グルグル回る「回転性めまい」で多いのが「良性発作性頭位めまい症」/難聴・めまい

「難聴で相手の話が聞き取りにくい」「めまいがつらくて気分までふさぎこんでしまう」など、難聴やめまいに悩む人はどの年齢にもいて、悪化すると生活に支障が出ることがあります。「急に耳が聞こえなくなった」という場合は、すぐに受診したほうがいいことも。難聴やめまいなどの症状や治療法、受診の目安、日ごろの注意点などについて、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科学教授の肥塚泉先生に聞きました。

グルグル回る「回転性めまい」で多いのが「良性発作性頭位めまい症」/難聴・めまい pixta_24242862_S.jpg前の記事「「グルグル」「フワフワ」「フラフラ」「クラッ」など、「めまい」にはさまざまなタイプがあります/難聴・めまい(8)」はこちら。

 

●「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」は30秒から1分ほどで治まる「回転性めまい」

めまい患者の半数以上を占めるのが「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」という耳が原因で起こる「めまい」です。どんなときにめまい起こるかというと、「朝、寝床から起き上がったとき」「寝返りを打ったとき」「物を取ろうとして上を見たとき」「人に呼ばれて急にふり向いたとき」など。頭の位置を変えた際に、グルグル目が回るような「回転性めまい」が起こります。しかし、耳鳴りや難聴といった耳の症状はありません。 

「グルグルと目が回る症状は激しく、吐き気や嘔吐などの症状を伴うことがあります。その症状から不安や恐怖を覚える人もいるようですが、めまいはおよそ30秒から1分ほどで治まるのが特徴です。病名に『良性』とあることからも分かるように、自然に治癒することが多い病気ですが、繰り返し起こる場合もあります」と肥塚先生。

 
●「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」はこうして起こる

耳の「三半規管」は、体の平衡機能を感知するセンサーの働きをしています。三半規管の内部はリンパ液で満たされており、その中に「感覚細胞」があります。感覚細胞はリンパ液の流れ方から、頭や体の動く方向、速度などを感じ、脳に伝達しています。「耳石器」も、同様に体の動きを感知する役割を担っています。耳石器にある耳石が三半規管に入り込むと めまいが起こります。

例えば、閉経後の50歳代から60歳代以降の女性や骨粗鬆症の人の場合は、カルシウム不足のため、耳石がもろくなりはがれやすくなっています。「はがれた耳石は三半規管のリンパ液に入り込み、頭位を変えるたびに三半規管の中で移動するようになります。耳石が移動するとそれに伴ってリンパ液が流れて感覚細胞を刺激するようになります。頭を動かしていないのに、『動かしている』と間違った情報を脳に伝えてしまうのです」と肥塚先生。

 
●「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」が起きやすい人の特徴

 ・閉経後の50歳代から60歳代以降の女性
 ・寝返りを打たない人
 ・高齢者で長期に療養をしている人
 ・手術を受けた人で安静が必要な人
 ・運動不足で頭を動かさない人
 ・慢性中耳炎だった人
 ・交通事故などで頭にケガをした人
 ・結核の治療薬のストレプトマイシンを服用したことがある人

 
●「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」でめまいが続くときは一度、受診を 

めまいが気になったときには耳鼻咽喉科を受診します。既往歴やめまいの症状についての問診、眼振(目がけいれんのように動いたり揺れたりすること)があるかどうか、聴覚の検査、必要に応じて頭部CT、MRIなどの検査も行われます。「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」は、これらの検査で診断がつくことが多いです。

めまい以外に手足のしびれや頭痛などをともなうときは、脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などの可能性があります。高血圧や糖尿病などの既往歴がある人は、それが原因でめまいが起こることがあるので、一度、受診をして検査を受けましょう。診断の後に吐き気やめまいが激しいときは内服薬や点滴を病院で受けます。

 
●「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」の治療の基本は浮遊耳石置換法(エプレイ法やレンパート法)など

「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」の治療では病院で浮遊耳石置換法(エプレイ法やレンパート法)を行います。浮遊耳石置換法とは、横たわった状態で頭や体を動かして耳石を元の位置に戻す治療法です。頚や腰に整形外科的な疾患があり、浮遊耳石置換法の施行が困難な場合は、家で行う「寝返り体操」がおすすめです。1カ月ほど体操を続けていくと、めまいの発作の回数も減ります。また予防効果も期待できます。

「良性発作性頭位めまい症」は寝返り体操で治す

(1)布団やベッドの上にあおむけに寝て1から10まで数える。

グルグル回る「回転性めまい」で多いのが「良性発作性頭位めまい症」/難聴・めまい DT-7.jpg

 

(2)寝返りを打つように体を左に傾けて1から10まで数える。

グルグル回る「回転性めまい」で多いのが「良性発作性頭位めまい症」/難聴・めまい DT-8.jpg

 

(3)再びあおむけに寝て1から10まで数える。

グルグル回る「回転性めまい」で多いのが「良性発作性頭位めまい症」/難聴・めまい DT-9.jpg

 

(4)寝返りを打つように体を右に傾けて1から10まで数える。

グルグル回る「回転性めまい」で多いのが「良性発作性頭位めまい症」/難聴・めまい DT-10.jpg

ポイント

・1日に2度、起床時と就寝時に(1)〜(4)を10回行う。
・左に寝返りを打ったときに、めまい症状が強い場合は右から開始してもよい。
・腰が痛む人は、(2)と(4)は体ごとではなくて、頭を傾けるだけでもよい。

 

●マッサージ器の振動が原因?

「良性発作性頭位めまい症」を起こしたAさんの例

60歳代女性のAさんは以前からひどい肩こりがありました。たまたま通販番組で見かけて購入したのが、手で持って肩の痛むところに当てて振動でコリを治すマッサージ器。機械から伝わる振動が心地よく、首筋から肩にかけて毎日使っていました。使用から1カ月たった頃、朝、起き上がろうとすると、急に天井がグルグルと回転する感覚に陥りました。周りの景色に目を移すと景色もグルグル回っていて、目を開けていられない状態に。Aさんは頭を動かすとグルグル回ることに気づき、頭を動かさないように静止していたら、やがてめまいが治まりました。

急いで内科を受診したところ、耳鼻咽喉科に行くように言われました。耳鼻咽喉科では医師から、「マッサージ器の振動で耳の奥にある耳石がはがれて、三半規管に入りこんだためにめまいが起こったのではないか」と言われ、めまい止めの点滴を受けました。Aさんにはひどい腰痛があったため、家で行う「寝返り体操」を教わりました。それから毎日、朝、昼、夜に「寝返り体操」を実行。初めは多かっためまいの回数が、1、2週間で少しずつ減少し、1カ月後には完全になくなりました。Aさんはその後もめまい予防のために「寝返り体操」を毎日続けています。

 

次の記事「回転性めまいが特徴の「メニエール病」は耳の症状「難聴や耳鳴り」を伴う/難聴・めまい(10)」はこちら。

取材・文/松澤ゆかり

 

 

<教えてくれた人>

肥塚泉(こいづか・いずみ)先生

聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科学教授。同大学卒業後、大阪大学医学部耳鼻咽喉科、米国ピッツバーグ大学医学部耳鼻咽喉科などを経て2000年より現職。「めまい外来」を担当し5万人以上の診察にあたる。日本耳鼻咽喉科学会(理事、評議員、専門医)、日本めまい平衡医学会(理事、専門会員、評議員、めまい相談医)。著書に『図解 専門医が教える!めまい・メニエール病を自分で治す正しい知識と最新療法』(日東書院)などがある。

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP