熱中症に注意しなければならない季節がやってきました。コロナ禍のステイホームだからといって油断は禁物。熱中症で救急搬送される人の約半数は、屋内で発症しています。また、高齢になるほどなりやすく、男性よりも女性の方が死に至るケースが多いのも特徴です。そこで今回は、東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム協力研究員の野本茂樹(のもと・しげき)先生に「熱中症を未然に防ぐコツ」についてお聞きしました。
救急搬送の半数は屋内で熱中症に
梅雨冷えから真夏の高温へ一気に季節が移るような時期には、体の調子が崩れがちです。
中でも、注意しなければいけないのが熱中症といえます。
室内で過ごす時間が長く汗もあまりかかない状態でも、熱中症は起こります。
急速に命に関わる事態につながるので注意しましょう。
「救急搬送される方の約半数は、屋内で熱中症になっています。また、50歳以上の熱中症で入院された方の半数以上は、日常生活の中で発症しているのです。家の中でも熱中症は起こるという認識が必要といえます」と野本茂樹先生は警鐘を鳴らします。
朝の早い時間帯は比較的気温が低いため、クーラーや扇風機を使用せずに洗濯や掃除などの家事を行うことがあります。
あまり暑いとは感じないし、汗もかかなければなおさらでしょう。
結果、水分補給もせずに熱中症を引き起こし、めまいや立ちくらみに見舞われるようなことが起こるのです。
気分が悪いと感じたときには、危険な状態と認識しましょう。
この段階で、早めに部屋を涼しくしてソファなどに横になり水分補給をしないと、脱水症状が一気に進行して重症化してしまうのです。
「熱中症には、軽症、中等症、重症の3段階がありますが、ご高齢になるにつれて、中等症以上の割合が増えるのです。しかも、男性よりも女性の方が亡くなるケースが多い。家の中だから安心と過信するのは禁物です。熱中症はご自身の心がけで未然に防ぎましょう」と野本先生は話します。
ご存じですか?
「熱中症」は3つの段階に分けられます
1.軽症
熱失神(めまい、立ちくらみなど)、熱けいれん(脚や腕の筋肉にけいれんが起こる=こむら返り)などの症状が出る。
※軽症でも高齢になると進行が早いため症状に気付いたら早めに対処を。放置は厳禁。
2.中等症
頭痛、めまい、吐き気、激しい喉の渇きなどの症状に軽い意識障害を伴う。
3.重症
中等症の症状に加え、応答が鈍い、意識がない、言動がおかしいなどの意識障害、発汗停止などを伴う。
夏には毎日チェックを!
就寝前に行うカンタン診断
日中に調子が悪い人は対応策をとることができますが、夜になって、日中の脱水症状から熱中症を引き起こす人もいるのでチェックしましょう。
□ 食欲がない
□ 手足が冷たい
□ 舌が乾いている
□ 親指の爪を押して離すと、赤みが戻るのに3秒以上かかる
□ 皮膚をつまんで離すと、元に戻るのに3秒以上かかる
□ わきの下が乾いている
上記のうち一つでも当てはまるときには、脱水症状を起こしている可能性が高いといえます。救急車を呼ぶか、本人の意識がしっかりしている場合には、体を冷やすなどの対応をした上で、救急安心センターに電話をして相談を。
暑さも喉の渇きもないが体温が急上昇してしまう
なぜ高齢になると熱中症になりやすいのでしょうか。
原因の一つは、暑さを感じにくくなることにあります。
「人間の皮膚には、冷たさを感じる冷受容器と熱さを感じる温受容器があります。もともと冷受容器よりも温受容器の方が数は少ないのですが、高齢になるにつれて受容器の数が減るため、暑さや寒さを感じにくいのです」
暑いと感じないのでクーラーをつけないことに加え、喉の渇きの信号を出す脳の神経の機能も低下します。
さらに、気温が上昇したときに、高齢者は汗をかきにくいので体温が急速に上がりやすいのです。
そのため、脱水症状を起こしやすく室内でも熱中症に。
「体温調節は自律神経が行っていますが、その働きも年とともに衰えます。さらに、汗をかく汗腺の数も少なくなるので、ますます体温調節がしにくくなるのです」
高齢者が熱中症になりやすい6つの理由
(1)暑さ、寒さを感じにくい
温度を感知する皮膚の表面の温受容器や冷受容器の数が減少し、気温の変化に鈍くなる。
(2)喉の渇きを感じにくい
体内の水分不足を察して喉の渇きを感じさせる指令を出すのは脳。その機能が低下する。
(3)体温の変動が激しい
高齢者の気温上昇に伴う体温上昇は、20代の2~3倍も大きいと研究報告されている。
(4)発汗量が少ない
加齢や動脈硬化で皮膚への血流量が減少し、汗腺の数が減って汗をかきにくくなる。
(5)体内の水分量が少ない
体の水分備蓄ともいうべき体液が、高齢者は若い人よりも少なく、脱水になりやすい。
(6)回復に時間がかかる
水分補給をしても腎機能の低下で尿になりやすく、脱水症状を改善するのに時間がかかる。
年代別の熱中症の救急搬送状況
年代別の救急搬送状況を見ると、80代が1248人と最も多く、次いで70代が1114人となっていました。人口10万人あたりの救急搬送人員で見ると、70代以上になると急激に多くなっており、60代以下では60代、20代、10代が多くなっていました(東京消防庁のデータより 2019年6~9月)。
【次回】熱中症は自宅でいる時になることが最も多い! この夏、予防のためにやっておきたいこと
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史