「頚椎症」と「頚椎椎間板ヘルニア」の治療法は「保存療法」から/首の痛み

首は、約5㎏という人間の頭を支える関節の中でも重要な部位。そんな重い頭を支える首には、大きな負担がかかり、筋肉の疲労やストレスなどによって痛みが生じやすくなります。また、関節からの痛み、骨と骨の間にあるクッションの役割である椎間板からくる痛みのほか、内臓などの深刻な病気が隠れている場合もあるので、手足にしびれがある、眠れないほどの激痛がある、痛みが長引く、高熱を伴うといったときは、要注意です。

さまざまな首の痛みの症状やメカニズム、原因と治療、首の痛みに効果的な運動の方法などを、自治医科大学整形外科教授の竹下克志先生にお聞きしました。

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生活改善と保存療法で様子をみる

首の痛みに手足のしびれが伴う場合は、何らかの病気が疑われます。代表的なのが「頚椎症」と「頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア」です。頸椎椎間板ヘルニアは手の痛みやしびれといった頚椎症と似たような神経根の症状が現れますが、頚椎症が背骨を構成している椎骨が変形して神経根を圧迫するのに対して、頚椎椎間板ヘルニアは椎間板が変形したり中身が飛び出したりして神経根を圧迫します。「頚椎症」と「頚椎椎間板ヘルニア」の診断と治療についてみていきましょう。

 

●診断について

問診では、いつごろから、どのような症状が出てきたか、何をきっかけに起こったか、どういう動作をすると症状が強くなるかなど、詳しく伝えます。診察では、首をどのように傾けると痛みを生じるかを調べる「疼痛(とうつう)誘発テスト」や、感覚、運動、腱反射(筋肉の付け根である腱をハンマーで叩打(こうだ)し、その筋肉が反射的に収縮する状態を観察する検査)などを調べる「神経学的検査」などを行って、圧迫されているのが神経根なのか脊髄なのかを調べます。

脊髄の圧迫が疑われる場合のチェック法に「手を握って開く」を10秒間に何回できるか数える方法があります。手のひらを下に向けて、片方の腕を前に伸ばし、この動作を繰り返します。健康な人ならば10秒間に20回以上、脊髄が圧迫されている場合は、20回以下になります。

また、X線検査で骨棘(こつきょく)や椎骨(ついこつ)の変形があるかどうか、椎間板がつぶれているかどうか、頚椎の不安定性などを調べます。MRI検査では神経が圧迫されているかどうかを調べることができます。

 

●治療について

頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアと診断された場合、重症の脊髄障害がなければ、まずは生活指導と保存療法(薬物療法や理学療法などの外科的手術を行わない方法)が行われます。頚椎症状や神経根症状の場合は、ほとんどが生活指導と保存療法で改善します。主なものは、装具療法、薬物療法、理学療法、神経ブロックです。

■生活改善
日常生活のなかで首の負担がかかる姿勢を改めます
・姿勢をよくする
・15分~30分に1回や休むなど、同じ姿勢を続けない
・エアコンなどの冷気を首に当てない
・入浴で体を温める

■装具療法
激痛がある急性期は、最も楽な姿勢をとって数日安静にしていると、痛みが軽くなります。「頚椎カラー」といわれるコルセットのような装具を2~3週間、ゆるめに首に装着すると、動く際に患部を安静に保ち、首の動きを制限することで、動きに伴う痛みを軽減することができます。神経根の圧迫が原因の場合は、頚椎カラーを装着するだけで、楽になることもあります。しっかり固定するタイプは、この段階で長く使うとかえって痛みを強くする場合があるので、手術後など医師の指導のもとに使います。

■薬物療法
症状に合わせて、薬を使い分けます。最も使用されているのが、炎症を抑える作用がある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬などのほか、張り薬や塗り薬も用いられます。主に使われる薬物は以下のとおりです。

・炎症を抑えて痛みを鎮める: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
・神経に作用する鎮痛薬:神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン)
・痛みが非常に強い場合にも効果がある:医療用麻薬(オピオイド)
・筋肉の緊張を和らげる:筋弛緩薬
・血流を改善して症状を和らげる:循環改善薬
・炎症をさらに抑える:ステロイド薬

■理学療法
神経の炎症により硬くなった筋肉をリラックスさせて症状を軽くします。専用の器具で首を引っ張り上げる牽引療法と、赤外線や可視光線を当てて首を温める温熱療法があります。牽引療法は神経根が圧迫されている場合に効果があります。

■神経ブロック
装具療法、薬物療法、理学療法で症状が改善しなかった場合に、痛みのもとになっている神経の近くに、局所麻酔薬やステロイド薬などを注射し、痛みや炎症を抑える神経ブロックが行われます。神経ブロックは治療効果が高く、1回だけで痛みが完全に消える人もいます。ただし、何度も行うと呼吸困難、血圧低下、糖尿病の悪化などの合併症に陥る可能性もあります。

代表的なものは「トリガーポイント注射」で、指で押したときにとくに痛みを感じる「トリガーポイント(圧痛点)」に神経ブロックを行う方法です。また、「星状神経節ブロック」は交感神経が集まる第7椎骨の前あたりにある「星状神経節」に注射をします。日本整形外科学会のホームページの「日本整形外科学会認定脊椎(せきつい)脊髄病医名簿」で紹介されている医師は、脊椎脊髄専門医として豊富な診療経験をもっているので、相談してみてください。

 

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取材・文/古谷玲子(デコ)

 

竹下克志(たけした・かつし)先生

医師。自治医科大学整形外科教授。1987年東京大学医学部卒業、東京大学整形外科医局長、同大学医学部整形外科准教授などを経て、現職。脊椎(せきつい)外科(とくに側弯症)、痛み、バイオメカ、アウトカムを専門とする。著書に『そうだったのか!腰痛診療: エキスパートの診かた・考えかた・治しかた』(共著、南江堂)

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