首や肩、背中の「こり」に悩まされていませんか? その原因は、「背骨の中心となる胸椎にあるんです」と、テニスボール矯正の考案者である酒井慎太郎さんは言います。そこで、酒井さんの著書『肩こり・首痛完全解消! 10秒胸椎のばし』(KADOKAWA)から、毎日10秒続けるだけで効果がある「胸椎のばし」のメリットや具体的な方法をご紹介します。
胸椎は背骨という柱に"しなやかさ"をもたらしている
体を痛みやこりと縁のないものにしていくには、胸椎にしなやかさを取り戻すことが不可欠。
では、どうすれば胸椎の動きをよくすることができるのかを見ていくことにしましょう。
ただ、その前に、胸椎という部位がわたしたちの体においてどんな役割を果たしているのかをざっと述べておきたいと思います。
「はじめに」のところでも述べたように、人間の背骨は、7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎と仙骨、尾骨で構成されています。
また、それぞれの椎骨の間には、座布団のように椎間板が挟まっています。
つまり、背骨は1本の硬い棒ではなく、これらの骨たちが連なり合いながらしなやかに動くしくみになっている。
そして、このしなやかな動きがあるからこそ、体重の10%もある重い頭を支えることができているのです。
東京スカイツリーや法隆寺の五重塔の心柱のように、柱をしなやかに動かすことで上からかかる重みを分散させているわけですね。
じつは、胸椎のいちばん重要な役割は、背骨という柱にこの〝しなやかさ〟や〝柔軟性〟をもたらしている点なのです。
これは、胸椎の椎骨の構造に秘密があります。
胸椎の椎骨は、腰椎の椎骨と比べるとよく動きます。
背骨の椎骨からはそれぞれ『棘突起(きょくとっき)』『横突起(おうとっき)』と呼ばれる骨が出ているのですが、腰椎の棘突起や横突起は後ろへ大きく突き出ているため、これらの骨がストッパーとなってあまり動かない構造になっています。
これに比べ、胸椎の棘突起・横突起は小さく寝ているような構造になっていて、そのため前後左右によく動くのです。
とくに、胸椎の椎骨が優れているのは"回旋性"です。
上体を後ろへ回す柔軟性は、胸椎の椎骨ひとつひとつがしなやかに回旋しているからできること。
体をひねって後ろへ振り向くとき、わたしたちは腰を回しているように思いがちですが、じつは腰椎よりも胸椎をメインに回旋させているのです。
そして、この左右の回旋性をはじめとした胸椎の動きのよさが、背骨全体にしなやかさをもたらし、背骨の動き、体の動きをよくすることへとつながっているというわけです。
私は、上半身の体の動きは、胸椎の動きによって支えられていると言っても過言ではないと思っています。
すなわち、胸椎がちゃんと可動域をキープして動いているかどうかで、日々の体の動きのスムーズさが決まってくるのです。
【胸椎の構造と特徴】
【特徴】
・左右によく回旋する
・荷重を分散させるクッションの役割を果たす
・背骨にしなやかさや強さをもたらす
胸椎はクッションのように働いて体を守っている
また、胸椎の動きは、背骨の荷重分散システムをきちんと稼働させるうえでも、たいへん重要な役割を担っています。
それというのも、左右への回旋をはじめ、胸椎が微妙に動くことによって荷重負担を分散させているのです。
たとえば歩いているときに、バランスを崩してちょっとよろけたとしましょう。
そんなとき、わたしたちは無意識に体をひねったりくねらせたりして防御動作をとりますが、そうやって体をひねった際に12個の胸椎が連なるように回旋して、上体からかかる重みを逃がしているのです。
言わば、回旋の動きをすることによって、背骨にかかる荷重プレッシャーを軽減させているわけですね。
つまり、ことあるごとに胸椎が微妙に動いて荷重負担を分散させているから、わたしたちは非常に重い頭を載せながらも、いろいろな行動をとることができるのです。
それに、このように胸椎の上下左右にわずかな可動域があると、たとえ急に大きな力がかかっても、頸椎や腰椎へのダメージが少なくて済むのです。
すなわち、大きな負荷がかかったときに胸椎の動きがクッションのように働いて、その力を吸収してくれることになる。
そして、こうした『胸椎のクッション機能』がちゃんと働いていれば、頸椎や腰椎を痛めるリスクも少なくなり、首痛や腰痛にならずに済むわけです。
もっと言えば、私は、胸椎のダメージ吸収作用は、頸椎や腰椎だけでなく、骨盤、ひざ、足首などの全身のすべての関節に影響をもたらしていると考えています。
『胸椎のクッション機能』がしっかり働いていれば、全身の各関節にかかる負担は確実に減ります。
ですから、体の各関節はより長持ちすることになるでしょうし、不意に衝撃を受けたような場合もダメージが吸収され、体を痛めたりケガをしたりすることが少なくなるでしょう。
このような点で、"胸椎にしなやかな可動域があること"は、わたしたちの体を守ることにもつながっているのです。
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