首は、約5㎏という人間の頭を支える関節の中でも重要な部位。そんな重い頭を支える首には、大きな負担がかかり、筋肉の疲労やストレスなどによって痛みが生じやすくなります。また、関節からの痛み、骨と骨の間にあるクッションの役割である椎間板からくる痛みのほか、内臓などの深刻な病気が隠れている場合もあるので、手足にしびれがある、眠れないほどの激痛がある、痛みが長引く、高熱を伴うといったときは、要注意です。
さまざまな首の痛みの症状やメカニズム、原因と治療、首の痛みに効果的な運動の方法などを、自治医科大学整形外科教授の竹下克志先生にお聞きしました。
前の記事「「頚椎症」と「頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア」の治療法は「保存療法」から/首の痛み(4)」はこちら。
脊髄障害の場合は早めに手術を検討
頚椎症や頸椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニアで、薬物療法や理学療法などを行っても症状が改善しない場合や、痛みやしびれが強く日常生活に支障を来す、手指の巧緻(こうち)運動障害(箸がうまく使えない、字が書けない、ボタンのかけ外しができないなど細かな作業ができない状態)・歩行障害・排尿障害など脊髄の圧迫による症状がある場合は、手術を検討します。
脊髄の圧迫が続くと手術を行っても回復が見込めない場合があるので、早めに医師と相談して、結論を出す必要があります。
手術方法としては次の2つになります。
●椎弓(ついきゅう)形成術
背中側から行う手術で、脊髄が広範囲に圧迫されている場合や、圧迫箇所が複数ある場合に行われます。首を背中側から切開し、椎弓(脊髄が通る脊柱管を形成している椎骨の一部)に切り目や溝を掘って脊柱管を広げて、脊髄や神経根の圧迫を取り除きます。切り目や溝を掘った椎弓は、再び閉じてしまう恐れがあるので、多くの場合、切り取った骨や人工骨、金属などを埋め込んで固定します。手術の所要時間は約2~3時間です。太い血管の少ない背中側から手術するので、安全性が高く、高齢者に対して多く行われています。
●前方除圧固定術
のど側から切開し、椎間板や椎体の骨棘(こつきょく)を切除して、神経根への圧迫を取り除き、切除後の空間に、本人の骨盤などから採取した骨や人工骨を埋め込み、固定します。頚椎椎間板ヘルニアのように脊髄や神経根への圧迫が1~2か所の場合が対象となります。手術箇所が1か所であれば、手術の所要時間は約2時間です。手術後は骨をしっかり固定するために4週間ほど頚椎カラーを使用します。移植した骨がくっつくまでに時間がかかることがあります。まれに骨がずれて、再手術が必要になることもあります。
首の前方には食道や太い血管があるので、高度な技術が必要になるため、圧迫の範囲が狭くても椎弓形成術を選択する医療機関もあります。
「最近は、ピンポイントの症状に対しては、首にあけた小さい孔から内視鏡を挿入して、患部の画像を見ながら行う内視鏡手術も選択肢のひとつになっています。症状によって向き不向きはありますが、とくに手術に抵抗のある高齢者には体への負担も少なく、ハードルの低い手術になります」(竹下先生)
大事な神経の通り道である首の手術というと「怖い」イメージがありますが、最近では診断方法や治療方法が進み、安全な手術が可能になっています。どちらの手術もほとんど後遺症の心配はなく、症状の改善が見込めます。いずれの手術の場合も保険が適用されます。
「手術を検討するための基準はありますが、最も大事なのは今後どのような生活を望んでいるか? どういう暮らしをしていきたいか? という本人の意思が大事になります」(竹下先生)
次の記事「見逃さないで! 首の痛みに隠れた重大な病気のサイン/首の痛み(6)」はこちら。
取材・文/古谷玲子(デコ)