「難聴で相手の話が聞き取りにくい」「めまいがつらくて気分までふさぎこんでしまう」など、難聴やめまいに悩む人はどの年齢にもいて、悪化すると生活に支障が出ることがあります。「急に耳が聞こえなくなった」という場合は、すぐに受診したほうがいいことも。難聴やめまいなどの症状や治療法、受診の目安、日ごろの注意点などについて、聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科学教授の肥塚泉先生に聞きました。
●聴覚は私たちが持つ感覚の一つ
私たちは周囲のさまざまな音を耳で聞いています。この音を聞く感覚を「聴覚」といいます。聴覚は「五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)」の一つにも数えられていて、人間にとって重要な感覚です。「何らかの原因で聴覚が低下し、音が聞き取りにくかったり、あるいは音がまったく聞き取れない状態を『難聴』といいます。難聴は加齢や耳の疲労、ストレスなどさまざまな原因によって起こります。症状や聞こえの状態はさまざまです」と肥塚先生は話します。
●自分のいまの聞こえの状態を確認する
下の「耳の聞こえチェックリスト」を使って、いまの自分の聞こえの状態を確認することができます。自分はまだ若いから聴力は大丈夫だと思わないで、どの年代の人も一度、確認してみましょう。
<耳の聞こえチェックリスト>
いくつ当てはまる項目があるか確認してみましょう。
・最近、聞き間違えが多い
・会話していて相手の話をよく聞き返す
・話し声が大きいと言われるようになった
・後ろから呼ばれたときに気が付かないことがある
・相手の言ったことが聞き取れず推測することがある
・数人での会食や会議などで話が聞き取りにくい
・後方から車が来ても音に気が付かないことがある
・テレビやラジオの音が大きいと家族に言われる
・電子レンジの「チン」という音や玄関のチャイムが聞こえないことがある
・騒音の多いところで過ごす時間が多い
当てはまる項目の数が
・0から2個...いまのところは問題ないですが、様子をみましょう。
・3から4個...耳鼻科を受診するといいでしょう。
・5個以上...すぐ耳鼻科を受診して検査しましょう。
「いまはスマートフォンのアプリでも簡単に聴力を測定することができます。APP storeやPlayストアなどで『聴力検査』を検索すると、アプリがいくつか出てきます。無料でダウンロードできるものもあるので、必要に応じて利用するといいかもしれません。ただし静かな環境での使用が原則です。また得られた結果はあくまでも目安ですので、その結果を過信しないようお願いします」と肥塚先生。
●難聴の3タイプ「伝音(でんおん)難聴」「感音(かんおん)難聴」「混合性(こんごうせい)難聴」
<伝音難聴>
外耳や中耳の障害で起こります。音を集めて内耳に伝える経路で起こる難聴で、早期に治療すれば治りやすいタイプといえます。伝音難聴の一つである「滲出性(しんしゅつせい)中耳炎」は、子どもや高齢者に多い疾患。中耳の粘膜からしみ出てきた液体が中耳の中にたまり、鼓膜や耳小骨が振動しにくくなるせいで聞こえが悪くなります。治療法は、鼓膜を切ったり針で穴をあけたりして内部の液体を排出させます。
音を伝える耳小骨(じしょうこつ)の動きが悪くなる「耳硬化症(じこうかしょう)」も伝音難聴です。男性よりも女性に多く、妊娠、出産がきっかけで発症することがあります。
他にも耳垢がたまって外耳がふさがったり、鼓膜に穴が空いたりして伝音難聴が起こることも。伝音難聴は手術で治ることが多く、完全に治らない場合も補聴器を使うと聞こえが良くなることが比較的多いです。
<感音難聴>
内耳から脳に至るまでの経路の障害によって起こる難聴です。年齢とともに両耳が聞こえにくくなる「加齢性難聴」、ある日突然に片方の耳が聞こえなくなる「突発性難聴」、耳がつまった感じや耳鳴りがして低い音が聞こえにくくなる「急性低音障害型感音難聴」、ヘッドホンで大きな音量の音を聞くことで起こる「ヘッドホン難聴」、ライブ会場などの大音響が原因で聞こえなくなる「急性音響性難聴」などがあります。原因不明の場合もありますが、ストレスや過労が原因となることもあります。
<混合性難聴>
伝音難聴と感音難聴の両方の要素をもつ難聴です。伝音部分である外耳から中耳までの音を集めて伝える部分と、感音部分である内耳の音を電気信号に変えて脳に送る部分の両方に障害がある難聴です。
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取材・文/松澤ゆかり