「1カ月前に風邪をひいて、咳だけが治らずに今も出る」「カラ咳が1年くらい続いている」など「止まらない咳」を訴えて病院を訪れる人がここ数年増えています。咳は本来、異物を体内から出すための生理的な反射反応ですが、長引く咳、特に2週間以上続いている咳の場合は、風邪ではなく、さまざまな病気の可能性があるので、注意が必要です。日本内科学会総合内科専門医・日本呼吸器学会専門医で、「池袋大谷クリニック」の院長、大谷義夫先生に、今回は「肺炎」についてお聞きしました。
日本人の主な死因の1つ。予防接種が効果的
2週間以上続く咳の原因は、気道の粘膜が炎症を起こして気温差や湯気などの小さな刺激にも反応してしまう「咳ぜんそく」のほか、「肺炎」であることも多くあります。
肺炎は咳や発熱を伴い、風邪にも似ていますが、大谷先生によると、大きな違いは、「風邪は上気道(鼻やのど)がウイルスや細菌に感染して炎症を起こすのに対し、肺炎は肺の中の肺胞がウイルスや細菌に感染して炎症を起こしていることです。肺胞は酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出しているので、肺胞に炎症が起こると、酸素不足や呼吸困難を引き起こし、命に関わる場合もあります」。
肺炎を引き起こす原因にはウイルス、細菌、アレルギーなどがあります。
病原体では日本の場合は「肺炎球菌」が最も多く、さまざまな種類の肺炎全体の約30%を占めています。この菌は人間ののどや鼻に住みついており、咳やくしゃみによって飛び散り、それを吸い込むことで感染します。肺炎球菌は人間の体の免疫機能からの攻撃に強く、抗菌薬(抗生物質)が効かないものもあり、危険な症状を引き起こします。その他、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラなども主な病原体です。
肺炎は、2011年から日本人の死因の第3位(厚生労働省・人口動態統計より)に、2017年には5位(2017年から統計処理方法が変わり、肺炎と誤嚥性肺炎を別に分けて解析していますが、肺炎と誤嚥性肺炎の死亡者数を合計すると依然として第3位)となるくらい重症化しやすく、発症しやすい病気です。単なる風邪だと思っているうちに進行していることもあるので気をつけましょう。
特に高齢者や子供の場合に多く見られます。また、風邪をこじらせて肺炎になる場合も多く、熱が出ていなくても、2週間以上咳が続く場合は、肺炎の可能性があります。放置して炎症が進むと、抗生物質(抗菌薬)が効きにくくなり、治るのにも時間がかかります。
肺炎の予防には、ワクチンの予防接種が有効です。特に免疫機能が低下している高齢者は、
肺炎球菌の飛沫感染やインフルエンザから肺炎を発症することも多いですが、予防接種によってかかりにくくするだけでなく、もし発症した場合でも重症化を避けることができるのです。
【肺炎の主な原因】
ウイルスや細菌の感染、またはアレルギーが肺に生じることによる。
【肺炎の主な症状】
・2週間以上、咳が続く
・38度以上の高熱(微熱の場合もある)
・黄色や緑色っぽい痰が出る
・息切れや悪寒がする
・するどい胸の痛みがある
・体がだるい
・呼吸が苦しい、または困難
【肺炎の主な治療法】
・原因となる病原体を死滅させる抗生物質(抗菌薬)の服用(細菌性の肺炎の場合)ほか
取材・文/岡田知子(BLOOM)