コロナ禍によって外出活動が減るなか、食事の量が増えていませんか? 糖尿病医の青木厚先生は「モノを食べない時間を作ることが、健康の維持につながります」と言います。その先生の著書『がんを克服した糖尿病医が考案! 弱った体を修復する内臓リセット健康法』(アスコム)より、空腹時間を設けることで細胞活性化を促すメカニズムや健康維持に必要な筋肉の作り方など手軽にできる体内リセットのやり方をご紹介します。
筋肉量が落ちるだけで、心と体にこれだけの不調が表れる
私がみなさんに運動をおすすめする理由の一つは、「筋肉量・筋力を維持する(もしくは増やす)ため」です。
筋肉量が減り、筋力が落ちると、心身にさまざまな不調が表れ、免疫力が低下し、病気にかかりやすくなります。
しかし、筋肉の量は、運動することでしか維持できません。
筋肉の細胞分裂を促す男性ホルモン「テストステロン」は、筋肉が刺激を受けなければ分泌されないからです。
運動らしい運動をせずにいると、筋肉は柔軟性を失って小さく硬くなり、筋肉量はどんどん減っていきます。
また、筋肉を使わずにいると、徐々に筋肉を動かすための信号が届きにくくなり、筋肉が柔軟性を失って、やはり筋力は低下します。
一日寝たきりの状態でいると、一日に3~5%程度、筋肉が萎縮するといわれていますが、デンマークのコペンハーゲン大学の研究によると、運動をしない期間がわずか2週間続いただけで、若者は筋力の3分の1、高齢者は4分の1を失うそうです。
筋肉量は加齢によっても減少します。
特に運動をせず、同じような生活を続けた場合、20代をピークに、筋肉量は一年に1%ずつ減っていき、55歳ごろからは急激に減少し、80代になると、20代の半分程度にまで落ちるともいわれています。
ですから、特に高齢者の方は、定期的に運動を行って筋肉に刺激を与え、テストステロンの分泌を促し、筋肉量を維持する必要があるのです。
一方で、運動には、「筋肉が自由に動ける状態を維持する」働きもあります。
私たちが、たとえば「右足の親指を動かしたい」と思ったとき、脳は親指の筋肉に向けて、「動け」という指令を与えます。
指令は電気信号として、神経回路を伝わって筋肉に届くのですが、長い間親指の筋肉を動かさずにいると、筋肉自体も信号が伝わる回路も衰え、うまく指令が届かなくなったり、スムーズに指を動かせなくなったりします。
そうなると、ますます右足の親指が動かされることがなくなり、筋肉も神経回路もさらに衰えてしまうのです。
では、筋肉量が減ったり、筋力が衰えたり、筋肉を自由に動かせなくなったりすると、健康面でどのような問題が生じるのか、ここであらためて確認しておきましょう。
①疲労や肩こりなどが起こりやすくなる
筋肉量が減ったり、筋力が衰えたりすると、体力が落ち、どうしても疲れやすくなります。
骨や体を支える力も弱くなるため、姿勢が悪くなり、肩こりや腰痛、膝痛なども起こりやすくなるでしょう。
また、姿勢が悪くなると、筋肉の使い方のバランスが悪くなり、使わない筋肉はどんどん動き方を忘れたり、柔軟性を失い、硬くなったりします。
②内臓の働きが悪くなり、消化不良や便秘などが起こりやすくなる
姿勢が悪くなったり、内臓を支えている体の内側の筋肉(インナーマッスル)が衰えたりすると、「内臓の位置が本来あるべき場所からずれる」「内臓の形がゆがむ」といったことも起こりやすくなります。
その結果、内臓の働きが悪くなり、呼吸が浅くなったり、胃もたれや消化不良、便秘などが起こりやすくなったりします。
また、便秘になると、腸内に悪玉菌が増え、アンモニアや硫化水素などの有毒ガスが発生します。
有毒ガスが血管に入り込み、全身にまわると、血液が汚れ、肌荒れやニキビ、シワなども生じやすくなります。
③血流が悪くなり、免疫力が低下する
人体の中で最もたくさん熱を作っているのは、筋肉です。
筋肉が動くとき、エネルギー源として糖質や脂質などが分解されますが、その際に熱が発生するのです。
