坐骨神経痛とは、腰から足にかけて延びている坐骨神経が、さまざまな原因によって圧迫されたり、刺激されたりすることであらわれる、痛みやしびれなどの症状を指します。
坐骨神経痛の原因となる病気はいくつかあり、また、症状がよく似ていても坐骨神経痛ではない場合もあります。そこで、平和病院副院長で横浜脊椎脊髄病センター長の田村睦弘先生に症状の見極め方や治療方法、痛みを改善するセルフケアのやり方などを教えていただきました。
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温熱療法や運動、装具...自分に合った治療法を
坐骨神経痛の治療には保存療法と手術療法があり、約9割は保存療法で症状が改善します。年齢や仕事の内容、どのような生活を望むかなど、個々のライフスタイルも考慮して治療方針を選ぶのがいいでしょう。
保存療法には、理学療法(物理療法、運動療法)、装具療法、薬物療法、ブロック療法があります。それぞれの治療法についてみてみましょう。
●物理療法
組織を温めて血管を広げ、痛みの原因となる物質の除去を促す「温熱療法」の他、こわばった筋肉や靭帯をもみほぐし、血行を良くする「マッサージ療法」、専用の装具を使って行う「骨盤牽引」などがあります。物理療法で病気そのものを治すことはできませんが、体の安静を保ち、状態を整え、回復を促す効果があります。
●運動療法
ストレッチや軽い体操を行うことで、筋肉や靭帯の緊張をほぐし、血行を改善します。ストレッチや腰痛体操、ヨガ、水中歩行などの軽い運動を、少しずつでも毎日続けましょう。
運動療法は、効果が出るまでに少し時間がかかりますが、着実な治療法です。ただし、間違った方法で行うと症状を悪化させることがあるので、医師や理学療法士の指導を受けてから行いましょう。痛みが伴わなければ、ジョギングやウォーキングも行ってかまいません。
●装具療法
コルセットで腰椎を支え、安定させることで痛みをやわらげます。コルセットを長期間装着し続けると、筋力が低下してしまうので、痛みの強い期間だけ、1カ月程度を目安に使いましょう。コルセットは薬局や通信販売などでも購入できますが、できれば、義肢装具士が採寸して作るオーダーメイドのものがおすすめです。医師の処方があれば健康保険も適用されますので、担当医に相談してみましょう。
●薬物療法
多くの場合、痛み止めとしてまず「鎮痛薬」が用いられます。また、痛みとともに炎症も抑える「消炎鎮痛薬」、しびれるような痛みや発作的に生じる鋭い痛みなどの神経の痛みを抑える「神経障害性疼痛薬」、筋肉の緊張を緩めて症状を軽くする「筋緊張弛緩薬」、血流を改善して血行を良くする「血流改善薬」、長期にわたる頑固な痛みを軽減させる「慢性疼痛薬」なども用いられます。
●ブロック療法
神経や神経の周辺に局所麻酔薬や抗炎症薬を注射して、痛みの伝達をブロックする方法。痛みがやわらぐことで血流が良くなり、筋肉のこわばりもなくなります。強い痛みに対しても効果があり、薬物療法と併せて複数回実施するのが一般的です。坐骨神経痛に対するブロック療法には、神経に作用する「硬膜外ブロック」「神経根ブロック」の他、腰椎分離すべり症を併発している場合などにおこなう分離部ブロック、背骨の関節(椎間関節)内に注入する「椎間関節ブロック」があります。
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坐骨神経痛の治療は、上記のような保存療法に頼るだけでなく、正しい姿勢や腰に負担をかけない生活の工夫も欠かせません。医師と相談の上、自分の症状やライフスタイルに合わせた治療法を選びましょう。
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取材・文/笑(寳田真由美)