「慢性腎臓病」になったら手遅れ! 健康診断での異常は放置せず、「腎臓」に負担をかけない生活習慣を

気候が涼しくなり始めると、つい水分補給を忘れがち。また、歳を重ねるにつれて喉の渇きを感じにくくなるので、水分を摂る機会も少なくなってしまいがちです。そんなとき、ダメージを受けている臓器が「腎臓」です。そこで今回は、東京医科大学病院腎臓内科主任教授の菅野義彦(かんの・よしひこ)先生に「腎臓に負担をかけない生活習慣」についてお聞きしました。

【前回】気付いたら手遅れ...になる前に! 体の濾過装置「腎臓」の仕組みと腎機能低下「チェックリスト」

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健診の異常な数値は放置しないで

早めの受診

自覚症状に乏しく気付きにくい慢性腎臓病は、尿検査のたんぱく尿と血液検査の推算糸球体濾過量(eGFR)の数値異常が、「3カ月以上続くこと」が診断の目安とされています。

健康診断などを受けたときに、たんぱく尿や推算糸球体濾過量の数値は調べられるでしょう。

異常値を見逃さないことが重要になります。

たんぱく質は体にとって非常に大切なので、普通は腎臓からも体外へ排出されないようになっていますが、障害を受けた腎臓からは漏れだして、たんぱく尿として検出されます。

ですから尿たんぱくが陽性であれば、腎臓に障害がある可能性があるということになります。

たんぱく尿や推算糸球体濾過量の数値で、正常値の30%を下回ると腎不全になります。

その段階で初めて、むくみやだるさなどの症状を感じる方もいます。

60%や50%の低下では、自覚症状に乏しいのが一般的ともいえます。

「健康診断で異常な数値が出ても、よほど数値が悪くないと医療機関を受診しないケースが多いのが実情です。しかし、慢性腎臓病になると腎機能を元に戻すことはできません。早い段階で診断を受け、腎機能を守ることが重要です」

まずは自分の腎臓の状態を把握するために、年に1回の健康診断を必ず受けましょう。

そして、腎機能の検査で異常が見られたら、かかりつけ医に相談するか、腎臓病専門の医療機関を受診して、腎臓を診てもらうことが肝心です。

「腎機能を悪化させないためには、生活習慣の見直しが重要になります。とはいえ、自己流の判断はよくありません。専門医に相談しましょう」

調味料は食卓に置かない

減塩のコツの習得も大切

慢性腎臓病にならないように、日頃から生活習慣を見直して予防することも大切です。

「腎臓を守るには、こまめな水分補給が欠かせません。すでに慢性腎臓病になっている方も、早期段階では水分制限はありません。むしろ水分不足の方が症状を悪化させます。また、腎臓を守るために塩分も控えていただきたい。塩分の摂り過ぎは、腎機能を低下させるのです」と菅野先生は警鐘を鳴らします。

塩分の多い食事をすると高血圧になり、それが腎機能に大きな負担をかけることになります。

腎臓には、塩分(ナトリウム)を排出する働きがありますが、腎機能が弱っているとうまくいきません。

塩分過多の食事→高血圧→腎機能低下→塩分の排出能力が落ちる→高血圧→腎機能低下と悪循環に陥りやすいのです。

「塩分の目安は1日小さじ2杯まで、腎機能低下や高血圧の人は1日小さじ1杯まで。食卓に調味料を置くのはやめて、だし汁やすだちなどで味付けの工夫をしましょう。患者さんには揚げ物のソースをやめることをおすすめしています」と菅野先生。

ソース味をレモン味へ、しょうゆ味をだしの味へ。

そんな心がけが高血圧改善に役立ち、腎機能を守ることにつながります。

もちろん、これまでの生活習慣をすぐに変えるのは大変ですが、1~2カ月程度続けていると慣れてくるそうです。

生活習慣を見直して腎臓を守りましょう!

《晩夏ですが、まだまだ熱中症にご注意》

8月下旬になると暑さは和らいできますが、日中の気温が25度以上になって室内の温度が高まることもあります。

環境省の「暑さ指数」の運動に関する指針で21~25度は「注意」で、積極的な水分補給が推奨されています。

晩夏も油断せずにこまめな水分補給を心掛けましょう。

腎臓に負担をかけない生活習慣

毎日の食事に、ひと工夫

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腎臓を守るには減塩が大切です。調味料はもとより、麺類などの食材の成分表示もチェックして塩分を管理しましょう。

適切な水分補給を心がける

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加齢に伴い喉の渇きを感じにくくなります。喉が渇いていなくてもこまめに水を飲みましょう。

何より大事なのは「続けること」です

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減塩や血圧管理などは継続することが大切です。継続を忘れないように、カレンダーに記録をつけるのも方法の一つです。

血圧も記録しておきましょう

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高血圧は腎機能低下を後押しします。高血圧と診断されたら、朝晩の家庭血圧測定と記録による血圧管理が重要といえます。

その他に
腎機能低下が進むとたんぱく質などの食事制限も。主治医の指示に従いましょう。

治療が必要になったら 
腎不全保存期と末期腎不全

腎不全保存期

慢性腎不全で体内に尿毒素や余分な水分が蓄積し、尿毒症状が出ているものの、透析を受けなくてもよい状態。

降圧薬による血圧管理、塩分と水分の制限によって余分な水分の蓄積を防ぐ、たんぱく質・リン・カリウムの摂取制限とエネルギーの十分な摂取などの食事療法、症状に応じた薬剤の投与などによって腎不全の進行を遅らせることができます。

末期腎不全

腎機能がほぼ失われた状態が末期腎不全で、体内の老廃物を尿と一緒に排出できなくなるため、食欲低下、むくみ、頭痛、息切れなど、さまざまな尿毒症の症状を引き起こし日常生活にも支障が出てきます。

それらを解決するため、人工透析療法(血液透析、腹膜透析)や、他人から腎臓の提供を受ける腎移植の治療が行われています。

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取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

<教えてくれた人>
東京医科大学病院腎臓内科主任教授
菅野義彦(かんの・よしひこ)先生
慶應義塾大学医学部卒。米国留学、埼玉医科大学腎臓内科、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て2013年より現職。東京医科大学病院副院長を兼任する。

この記事は『毎日が発見』2021年9月号に掲載の情報です。

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