ジャガイモの芽には天然の毒が含まれているため、食中毒を引き起こすケースが確認されています。食中毒を避けるには、栽培、収穫、調理それぞれの段階で注意しておくポイントがあるのです。ここでは、毒素や食中毒事故の事例紹介のほか、家庭や学校菜園での栽培の注意点、ジャガイモによる食中毒を予防する方法などについて解説します。安心しておいしいジャガイモを味わうために、参考にしてください。
【ジャガイモの芽にある天然毒素とは】
ジャガイモには、芽やその根元、皮の固くなった部分に天然の毒素が含まれています。
ここでは、ジャガイモに含まれている毒素の正体と、毒素が引き起こす食中毒の症状について解説します。
1-1 ジャガイモの芽の天然毒素「ソラニン」と「チャコニン」
ジャガイモの芽に含まれる天然毒素に「ソラニン」と「チャコニン」があります。これらは人間には有害ですが、ジャガイモにとっては、大切な芽を外敵から守るために必要な成分だという説もあります。
このように人体に有毒な成分は、アサガオやスイセン、ヒガンバナなどにも含まれています。
●ソラニン
ソラニンは、主にジャガイモなどナス科の植物に含まれる天然毒素「グリコアルカロイド(糖アルカロイド)」の一種です。ジャガイモの可食部分100gの含有量は、平均3mgです。口に含むと苦味を感じます。
●チャコニン
チャコニンもソラニンと同様、ナス科の植物に含まれる「グリコアルカロイド」の一種に分類される天然毒素で、カコニンと呼ばれることもあります。苦味を感じる点や、含有量が平均3mgであることなどは、ソラニンと共通しています。
上の2成分を合わせると、ジャガイモの可食部100g中には、平均6mgの天然毒素が含まれていることになります。
また微妙な差ではありますが、ジャガイモの品種によっても成分の含有量が異なります。
念頭に置いておきましょう。
【ジャガイモの芽の食中毒症状】
ジャガイモの芽に含まれるソラニンおよびチャコニンは、一定の摂取量を超えるとさまざまな症状を引き起こします。
早いときは食後数分で、遅いと数日後に症状が表れることもあります。
ここでは、主な食中毒の症状について紹介します。
2-1 腹痛や頭痛、吐き気
代表的な症状が腹痛や頭痛、吐き気、おう吐、下痢やめまいです。
体重1kgあたり1mgのソラニンまたはチャコニンが体内に入ると、中毒症状が引き起こされます。
例えば体重50kgの成人がソラニンやチャコニンを50mg摂取すると発症する可能性が高まり、150~300mgでは無気力や錯乱、視覚障害などの重い症状が表れ、最悪の場合、死に至ります。
とはいえ、市販のジャガイモは、100gあたりの毒素が平均7.5mgです。
仮に体重50kgの成人が中毒を発症する場合、約700gものジャガイモを摂取する必要があり、現実的ではない摂取量です。
詳細は後述しますが、十分に気をつけなければいけないのは、未熟なままだったり、変色していたりするジャガイモを収穫する可能性のある、学校菜園や家庭菜園です。
【食中毒は実際に起きている】
ジャガイモによる食中毒が起きやすい学校で、実際に起きた中毒事故をいくつか紹介します。
●都内の小学校での事例
理科の実験用として小学校内で栽培したジャガイモを、127人の児童と5人の教師が皮付きのまま茹で、食べた。30分後に吐き気や喉の痛み、腹痛などの中毒症状が70人以上に表れた。
●兵庫県内の小学校での事例
小学校で栽培したジャガイモなどを食べた児童13名が、腹痛などの食中毒とみられる症状を訴え、うち8人が入院した。
●奈良県内の小学校での事例
小学校で栽培したジャガイモを家庭科実習で皮付きのまま調理・実食したところ、児童53人のうち、35人がおう吐や腹痛などの中毒症状を訴えた。
ジャガイモによる食中毒は、2000~2015年11月の期間で27件発生したうちの24件が学校関連だったとのデータもあるほど、発生場所が学校に偏っています。
【ジャガイモの芽で食中毒を起こさない対策方法】
ここからは、主に家庭菜園や学校菜園をメインに、ジャガイモを食べるときに気を付けたいポイントと食中毒の対策方法について解説します。
4-1 <栽培・収穫方法>十分に大きくなるまで栽培する
ソラニンやチャコニンは未熟なジャガイモに多く含まれます。
