80歳までに日本人の3人に1人が発症する帯状疱疹。中でも猛暑から体調不良に陥り、免疫力が低下しやすい夏に発症が多くなります。今回は、東邦大学医療センター大橋病院 麻酔科 客員教授の青山幸生(あおやま・ゆきお)先生に、帯状疱疹を遠ざける「生活習慣&心の持ちよう」についてお聞きしました。
「帯状疱疹時は安静に。帯状疱疹後神経痛になってしまったら体を動かすことも意識しましょう」(青山先生)
《知っておきたい合併症の怖さ》
合併症でいちばん多いのは帯状疱疹後神経痛(PHN)です。50代以降の約2割の人がPHNで3カ月以上の長期間にわたって痛みに苦しめられます。顔面に帯状疱疹が生じたときには顔面神経麻痺、角膜炎や結膜炎、耳鳴りや難聴、めまいなどが生じる場合もあるので注意が必要です。
初期対応や体質なども関係するPHNに注意
なぜPHNへ移行するのか、そのメカニズムはよく分かっていません。
ただし、帯状疱疹の痛みの強さや場所、痛みに対する考え方などにも、PHNは影響されるのではないかと推測されています。
「帯状疱疹の治療は症状が出てから3日(72時間)以内の抗ウイルス薬が望ましいとされていますが、発症したのが週末だったり、すぐに医療機関を受診できないことがあります。また長年の診療経験から、PHNの患者さんの傾向として、きっちり物事を考える人、まじめな人、物事にこだわりやすい人などが、重症化しやすいことがあります」と青山先生。
帯状疱疹の治療は、抗ウイルス薬と痛み止めの服用が基本になりますが、重症化した場合は入院治療となります。
早期からの治療で重症化を防ぐことが、PHNの予防にもつながると考えられます。
それでも、PHNへ移行してしまったら、痛みのコントロールを専門とするペインクリニックへ。
痛み止めの薬に加え、青山先生は心理的なアプローチの治療によって成果を上げています。
「帯状疱疹の急性期の痛みは、発症したアラームサイン(警報)の役割を果たしています。PHNではアラームサインではなく、痛み自体が病気へと移行しているのです。その違いを患者さんによく理解していただいて、以前の日常生活を取り戻すためのサポートをしています」と青山先生。
つらいPHNの症状も、適切な治療を受けることで軽減させることが可能です。
とはいえ、そもそも帯状疱疹にならないことも重要といえます。
最大の予防法は発症前のワクチン接種
帯状疱疹は、水ぼうそうにかかったことがある人は、誰でもリスクがあります。
発症を抑えているのは免疫力です。
夏バテや過度なストレスに加え、加齢とともに免疫力が低下すると、帯状疱疹を発症しやすくなります。
日頃からバランスのよい食事や適度な運動、十分な睡眠を心がけることが大切です。
また、最大の予防法として、2016年から50歳以上の水痘・帯状疱疹ワクチンの任意接種が認められています。
2020年には、抗がん剤治療などで免疫力が低下した人でも接種可能な不活化ワクチンも、薬事承認されました。
ワクチン接種はかかりつけ医に相談しましょう。
「予防に努めても帯状疱疹を発症し、PHNになってしまったら心理療法も取り入れているペインクリニックを紹介してもらうとよいでしょう。帯状疱疹のときには安静を心がけ、PHNでは体を動かすことを意識することが重要になるからです。心理療法で行動変容のサポートをすることも大切です」と青山先生。
PHNで痛みに意識が集中すると、動けない状態が続くことで足腰は弱くなり、身体活動能力が低下し、全身の状態が悪くなることがあります。
痛くてつらい症状も適切な対処で、日常生活を取り戻すことが可能です。
予防と治療を心がけ、夏に増える帯状疱疹とPHNを撃退しましょう。
帯状疱疹を遠ざける
生活習慣&心の持ちよう
【生活習慣】
予防はバランスの取れた食事
免疫力の低下は帯状疱疹の引き金になるため体調管理が大切です。バランスの取れた食事を1日3回しっかり食べて、夏バテなどにならないような工夫を。
適度な運動と十分な睡眠も予防に大切
酷暑でも熱中症に注意しながら体を適度に動かしましょう。免疫力を高めるのに役立ちます。そして睡眠をしっかりとることも忘れずに。
【心の持ちよう】
「痛み」があるときは、主治医に相談を
つらい痛みのときには安静にしがちですが、身体機能が衰えて逆効果になることもあります。いま起きている痛みについて主治医に相談しましょう。
「いま、この時間」を大事に
日頃から生きがいを持った日々を送るようにしましょう。「いま、この時間」を大切に過ごすことが、PHN軽減の一助になります。楽しく過ごすよう心がけることが大事です。
その他に
最大の予防は水痘・帯状疱疹ワクチンの接種です。自費で費用の目安は8000円〜4万4000円です。かかりつけ医などに相談を。自治体によっては助成制度があります。
【治療法】
帯状疱疹の場合
抗ウイルス薬と痛み止めの薬が基本です。抗ウイルス薬の使用は発疹が出てから3日以内が効果的とされています。ただし、重症化した場合は入院治療になることもあります。
帯状疱疹後神経痛の場合
痛み止めを基本とし、より痛みを軽減しやすい神経ブロック注射、同時に心理的なアプローチで治療効果を上げている医療機関もあります。薬以外の治療法もあることを覚えておきましょう。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史