自宅の廊下でつまずいた、階段を踏み外したなんて経験はありませんか? 体力が低下したり視界が狭くなったりすると、家の中の思わぬところでケガをしてしまいます。また、在宅で介護を受ける方にとっても介護をする方にとっても、体の状態に応じた住環境づくりは大切です。
そこで福祉用具専門相談員で福祉住環境コーディネーターの山上智史さんに、住みよい環境づくりについて伺いました。
前の記事「S字フックやカラーテープなど身近な「100円グッズ」でできる!高齢者に安心な住まいづくり(2)」はこちら。
少しの工夫で"できない"が"できる"に変わる!
要介護者にとって住環境を整えることは、危険を未然に防ぐだけでなく、体の機能改善にもつながります。
以下の三つは実際に山上さんが体験した事例です。
<事例1>ベッドの下の引き出しをなくしたら立てた!
ベッドから立ち上がれなかったAさん。ところがベッドの下にあった引き出しを外したところ、そのスペースに足を引き込んで踏ん張れるようになり、自力で立ち上がれるようになりました。
<事例2>いすを並べたらトイレに行けた
自力で歩けないため、おむつかポータブルトイレの利用をすすめられていたBさん。座ったまま横にずれる動きができるので、部屋からトイレまでいすを並べたら自力で行けるようになりました。
<事例3>タオルを添えたら胃ろうが不要に
飲み込む機能が低下していると思われ、胃ろうを併用していたCさん。背もたれとの間にタオルを入れたところ、姿勢が正されて飲み込みの機能が改善されたため、胃ろうが不要になりました。
例えば一つ目。よく見かける収納付きベッドですが、足の力が弱くなっているAさんにとっては、ベッド下の引き出しが"立ち上がる"という動きを邪魔していました。引き出しを取り除くことで足を踏ん張って自力で立てるようになったのです。
「その人の体の状態に合った、生活しやすいベッドやソファなどの家具の配置、物の高さなどがありますし、身の回りのものを使うことで体の動きを補助することもできます」と山上さん。ちょっとした工夫でその人が現在持っている体の機能を生かすことができ、要介護者にとっても介護者にとっても生活の質の向上につながるのです。
メリットとデメリットがある福祉用具は、家族も試して
そして介護ではそのような暮らしを助けるために、福祉用具があります。車いす、介護ベッド、歩行器、入浴用のいすなど多岐にわたります。介護保険サービスで福祉用具を利用する場合はケアマネジャーと相談の上、介護プランに加えて申請手続きをします。ケアマネジャーから依頼を受けた福祉用具専門相談員は、利用者の自宅を訪ねます。
「ご本人や家族と面談をし、住環境を実際に見て確認するためです。その上でどの福祉用具が良いかを検討します」(山上さん)
福祉用具を利用する際には、メリットとデメリット両方を確認することが大切です。
「例えば車いすの利用を希望された場合、確かに体は楽になりますが、車いすを使い続けることで下肢の筋力は低下します。福祉用具には必ずメリットとデメリットがあるので、福祉用具専門相談員に両方を確認して、本当に利用するかどうかを決めることをおすすめします。体に合わないものを無理に使い続けると体に悪影響を与えることもあるので、まずはレンタルで試すとよいでしょう」(山上さん)
要介護者と暮らすご家族には自らも福祉用具を試してほしいといいます。
「体験すると使い心地が分かるだけでなく、気持ちを共有できるからです。例えば、ベッドのリクライニングを背上げすると、寝ている方は体がずり落ちて苦しい体勢になります。そこで背を起こして体勢を整えてあげると楽になります。これを実際に体験してもらったところ実行に移してくださるご家族もいらっしゃいました」と山上さん。住環境を上手に整えることは、より快適な暮らしのために欠かせないことなのです。
◇福祉用具のレンタルなどは介護保険で補助が受けられます
<福祉用具レンタル>
支給限度額(要介護度により異なる)の範囲内で、所得により1~3割の自己負担額でレンタルできます。車いす、床ずれを防止するための用具、介護用ベッド、歩行や立ち上がりの補助などに使う手すり、歩行器などが対象(全13品目)ですが、要支援1・2と要介護1 の人は支給対象外となる用具も。
立ち上がる際や歩くときの補助になる、手すり。
<福祉用具購入>
同一年度内の購入費用の合計額10万円を上限に、所得によりそのうちの7~9割が支給されます。入浴用のいすや手すりなどの入浴補助用具、ポータブルトイレなどの腰かけ便座などレンタルになじまないもの(全5品目)が対象です。
入浴補助用具の一つ、体を洗ったりする際に座るいす。
<住宅改修>
自宅で生活を続けるための住宅改修の費用に補助があります。手すりの取り付けや段差の解消、引き戸などへの扉の取り換え、洋式便器への取り換えなどが対象。一つの住宅につき支給限度額は1人20万円で、所得により費用のうち7~9割が支給されます。
取材・文/中沢文子 撮影/吉澤広哉