コロナ禍によって外出活動が減るなか、食事の量が増えていませんか? 糖尿病医の青木厚先生は「モノを食べない時間を作ることが、健康の維持につながります」と言います。その先生の著書『がんを克服した糖尿病医が考案! 弱った体を修復する内臓リセット健康法』(アスコム)より、空腹時間を設けることで細胞活性化を促すメカニズムや健康維持に必要な筋肉の作り方など手軽にできる体内リセットのやり方をご紹介します。
どうすれば私たちは内臓の健康を取り戻せるか
『弱った体を修復する内臓リセット健康法』。
このタイトルを見て、みなさんの中には「内臓リセットとはどういうことだろう」「どうやって弱った体を最短で修復するんだろう」と思った人もいらっしゃるのではないでしょうか。
答えはきわめてシンプルです。
週1回、まとまった空腹の時間を作ること
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週2回、科学的に正しい簡単な運動を行うこと
この組み合わせが、内臓の疲れをとり、機能を高め、あなたの弱った体を細胞レベルで修復し、心身の不調や病気を遠ざけてくれるのです。
では、空腹の時間を作ること、科学的に正しい運動を行うことで、体に何が起こるのでしょうか。
簡単にお話ししておきましょう。
空腹の時間を作るというのは、具体的には、睡眠時間を含めた「ものを食べない時間」を16時間以上作ることです。
それによって得られる効果としては、主に、次の3つが挙げられます。
①内臓の疲れがとれる。
②脂肪が分解される。
③オートファジーが活発化する。
まず、①についてですが、おそらくみなさんの中には、「健康のためには、一日3回、決まった時間に食事をとることが大切だ」と思っている人もいらっしゃるのではないかと思います。
しかし残念ながら、それは間違いです。
胃腸や肝臓は、私たちが食べたものを何時間もかけて消化します。
一日3回、数時間おきに食事をしていると、食べものがひっきりなしに運ばれてくるため、内臓はフル回転で休みなく働き続けなければならず、疲弊します。
その結果、内臓の働きが低下し、老廃物を排出できない、免疫力が低下するなど、さまざまな問題が生じるのです。
まとまった空腹の時間を作れば、胃腸、肝臓などが休むことができるため、こうした問題が解消されやすくなるわけです。
次に、②についてですが、私たちの体はふだん、脳や筋肉、内臓などを動かす際、糖質が分解されるときに発生するエネルギーを利用し、余った糖質を筋肉や肝臓、脂肪細胞に蓄えています。
ところが、ものを食べずにいると、その間に血液中の糖質がエネルギーとして消費され、最後にものを食べてから12時間ほどたつころには、筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲン(糖質の塊)も完全に消費されてなくなり、体は、脂肪を分解して(燃焼させて)エネルギーを作り出そうとします。
つまり、空腹の時間が長くなればなるほど、脂肪がどんどん分解されるわけです。
さて、今までお話ししてきた①や②だけでも、内臓リセットの効果はかなり大きいのですが、③のオートファジーにはそれらをはるかに上回る効果があります。
オートファジーとは、「Auto=自分自身」と「Phagy=食べる」という、2つの単語が組み合わさった言葉で、細胞内の古くなったタンパク質が新しく作り替えられることを意味します。
私たちの体は、約60兆もの細胞でできており、細胞は主にタンパク質で作られています。
日々の生活の中で、古くなったり壊れたりしたタンパク質の多くは体外に排出されますが、排出しきれなかったものは細胞内にたまっていき、細胞を衰えさせ、さまざまな心身の不調や病気、老化の原因となります。
特に、細胞内のミトコンドリア(呼吸を行い、エネルギーを作り出す重要な器官)が古くなると、体を錆させ、さまざまな病気の原因となる活性酸素が増えるといわれています。
一方で、私たちの細胞はふだん、食べものから栄養を摂取し、必要なエネルギー(ATPという物質)を作っています。
ところが、空腹の時間が長くなり、栄養が入ってこなくなると、体は生存するために、「体内にあるもの」でエネルギーを作ろうとします。
そこで、古くなったり壊れたりした、細胞内のタンパク質を集めて分解し、それらをもとにエネルギーを作るのです。
その際、古くなった細胞内のミトコンドリアも分解され、エネルギーを供給するとともに、新たに生まれ変わります。
これがオートファジーであり、オートファジーによって細胞が生まれ変われば、体にとって不要なものや老廃物が一掃され、細胞や組織、器官の機能が活性化し、病気になりにくく若々しい体になります。
さらに、オートファジーには、細胞内に侵入した病原菌を分解・浄化する機能もあり、健康であるために欠かすことのできない仕組みだといえます。
ただ、体の中に、食べものによって得られた栄養が十分にある状態では、オートファジーはあまり働きません。
オートファジーは、強いストレスを受けても生き残れるよう、体内に埋め込まれた仕組みであり、体や細胞が飢餓状態になったときや、低酸素状態になったときに活発化するのです。
具体的には、最後にものを食べてから、やはり12時間ほど経過したころから、オートファジーが始まります(オートファジーをしっかりと働かせるためには、最低16時間程度の空腹の時間が必要です)。
つまり、まとまった空腹の時間を作って初めて、私たちはオートファジーにより、細胞を生まれ変わらせることができるのです。
なお、2016年、大隅良典東京工業大学栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのをきっかけに、世界中の医学界でオートファジー研究がさかんに行われるようになり、『The New England Journalof Medicine』など、国際的に信頼されている総合医学雑誌にも、間欠的断食と健康に関する論文がさかんに掲載されています。
特に2019年ごろから、「空腹の時間」と「運動」の関係性に注目が集まっています。
実は、空腹時に運動を行うことで、オートファジーがより活発化すること、運動によって筋肉を動かすと、その部分にオートファジーが起こりやすくなることが、最近の研究で明らかになったのです。
つまり、「空腹の時間を作ること×科学的に正しい運動をすること」は、筋肉量や筋力を維持しながら、内臓の疲れや衰えをリセットし、体を細胞レベルで若返らせることができる、最新の医学研究でも認められている健康法であり、免疫力を飛躍的に高め、さまざまな心身の不調や病気を予防し遠ざけることが可能となるのです。
食生活を変えて内臓から健康を取り戻す方法を全5章にわたって解説しています。体を活性化させるための簡単な運動法も提案