毒素の含有量をできるだけ少なくするには、十分な肥料をまいて種芋を植え、しっかり大きく育てます。
ジャガイモは育つにつれて地面から出やすくなります。
皮に日差しが当たると中毒成分が増えてしまうため、できるだけ地中深くに植えることが大切です。
また、ジャガイモの茎が育ってきたら、適度に間引きして、栄養がジャガイモに行き渡るようにします。
素人判断で栽培・収穫しがちな学校菜園や家庭菜園では、完熟しきっていないジャガイモを収穫していないか、慎重に見極めましょう。
栽培し、茎と葉全体が黄色に変化したタイミングで収穫します。
4-2 <買うとき・食べるとき>発芽しているもの、緑色のものは買わない、食べない
市販のジャガイモに、発芽したものや緑に変色しているものは滅多になく、さほど神経質になる必要はありません。
それでも不安なら、状態をよく見て購入するかを判断しましょう。
発芽していたり、皮が緑に変色していたりすると、ソラニンやチャコニンが大量に含まれている可能性が高くなるため、買わないことが一番です。
また、口に入れたときに苦味やえぐみを感じた際はすぐに吐き出して捨てましょう。
4-3 <収穫・保存方法>熟成したジャガイモを収穫し、暗く涼しい場所で保存する
天気が良くて土が乾いた日が、ジャガイモの収穫日和です。
収穫では、ジャガイモを傷つけないよう丁寧に扱い、表面が完全に乾くまで、風通しの良い日陰で乾燥させます。
傷がついた所から天然毒素の含有量が増えてしまうため注意してください。
乾燥後はジャガイモに付着した土や泥を落として、日に当たらない涼しい場所で保管します。
なお、ジャガイモが腐りやすくなる雨天時の収穫は避けましょう。
●冷蔵庫保存は避けて
ジャガイモを油で調理すると、ジャガイモの糖分とアミノ酸の一部が反応して有害物質「アクリルアミド」ができます。
この成分は、低温で保存されたジャガイモを油で調理した場合に、常温保存よりも有害物質の含有量が増えることが確認されています。
そのため、冷蔵庫保存は避けましょう。
冷蔵庫で保存してしまったジャガイモは、ゆでる、蒸す、煮るといった方法での調理がおすすめです。
なお、アクリルアミドは、揚げ・炒めなどの高温の加熱調理にはつきものの物質であり、食生活から完全に排除することはできません。
【ジャガイモの芽が出た。どこまでえぐる?】
芽の出たジャガイモを調理するときは、表面に出た芽をカットするのみならず、周りの部分も含めて、深く広くえぐって取り除きます。
5-1 加熱で毒素は減らない! 皮ごと芽を取る
ジャガイモの毒素は、加熱調理をすれば芽が付いていても大丈夫だと勘違いされがちですが、火を通しても毒素は消滅しません。
食中毒を避けるには、芽のみならず、その周辺を広範囲に深く取り除いてください。
調理前の下準備の段階で、包丁かピーラーを使い、芽の周りを皮ごと厚く剥くと良いでしょう。
【皮付きのジャガイモを食べる時は】
ジャガイモの皮付きのメニューを作るときは、次の点に気をつけて調理してください。
6-1 前提として発芽していないものを使う
前述の通り、ジャガイモを皮付きで使うときももちろん、発芽していないもの、皮が緑色に変色していないものを選びます。
家庭菜園で栽培されたジャガイモは、栽培や収穫の過程で毒素が多く含まれているおそれがあるため、発芽や変色の有無にかかわらず、皮を剥いて食べましょう。
6-2 芽の出ていない新じゃがは皮付きで食べてもOK
「新じゃが」とは品種名ではなく、収穫したてを出荷したジャガイモを指します。
特徴は、サイズが小さく皮が薄いことです。
堀りたては一般的に発芽していないため、食中毒を心配することなく皮付きで食べられます。
ただし、新じゃがでも発芽していた場合は、芽と、その周辺に多くの毒素が含まれているため、必ず芽を取り除いたうえで、芽の周りを皮ごと厚く剥いてから調理しましょう。
【ジャガイモの芽は根こそぎ取ろう】
発芽したジャガイモに含まれている毒素を甘く見てはいけません。
芽を取り除いたとしても、周辺部分の除去が甘いと、食中毒を引き起こすおそれがあります。
特に、家庭菜園や学校菜園で栽培したジャガイモは注意が必要です。
芽とその周辺を深めに広く取り除いたうえで、皮も厚めに剥いてから調理しましょう。
変色したジャガイモは破棄が無難です。適切な食中毒対策で、ジャガイモをおいしく楽しみましょう。