食事をしているときに「カクッカクッ」などと顎の骨がなることはないでしょうか。音だけならばよいのですが、ある日突然、「ガクッ!」と大きな音とともに強い痛みが走り、口を開けることができず、食事もままならなくなるのが、顎関節症の典型的なパターンです。今回は顎関節症治療のエキスパート・西山暁先生に顎関節症にもつながる「TCH」について教えていただきました。
歯ぎしり改善で顎の筋肉の負担軽減を
予防では原因を知ることが大切ですが、顎関節症には複数の要因が絡んでいます。その一つが、生活習慣による顎の筋肉や関節への負荷です。
「食べたり話したりするときに、顎の筋肉は下顎を持ち上げて瞬発的に動きます。瞬発力に優れている半面、持続的な負荷は苦手です。しかし、多くの方は気づかぬ間に持続的な負荷をかける生活をしています。見直すことが大切です」。
持続的な負荷で最も注意しなければいけないのが「歯ぎしり」や「食いしばり」です。睡眠中に上下の歯をこすり合わせる歯ぎしりは、大きな音を伴い、長期間行うと歯がすり減るほど強烈な力で行われます。顎関節や筋肉への負荷は非常に大きく、顎関節症の一つの要因となっているのです。
「睡眠時無呼吸症候群の人は歯ぎしりを併発しやすいので注意が必要です」と西山先生。
睡眠時無呼吸症候群は、喉の気道が舌の根元などで塞がり、10秒以上呼吸が止まります。
無意識のうちに覚醒して呼吸が再開されますが、この覚醒時に筋肉が動いて歯ぎしりが誘発されやすいのです。
さらに、睡眠中の胃酸の逆流がある人は食道が刺激されてしまうと、顎の筋肉の活動量も上がります。
また、多量飲酒は睡眠の質が悪く眠りが浅くなるため、やはり、顎の筋肉の活動量が上がり、歯ぎしりや食いしばりにつながりやすいそうです。
「歯ぎしりや食いしばりとは異なり、日中起きているときに歯をかみ続けている人がいます(TCH)。ご本人は気付かないことが多い。歯科で指摘されて初めて知る人もいます」と西山先生は話します。
スマートフォンの操作などはうつむき加減で行うため、下顎は上顎にくっつきやすい姿勢になります。
このとき上下の歯が当たっていることがあるのです。うつむき加減での無言の作業は要注意といえます。
また、子どものころに「口をきちんと閉じなさい」と両親から指導を受け、口を閉じると同時に歯を合わせるのが癖になっている人もいます。
「日中の歯を合わせる状態は、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりよりは力が弱いのですが、持続されることで顎の筋肉には大きな負担となります。歯を合わせる癖は改善しましょう」。
改善策の一つとして、1時間に3〜4回程度歯の状態をチェックしてみましょう。
そのときに歯と歯が合わさっていれば、口を開けて歯を離すようにするのです。
それを毎日繰り返すことで、歯と歯を合わせる回数を減らしていきます。
一般的に4〜6週間で、歯と歯を合わせる癖がなくなる人が多いそうです。
「顎の筋肉の緊張が強いと、頭痛のような痛みにつながることがあります。医療機関を受診して頭の痛みの原因が分からない人の中には、顎の筋肉が原因だった人もいるのです。顎関節症に限らず、顎の筋肉を守ることは重要です」と西山先生。
TCHの予防以外にも、ほおづえをつくなど、左右がアンバランスになるような姿勢も、顎には負担です。
顎関節症を予防するには、日頃から顎の筋肉を守ることや食いしばりを意識することが大切。
そして、万が一、口が開かなくなったときには、早めに歯科を受診して改善しましょう!
覚えておきたいキーワード①TCH (Tooth Contacting Habit)
食事のとき以外に上下の歯を接触させ続ける癖のことをTCHと称します。
TCHがあると無意識のうちに歯をかみ続けてしまうため歯や歯肉、顎関節に悪影響を及ぼします。
TCHは改善が望ましい癖ともいえます。
覚えておきたいキーワード ②ブラキシズム
歯ぎしりや食いしばりの総称です。
歯ぎしりは睡眠中に生じやすいことは一般的によく知られていますが、日中起きているときにも、歯ぎしりや食いしばりをしている人がいて、口腔内や顎関節にダメージを与えています。
TCHもブラキシズムの一つです。
構成/高谷優一 取材・文/安達純子