筋肉が作る熱は、人間の細胞や組織が正しく働くうえでなくてはならないものですが、筋肉量や運動量が減ると作られる熱の量も減るため、当然のことながら体温は低くなります。
体温が低くなると、体が冷えて血流が悪くなり、細胞に酸素や栄養がいきわたらなくなります。
その結果、内臓や新陳代謝が悪くなって、老廃物の排出が滞り、むくみなどが起こりやすくなります。
また、免疫細胞が十分に働くことができなくなり、免疫力も低下します。
ちなみに近年、筋肉から分泌される、「マイオカイン」と総称される20種類以上のホルモンに注目が集まっています。
マイオカインにはついては、まだわからないことも多いのですが、中には、血流に乗って全身をめぐり、体内の糖質や脂質を効率的に消費したり、インスリンの分泌を促したり、腫瘍の増殖や免疫の暴走を抑えたりするものもあるといわれています。
しかし、筋肉量が減れば、マイオカインの分泌が減るだけでなく、血流が悪くなって、マイオカインの働き自体も低下してしまうことになります。
④脂肪が増える
筋肉量が減ると、基礎代謝(呼吸をする、内臓を動かすなど)を含め、筋肉でエネルギーとして消費される糖質や脂質の量が減ります。
また、筋肉に蓄えられる量も減るため、余分な糖質や脂質が増え、血糖値が上がったり、中性脂肪が増えやすくなったりします。
⑤転倒や骨折などが起こりやすくなる
筋力や神経回路が衰え、筋肉を自由に動かせなくなると、つまずいたり転んだりすることも増えます。
さらに、骨密度(骨を構成するカルシウムなどのミネラル類の詰まり具合)は筋肉量に比例するといわれており、筋力が落ちれば、骨も弱くなります。
骨には、負荷がかかると、その力に負けないため、骨密度を高めて骨を丈夫にしようとする仕組みがあります。
また、骨と骨は骨格筋という筋肉によってつながれており、体を動かすと、骨格筋が収縮して、骨に負荷がかかります。
定期的に適度な運動を行っていれば、そのたびに負荷がかかり、骨は丈夫になりますが、体を動かすことが少なかったり、筋力が衰えたりすると、骨にかかる負荷が弱くなるため、骨はどんどん弱くなります。
つまり、筋力や筋肉の働きが弱くなると、転倒し、骨折するリスクが高くなります。
特に高齢者の方は、骨折して体を動かせずにいる間にさらに筋力が弱まり、寝たきりになってしまうケースもあります。
⑥認知症、うつ、不眠などになりやすくなる
意外に思われるかもしれませんが、筋肉や運動と認知症には深い関係があります。
私たちが体を動かす際には、脳が筋肉に向かって指令(電気信号)を出しますが、それによって筋肉が動くと、今度は「疲れた」「痛い」などといった感覚が、電気信号として、筋肉から脳に向けて送られます。
つまり筋肉を動かせば動かすほど、脳はたくさんの刺激を受けるわけです。
しかし、運動量が減ったり、筋力が低下し、筋肉が動きにくくなったりすると、脳への刺激はどんどん減っていきます。
高齢者が寝たきりになると認知症が進行しやすいのは、生活の変化が乏しいことに加え、筋肉を動かすことが少なくなり、脳への刺激が減ってしまうためなのです。
ちなみに、「中年期以降に、軽い運動を1回あたり20~30分間、週2回行うことで、高齢期のアルツハイマー型認知症の発症リスクが3分の1にまで低減した」という報告もあります。
また、運動不足や筋肉量の低下は、うつや不眠にもつながります。
精神の安定や睡眠に深く関わっている、「幸せホルモン」とよばれるセロトニンは、体を動かすことで分泌が促進されます。
運動不足の状態が続くと、セロトニンの分泌が徐々に減り、ストレスを感じやすくなったり、睡眠の質が悪くなったりするのです。
さらに、最近の研究では、筋肉から分泌されるマイオカインの中に、脳の認知機能に関わるもの、抗うつ作用のあるものが含まれているともいわれています。
筋肉量が少ないとマイオカインの分泌量も減るため、認知機能やストレスに何らかの影響が生じる可能性もあるわけです。
食生活を変えて内臓から健康を取り戻す方法を全5章にわたって解説しています。体を活性化させるための簡単な運動法も提案