「咳が1週間くらい長引いても自然に治るのを待つ」というあなた。放置していると全身に悪影響を及ぼすかもしれません。毎月2000人以上の患者を治療してきた呼吸器の名医・杉原徳彦先生は、実は悪さをしているのは「のどではなく鼻の奥」と言います。そこで、杉原先生の新刊『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)から、「長引く咳」の正体から治療法までを毎日9:30に連載形式でお届けします。
鼻は気づかないうちに悪くなっている
じつは、鼻が原因の長引く咳は、患者さん本人は、自分がアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎をもっていることに、気づいていないケースが少なくありません。
咳は出ているものの、鼻水や鼻づまりなどをそれほど感じることはなく、日常生活において「鼻」で困っていない人が多いのです。
とくに、通年性のアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎は、子どものころに発症しているケースが多くあります。
幼いころは鼻の穴が小さいこともあって、鼻水や鼻づまりなどの不調をしばしば感じやすくなります。
しかし、大人になるにつれて鼻の穴も大きくなり、炎症が残っていても感じづらくなりがちです。また、多少の不調があっても、ずっと続いていれば、その状態が当たり前に感じてしまいます。
そのため、たとえ鼻の疾患があったとしても、自分では気づきにくいのです。
鼻の炎症を放置っておくと「ぜんそく」になる
そして、本人が日常生活でとくに困っていない場合、何かのきっかけで医療機関に行っても、「軽い鼻炎をもっていますね」くらいで終わってしまい、治療に至らないケースもあります。
しかし、呼吸器内科が専門の私からすると、どんなに軽いアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎であっても、「治療をしたほうがいい」と考えています。
なぜなら、そのままでは長引く咳はまったくよくならず、それどころか、放置し続けることで咳ぜんそくや気管支ぜんそく、さらには、ほかの疾患につながっていきかねないからです。
このことは、近年、さまざまな研究データによっても明らかになっています。たとえば、気管支ぜんそくを発症している患者さんで、アレルギー性鼻炎を合併している割合は6~7割といわれています。
また、気管支ぜんそくの患者さんの慢性副鼻腔炎の合併率は、だいたい4~6割とされています。こうしたデータから、鼻の疾患と気管支ぜんそくの合併率は、100%に近いと思います。
実際、当院に通院されている、咳ぜんそくや気管支ぜんそくの患者さんの話を聞いても、過去にアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎と診断されたことがある人が、結構いらっしゃいます。
鼻の炎症はこうして咳を引き起こす
では、なぜ鼻が悪いと、咳ぜんそくや気管支ぜんそくになるのでしょうか。そのメカニズムは、じつはとてもシンプルです。
鼻からのど、気管支、肺にかけては、1本の「気道」としてつながっています。
気道とは、簡単にいえば「空気の通り道」です。鼻の穴から入った空気はこの気道を通って鼻腔から咽喉頭、気管支を経て肺へと入っていく道なのです。
そして、ひと続きでつながっているのですから、当然、鼻に生じている炎症性の物質が、鼻からのど、のどから気管支へと流れ、気管支に影響を及ぼす可能性が高くなります。アレルギー性鼻炎も慢性副鼻腔炎も、鼻の中で炎症が起きている状態です。そのため、そこにはたくさんの炎症性の物質があります。
そうした物質を含んだ鼻水などが下の気道へと流れていくのです。
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4章にわたり、長引く咳の原因と対策を網羅。咳対策用の枕、マスク、お茶の選び方などセルフケアの実践方法も紹介されています