腰痛は多くの日本人を悩ませている病気で、その有訴者率(自覚症状のある人の割合)は男性で1位、女性で2位を占め、年齢が高いほど有訴者率も上がります(平成25年国民生活基礎調査)。それほど腰痛は身近な悩みなのです。
ヨーロッパでは"魔女の一撃"と言われる「ぎっくり腰」。個人差はありますが、何かの拍子で腰に"グキッ"とした痛みが走り、直後は日常生活もままならないことも。
この痛み、どのように対処したらいいのでしょう。予防法はあるのでしょうか。そこで日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医でもある東京都立多摩総合医療センター院長の近藤泰児先生にお話を伺いました。
突然起こる腰への痛み、それがぎっくり腰です
腰痛は痛みの期間により「急性腰痛」(発症から3カ月未満。ただし発症から4週間以上3カ月未満を「亜急性腰痛(あきゅうせいようつう)」として区別することもあります)、「慢性腰痛」(発症から3カ月以上)に分けられます。いわゆる「ぎっくり腰」は、突然起こる腰の痛み、急性腰痛の代表例です。例えば床に落ちたものを拾おうとしたとき、倒れそうになった自転車を支えたとき...など"腰が痛くなったきっかけの動作"が明確であり、その動作の直後からみるみる痛くなるものを一般的に「ぎっくり腰」と呼んでおり、医学用語ではありません。
ぎっくり腰は、以前からの腰への負荷が積み重なっているところに、きっかけの動作が加わって起きると考えられています。急激な強い動作はもちろんのこと、手を伸ばしただけ、立ち上がっただけなど腰への軽い衝撃でも痛みのきっかけになることが多いのです。
二足歩行をする人間は、常に腰に負荷がかかっています。腰椎(ようつい・腰の骨)を形成する骨、椎体と椎体とをつなぐ椎間板(ついかんばん)には常に圧力がかかっていて、立っている状態を1とすると、椅子に座っているときにはその1.4倍、物を持って中腰になると2倍もの圧力になります。日常的な生活動作の中でも常に腰に負荷がかかっているのです。
初めてぎっくり腰を発症すると、痛みに驚き、どうすればいいか分からず不安になることが多いと思います。しかし、ぎっくり腰の強い痛みは通常、2~3日で治まり、数週間で自然治癒することがほとんどです。発症してすぐの痛みが強い時期に無理をして病院へ行かなくても、1~2日程度で痛みが治まってくるようであれば、そのまま様子をみてもよいと思います。ただし歩行が困難で、服用できる痛み止めなどがない場合には、ご近所の病院やクリニック(整形外科ではなくても、内科でも痛み止めは処方してもらえます)を受診した方が良いでしょう。
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取材・文/ほなみかおり
近藤泰児(こんどう・たいじ)先生
東京都立多摩総合医療センター院長、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医、日本整形外科学会認定専門医・認定脊椎脊髄病医。1979年東京大学医学部卒業。都立駒込病院整形外科骨軟部腫瘍外科部長、東京都立府中病院(当時)副院長などを経て、2013年より現職。著書に『腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症 正しい治療がわかる本』(法研)、『わかる!治す!防ぐ! いちばんやさしい腰痛の教科書』(アーク出版)など。