日焼けに飲酒・喫煙、パワハラも老化を進める要因に。DNAを傷つける紫外線や酸化ストレスによる老化

紫外線や酸化ストレスによる老化

まずは紫外線の影響について、遺伝子の側面から見てみましょう。

紫外線を受けると、「チミジン・ダイマー」という現象が生じる場合があります。これはDNAを構成する4つの塩基のうちの1つ、チミンが紫外線の影響で異常な結合を起こしてしまう現象です。

チミジン・ダイマーが生じると、適切に遺伝子情報を読めなくなってしまい、皮膚がんを発症するリスクも高まります。そうならないためにも、DNAを傷つけてしまうような紫外線などの環境から皮膚を守る意識を常日頃から持つこと。繰り返しますが、それが老化制御につながります。医療の領域では、「すべての人が日常的に日焼け止めを使うのが理想的」だといわれているほどです。

次に、酸化ストレスについて。酸化は、ヒトの体内全体で起きています。簡単にいえば、酸素原子が分子に結合するのが酸化です。ヒトは呼吸によって体内に酸素を取り込み、食べ物など口から摂取した栄養を燃やして(= 酸化して)エネルギーに変えています。ですが、過度に酸化が引き起こされると、DNAが傷つけられることがある。それが、酸化ストレスです。

健康な状態であれば、ヒトには抗酸化能(活性酸素を除去する能力)があります。しかし、その能力をオーバーするようなレベルで活性酸素が生み出されると、酸化ストレスとなりそのまま体内に蓄積されていく。具体的には、前述の紫外線や放射線、他にも喫煙や飲酒などが酸化の要因になります。要するに、酸化ストレスの原因は日常生活にあるわけです。

そればかりではありません。酸化ストレスの原因には、心理的なストレスも含まれます。むしろこれだけ複雑化した情報社会では、精神的なストレスから体内の酸化が亢進(こうしん)してしまうケースのほうが顕著かもしれません。

会社勤めをしている人が、上司から受けるパワーハラスメントなどはその典型です。私のような研究職でもアカハラ、すなわちアカデミックハラスメントがニュースなどで取り沙汰されています(その点、私は極めて恵まれていて、これまでアカハラなどに遭った経験は全くありませんが)。このようなハラスメントによる精神的なストレスが酸化ストレスとなり、脳内で炎症反応を引き起こすのです。

炎症反応が脳内に起きると、神経細胞に悪影響がもたらされます。すると、たとえば神経伝達物質の1つ、セロトニンの分泌が阻害されたりする。セロトニンとは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、その分泌により気分が安定して幸福感が高まります。逆にいえば、セロトニンの分泌が減少すると、うつ病になるリスクが増えます。いわば、うつ病も老化現象の一種であり、酸化ストレスがその原因の1つであるともいえるのです。

*2 Moskowitz DM, Zhang DW, Hu B, Le Saux S, Yanes RE, Ye Z, Buenrostro JD, Weyand CM, Greenleaf WJ,Goronzy JJ. Epigenomics of human CD8 T cell differentiation and aging. Sci Immunol. 2017 Feb;2(8) :eaag0192.

Zhang H, Jadhav RR, Cao W, Goronzy IN, Zhao TV, Jin J, Ohtsuki S, Hu Z, Morales J, Greenleaf WJ, Weyand CM, Goronzy JJ. Aging-­associated HELIOS deficiency in naive CD4〈sup〉+〈/sup〉T cells alters chromatin remodeling and promotes effector cell responses. Nat Immunol. 2023 Jan;24(1):96-109.

 

早野元詞

慶應義塾大学医学部整形外科学教室特任講師。生命科学博士。 専門は老化、エピジェネティクス。環境やストレスに応じた遺伝子発現パターンと細胞のアイデンティティを決定する後天的な老化制御に興味を持っており、化合物、ゲノム編集、デバイスによる老化の定量とコントロールを目指している。2005年よりDNA複製タイミングの制御因子の単離と解析に従事し、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科博士を取得。2011年から2013年まで東京都医学総合研究所ポスドクとして研究に従事。2013年より米ハーバード大学医科大学院のデビット・A・シンクレアのラボへ留学。2014年よりHuman Frontier Science Program (HFSP) long-term fellowおよび日本学術振興会海外特別研究員。シンクレア研究室にて新規老化モデルICEマウスを構築。2017年より慶應義塾大学医学部、特任講師。

※本記事は早野元詞著の書籍『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新聞出版)から一部抜粋・編集しました。
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