50代女性の約1割の人が悩んでいるといわれる「耳鳴り」。加齢に伴う症状でもあるため、年齢が上がれば耳鳴りに悩む人も増えていきます。しかしいくら「加齢のせい」とはいえ、耳鳴りやめまいなどを放置してはいけません。
耳の不調や改善方法について、JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則先生のお伺いしました。
前の記事「放置してはダメ! 「耳鳴り」「めまい」には自律神経が関係している(1)」はこちら。
ストレスは日常生活にあふれています。親の介護や夫婦関係といった家庭内の問題、職場やご近所づきあいなどの対人関係では、それらのストレスから逃れたくても難しいですね。イライラして眠れない、気分が落ち込む、食欲が湧かない、胃腸の調子がおかしいなど、いろいろな症状に結びつきます。
「過度なストレスを受けることで、自律神経の一つの交感神経が優位に働き続け、血管が収縮して血流が悪くなります。耳は聴覚や平衡感覚を司る器官ですから、耳の奥の内耳の血流が悪くなることで、耳鳴り、めまい、難聴の症状が起こるのです」と石井先生。
一般的に、極度に緊張すると顔が真っ青になるでしょう。交感神経は血管を収縮させる作用があるため、過剰に働くと血流が滞って顔が青白くなってしまうのです。内耳でも、極端なストレスを受けると、顔が真っ青になるように血液が上手く流れなくなります。耳の器官への血流不足は、細胞や神経を傷つけ破綻させ、耳鳴り、めまい、難聴を引き起こすのです。
「年とともに生じやすい加齢性難聴は、近年、動脈硬化と深い関係があることが分かってきました。動脈に余分な脂肪が付いて硬くなり、血流が悪くなるのが動脈硬化です。単に年の性ではなく、血流の悪さも機能低下を助長するのです」と石井先生は警鐘を鳴らします。
加齢性難聴は、耳の奥のかたつむりのような形をした「蝸牛」と、音を伝える神経が変性して起こります。蝸牛の入り口付近は高音を司り、高齢になると入り口付近から変性するため、高音を聞き取りづらくなるのが典型的な難聴です。血流が悪いと蝸牛や神経は、変性しやすくなります。動脈硬化で血流が悪いことに加え、過度なストレスで耳への血流が悪くなっていると、加齢性難聴に拍車をかけることになります。
聴力の低下を「単なる老化」と放置すれば、認知症の発症リスクも高まるので注意が必要です。血流を良くして耳の機能を守ることを意識しましょう。
「もしかしたら加齢性難聴?」セルフチェック
□夜、寝られないほどの耳鳴りがする
□耳鳴りが気になって、他人の声が聞き取れない
□耳鳴りが気になって、自分の声が頭の中に響く(自声音響)
□耳鳴りが気になって、他人の声が頭の中に響く(他声音響)
□食器のぶつかる音、(子どもや孫などの)泣き声などが気になる(音響過敏)
一つでも当てはまる人は直ちに耳鳴りの専門医(耳鼻咽喉科)を受診しましょう。ストレスで、自律神経が不健康な状態にある可能性があります。
重症の加齢性難聴では、ひどい耳鳴りに悩まされることが多くなります。上の五つのチェックのいずれかに当てはまると重症の可能性が大! 単に「年のせいで耳が聞こえにくいだけ」と放置しないように。
耳の構造と働き
耳の奥の内耳は音や平衡感覚を脳に伝える重要な役割を持ちます。内耳がダメージを受けると、耳鳴り、めまい、難聴につながります
1 耳介(じかい) 音(空気の振動)を集める
2 外耳道(がいじどう) 音を共鳴させる
3 鼓膜(こまく) 空気の振動をキャッチする
4 耳小骨(じしょうこつ) 鼓膜の振動をさらに増幅させて蝸牛に伝える
5 三半規管(さんはんきかん) 回転感覚を前庭神経に伝える
6 前庭神経(ぜんていしんけい) 平衡感覚を脳に伝える
7 蝸牛神経(かぎゅうしんけい) 音の信号を脳に伝える(6、7を合わせて聴神経という)
8 蝸牛(かぎゅう) 音の振動を信号に変えて蝸牛神経に送る
9 耳管(じかん) 耳と鼻の奥をつなぐ管
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取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史