放置すると潰瘍ができる可能性も...40〜50代の発症が多い「下肢静脈瘤」治療の疑問を医師が解説!

成人女性の4〜5人に1人、特に40〜50代の発症が多い下肢静脈瘤。脚の静脈の血管が膨らんだり、浮き出たりする病気です。正しく知らないために、長く悩み続けている人も多くいます。そこで今回は、横浜血管クリニック院長の林 忍(はやし・しのぶ)先生に「下肢静脈瘤の治療法」についてお聞きしました。

【前回】成人女性の4~5人に1人が発症! 「下肢静脈瘤」の症状を改善する10のセルフケア

林先生、もっと教えて! 治療法Q&A


治療法:血管内焼灼術(レーザー治療・高周波治療)

【治療内容】
静脈に細い管を通し、レーザーか高周波で静脈を焼き固める。最も主流の治療法

【所要時間】15分

【治療費】4万円程度

【メリット】
・手術部位は傷跡がほとんど残らない
・出血がほとんどなく、体への負担が少ない
・ 実績があり安全性が高い

【デメリット】
・技術的に習熟した医師が行わないと熱傷などの合併症を起こすことがある

治療法:血管内塞栓術(グルー治療)

【治療内容】
静脈に細い管を通し、医療用瞬間接着剤を注入して血管を塞ぐ方法。最新の治療法

【所要時間】20分

【治療費】5.3万円程度

【メリット】
・痛みが少ない
・熱損傷のリスクがない
・局所麻酔のみでよい
・合併症が少ない
・術後の弾性包帯は不要

【デメリット】
・蛇行の強い血管、アレルギーや膠原病などの持病のある人には不向き
・接着剤が体内に残る
・費用が若干高くなる

治療法:硬化療法

【治療内容】
静脈瘤の中に硬化剤を直接注入して、血管を徐々に消失させる。ごく初期のもの、側枝型や網目状、クモの巣状など末梢レベルの細い静脈瘤に有効

【所要時間】10分

【治療費】1.3万円程度

【メリット】
・繰り返し行うことが可能
・無麻酔で行える
・術後すぐに歩行可能
・傷がほとんど残らない

【デメリット】
・術後の弾性包帯が必要
・血管の消失までに数カ月かかる
・再発することがある
・色素沈着することがある

治療法:ストリッピング手術

【治療内容】
脚の付け根とひざ裏などの皮膚を2cm程度切開し、特殊なワイヤーを通して、静脈を引き抜く。従来の標準治療法

【所要時間】30分

【治療費】4万円程度

【メリット】
・再発率が極めて低い
・根治度が高い
・安定した治療成績

【デメリット】
・神経障害を起こすことがある
・ある程度、傷跡が残る
・2~3日程度の入院が必要な場合がある


※治療は全て保険適用内。金額は全て片脚で3割負担での目安。検査費用などは含まれない。所要時間はおおよその目安。

質問1:どんな治療法がありますか?

新治療法も登場。メリットとデメリットを考慮して慎重に選択を

「現在、治療の主流はレーザーや高周波で静脈を焼き固める『血管内焼灼術』ですが、2019年より接着剤を注入して静脈を塞ぐ『血管内塞栓術』が保険適用になりました。体の負担が軽い新治療法です。メリットとデメリットや、病気の段階、患者本人の希望を考慮して、医師と相談しながら最適な治療法を選択することが大切です」

【血管内焼灼術】

放置すると潰瘍ができる可能性も...40〜50代の発症が多い「下肢静脈瘤」治療の疑問を医師が解説! 2208_P052_02.jpg

質問2:治療は何歳まで受けられますか?

年齢制限はありません。何歳でも受けられます

「日常生活を自立して送っている方であれば、何歳でも受けられます。体に対するストレスが小さい治療ですので、80歳以上の高齢の方でも全く問題ありません。ただし、症状が進行する前に行う方が、患者さんの身体的な負担はもちろん、時間的、経済的な負担も少なく済むと思います」

質問3:手術治療を検討するのはどんなときですか?

ポイントは大きく3つ。専門医による確実な診断を

「手術治療を検討するのは伏在型静脈瘤のみで、うっ滞性皮膚炎(血流が滞り生じる皮膚の炎症)が起こっている、静脈瘤による症状があってつらい、外見が気になるの3つの場合です。クモの巣状などの他タイプで、見た目が気になる場合は、硬化療法を行うこともあります。脚のだるさやむくみなどの症状が下肢静脈瘤によるものとは限りません。超音波検査で静脈の逆流の有無を調べて、下肢静脈瘤が原因なのか、専門医による確実な診断が重要です」

質問4:自然に治りますか? 放置しているとどうなりますか?

自然に治ることはありません。最悪の場合は潰瘍ができることも

放置すると潰瘍ができる可能性も...40〜50代の発症が多い「下肢静脈瘤」治療の疑問を医師が解説! 2208_P053_01.jpg

「慢性かつ進行性疾患のため、徐々に悪化していきます。進行すると、皮膚にかゆみや色素
沈着が起こり、血栓性静脈炎(静脈瘤の血液が固まって血栓を形成し、炎症によって皮膚が
赤く腫れて激しい痛みを伴う)や静脈性潰瘍(皮膚の壊死状態)に至ることもあります」

質問5:下肢静脈瘤は破裂しますか? 命に関わりますか?

まれに破れることはありますが命に関わることはありません放置すると潰瘍ができる可能性も...40〜50代の発症が多い「下肢静脈瘤」治療の疑問を医師が解説! 2208_P053_02.jpg「下肢静脈瘤の症状は脚にとどまり、全身に影響が出ることはまれです。静脈瘤が破れて出血することは患者の0・8%にみられますが、静脈は圧が低いので、圧迫すれば止血できることがほとんどです。また脚の切断に至るようなこともありません。命に関わることはないので、安心してください」

質問6:逆流を起こした静脈を治療で塞いでも大丈夫ですか?

そもそも弁が壊れている血管なので、塞いでも大丈夫です

「静脈の役割の9割近くは深部静脈が担っています。深部静脈さえ正常に働いていれば、逆流を起こした静脈は、そもそも弁が壊れている血管なので、塞いでも問題ありません。逆流した血液が他の正常な静脈へ流れて負担をかけてしまわないように、塞ぐことで血流をスムーズに戻します」

質問7:診察してもらえるのは、どの診療科?

血管外科です。下肢静脈瘤を専門に扱うクリニックも

放置すると潰瘍ができる可能性も...40〜50代の発症が多い「下肢静脈瘤」治療の疑問を医師が解説! 2208_P053_03.jpg

「血管外科は日本ではまだあまり多くなく、心臓血管外科が血管外科の病気を診療しているところがほとんどです。病院によっては一般外科・皮膚科・形成外科などでも診療を行っています。最近では下肢静脈瘤を専門に扱うクリニックも増えています。多くの症例を扱う経験豊富な医師に診てもらいましょう」

取材・文/古谷玲子 イラスト/山﨑美帆

 

横浜血管クリニック院長
林 忍(はやし・しのぶ)先生

慶應義塾大学医学部卒業。血管外科専門医として、同大学付属病院、済生会横浜市東部病院、済生会神奈川県病院勤務を経て、2016年より現職。下肢静脈瘤の治療経験が豊富。

【やさしい暮らしの店 by 毎日が発見】毎日はける弾性ストッキング

a.jpg

「毎日はき続けられる弾性ストッキングを!」という目標で作りました。ペールモカとピンクオークルは毎日が発見だけのオリジナルカラーです。

▶詳細はコチラ!

この記事は『毎日が発見』2022年8月号に掲載の情報です。
PAGE TOP