「慢性腎臓病」をご存知ですか? 成人の8人に1人はかかるといわれるほど、身近な病気ですが、血液透析治療が必要になる一歩手前まで無症状のことが多いといいます。今回は、神奈川歯科大学大学院 統合医療学講座特任教授の川嶋 朗(かわしま・あきら)先生に、「慢性腎臓病と腎臓の仕組み」についてお聞きしました。
ご存じですか
慢性腎臓病( C K D )
加齢や生活習慣病などで腎臓の機能は低下し、慢性腎臓病を発症します。自覚症状に乏しく知らぬ間に進行するので注意が必要です。
どんな病気?
• 日本人の成人の8人に1人がなっている(80歳以上では2人に1人)
• 腎機能が低下して3カ月以上続くと慢性腎臓病と診断される
• むくみ、だるさなどの症状は、すぐには出ない
• 腎機能低下が進むと腎不全となり、血液透析治療が必要となることも
(回復する場合がある急性腎不全と、回復する見込みのない慢性腎不全に大別される)
むくみが続いたら慢性腎臓病に注意
夕方になると足がだるくてむくむという人も多いことでしょう。
足先まで流れた血液は、静脈を通って重力に逆らいながら心臓に戻りますが、うまく血液が流れていかないと足の方で停滞し、血管から染み出た水分によって足がむくむのです。
立ち仕事や座りっぱなしのデスクワークでも起こりがちです。
でも、そんなありがちなむくみの症状が、翌朝になっても治らないと心配になるでしょう。
しばらく様子を見ていても、むくみが治らず、全身もだるいような不調に見舞われる人もいます。
医療機関を受診すると、告げられたのは「慢性腎臓病」(CKD)。
腎機能低下などが3カ月以上も続くと診断され、大人の8人に1人はかかるといわれるほど、身近な病気です。
しかし、腎機能低下が進行して腎不全になると、腎臓がほとんど機能しなくなり、血液透析治療が必要になることもあります。
また、慢性腎臓病は心筋梗塞の発症リスクも高いと報告されています。
慢性腎臓病の進行予防は重要といえるのです。
「慢性腎臓病は、よほど悪くなって、血液透析治療が必要になる一歩手前まで無症状のことが多い。腎臓はサイレントな臓器です。腎機能が悪くなってしまうと治すことは難しいので、日頃から腎臓をいたわるような生活を心がけていただきたいと思います」と川嶋朗先生は話します。
慢性腎臓病は、尿たんぱくなどの腎臓の障害や、腎機能検査で「糸球体ろ過量(GFR)が60ml/分/1・73㎡未満」の腎機能低下が3カ月以上持続した状態をいいます。
腎臓は、体内の老廃物を排出し、血圧のコントロールや赤血球を作るなど、いろいろな役割を担っています。
その機能が著しく低下すると、尿毒症といって、むくみ、だるさ、貧血、呼吸困難など、さまざまな症状を引き起こし、血液透析治療が必要になります。
「CKD」とは?
CKDは、英語のChronic Kidney Diseaseの略で、2002年にアメリカの腎臓財団が提唱した概念です。日本語では「慢性腎臓病」と訳され、慢性的に腎臓の機能が低下していくさまざまな腎臓病をまとめて表します。
(1)尿異常、画像診断、血液検査などで腎障害が明らかに認められる場合。(2)腎臓のろ過機能(腎機能)の低下が認められる場合。(1)(2)のいずれか、または両方が3カ月以上持続する場合にCKDと診断されます。
血管のダメージは腎臓に悪影響をもたらす
無症状のまま気付かぬうちに進行してしまう慢性腎臓病ですが、そもそもなぜ機能が低下するのでしょうか。
「腎臓は毛細血管のかたまりなので、血管が悪くなるような生活習慣病が腎臓にダメージを与えます。高血圧や糖尿病、脂質異常症も、無症状で進行する病気です。それらを放置することで、腎機能も低下していくのです」と川嶋先生は警鐘を鳴らします。
腎臓は、老廃物を含んだ血液をろ過してきれいにし、必要な成分を再吸収したり尿を作ったりしています。
それを担っているのが小さなネフロンという組織です。
ネフロンの中の糸球体は毛細血管を丸めたような構造をしていて、生活習慣病などで血管がダメージを受けると悪影響が出ます。
とはいえ、片方の腎臓にネフロンは約100万個あるため、少々壊れても他のネフロンでカバーできます。
結果として、腎不全の一歩手前の状態になるまで、自覚症状が出ないことが多いのです。
腎臓の仕組み
正常な腎臓の内部
1つの腎臓に約100万個ある糸球体で血液をろ過しています。ろ過した尿のもとの液体が尿細管を通ることで尿が作られる仕組みです。
炎症を起こしている腎臓の内部
腎臓はたんぱく質のような身体に必要な成分を再吸収していますが、機能が低下すると再吸収できず、たんぱく尿が出るようになります。
背中の腰の辺りにこぶし大の腎臓が左右1つずつ位置し、血液をろ過してきれいにし、尿を作って老廃物などと一緒に体外に排出しています。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史