長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、白い糸のような形状をしています。アニサキスが寄生している魚介類を生(不十分な冷凍または加熱のものを含む)で食べることで、食中毒(アニサキス症)を引き起こすことがあります。
2.アニサキス症の症状は?
アニサキスが感染する部位によって発症までの時間や症状が異なります。胃腸への感染が大半です。
●胃アニサキス症
食後12時間以内に、腹部に激しい痛みや差し込むような痛みが起こる。吐き気や嘔吐が伴うことも。
●腸アニサキス症
食後、十数時間後から数日後に、激しい下腹部痛や腸の膨満感などが起こる。まれに腸閉塞を起こすこともあり、外科的な治療が必要な場合も。
3.原因になりやすい食品は?
●刺身
冷凍処理をしていない生の魚。特にサバ、サンマ、天然サケ、天然ヒラメなど。
●冷凍処理していない魚加工品
冷凍処理をしていないシメサバ、カツオのタタキ(中心部分は生の状態に近いため)など。
4.予防のポイントは?
●加熱調理をする
60度で1分間加熱することで死滅します。
●十分冷凍されたものを選ぶ
-20度で24時間以上冷凍したものを。購入時、「解凍」と表示されているものは安心。
●刺身は養殖のものを選ぶ
基本的に卵から出荷まで人に管理され人工飼料を食べて育つ養殖魚は、天然魚に比べアニサキスに寄生されるリスクがかなり低めです。刺身や寿司など生食には完全養殖の魚がおすすめ。
これはNG!
・酢や塩、しょうゆ、わさびなどの調味料では、アニサキスは死にません。
・「嚙めば大丈夫」は迷信。数回の軽い嚙みしめでアニサキスを嚙み切ることは困難です。
魚介類に寄生するアニサキスの幼虫。
生きたまま人の体内に入ると、胃や腸に刺さり、激しい痛みや嘔吐を引き起こします。
これが、アニサキス症です。
「胃に刺さった場合は内視鏡で取り除きますが、腸まで到達したものは除去が難しく、痛みを緩和する薬を処方するなど、対症療法が一般的です」と、鈴木淳さん。
アニサキスは1999(平成11)年、食品衛生法で食中毒の原因物質に指定。
現在は、原因物質第1位を続けています。
「かつて、アニサキス症は魚の水揚げ地で起きるのが一般的でした。輸送技術の発達により、魚を生で輸送できるようになったことで、アニサキスも生きたまま魚とともに運ばれ、現在では全国的に発症者が確認されています」
では、予防のポイントは?
「発症原因で特に多い魚種はサバとサンマ。刺身や寿司を食べる際、"目視で確認を"とも言われますが、一般の方が見た目で確認するのは難しいと思います。安心なのは加熱調理ですが、生食したい場合はアニサキスのリスクが少ない完全養殖された魚か一度冷凍したものがいいでしょう」
アニサキス症は時として重篤な状態に陥ることもあります。
不安に思ったら、すぐに医療機関を受診してください。
構成・取材・文/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/坂木浩子