多くの人が不安を感じる「老後のお金」の問題。ゆとりある老後の資金を考えると、医療費や介護費も重要ですが、まずベースとなるのは月々の生活費。そこで今回は、「老後の生活費の平均は?」「ゆとりある生活に必要な生活費は?」「おすすめの資産形成の方法は?」などといった気になる点について、基礎的なところから解説します。
解説をするのは、2021年9月に刊行した著作『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』(KADOKAWA)が発売後すぐに大増刷となり話題を集めている、元銀行員の資産運用Youtuber、小林亮平さん。「超初心者でも理解できるよう優しく伝える」がモットーの小林さんの説明から、まず老後資金について検討の第一歩を踏み出してはいかがでしょうか?
1.老後の生活費の平均は?
まずは、老後の生活費がどれくらいかかるのかを見ていきましょう。
世帯別の生活費がおよそいくらになるかを知っておけば、将来の計画が立てやすくなります。
今回は単身世帯もしくは夫婦2人世帯における、老後の生活費の平均と、その内訳を紹介しますね。
1-1.単身世帯の老後の生活費
引用:家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要
最初に、65歳以上の単身無職世帯の生活費ですが、総務省統計局の資料によると、平均で144,687円(非消費支出11,541円と消費支出133,146円の合計)となっています。
非消費支出とは税金や社会保険料なので、消費支出の内訳を詳しく見ていくと、割合が最も高いのは食料費で27.5%(36,581円)です。
次いで、交際費が11.5%(15,253円)と高い割合を占めている他、旅行などの教養娯楽費や光熱・水道費がいずれも9.7%(約13,000円)となっています。
住居費については、9.3%(12,392円)と一見すると低く見えますが、これは持ち家や賃貸住宅などをすべて含めた平均値なので、人によって大きく変わってくるでしょう。
また後ほど、老後の収入は詳しく見ていきますが、公的年金などの実収入136,964円より生活費144,687円の方が上回っているため、毎月の不足分は7,723円と赤字になっています。
1-2.夫婦2人世帯の老後の生活費
引用:家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要
次に、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における生活費ですが、平均で255,550円(非消費支出31,160円と消費支出224,390円の合計)となっております。
消費支出の内訳を詳しく見ていくと、食料費が29.3%(65,804円)で最も高い割合を占めています。
ただ単身世帯に比べると、住居費は6.5%(14,518円)、交際費は8.8%(19,826円)と、割合が下がっていることが分かります。
老後の収入については公的年金などの実収入256,660円が生活費255,550円を少しだけ上回っているため、毎月1,111円の黒字となっています。
2.ゆとりある老後に必要な生活費はいくら?
引用:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」/令和元年度
また、生命保険文化センターが行ったアンケートでは、夫婦2人の場合、最低限の生活費とゆとりのための上乗せ額を合計した「ゆとりある老後生活費」は、平均で36.1万円となりました。
先ほど見た夫婦世帯における生活費の平均は255,550円だったので、余裕のある老後生活を送りたければ、約10万円はプラスで必要となる認識を持っておくといいでしょう。
この老後のゆとりのための上乗せ額で、主な使い道として多かった回答は、旅行やレジャー、趣味や教養、日常生活費の充実、身内とのつきあいなどでした。
3.老後の収入はどれくらい?
では、老後の収入はどれくらいの金額が見込めるのでしょうか。
先述の生活費のケースと同じように、単身世帯と夫婦2人世帯の場合をそれぞれ見ていきましょう。
3-1.単身世帯の老後の収入
引用:家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要
まず65歳以上の単身無職世帯の実収入ですが、先ほどの総務省統計局の資料によると、平均で136,964円となっております。
内訳として、公的年金を始めとした社会保障給付が89.0%(121,942円)で、その他はパートや仕送りなどで14.3%(15,022円)です。
先ほど見た単身世帯における生活費の平均144,687円と比べた際の不足分は7,723円ですが、ゆとりある老後生活費も考慮した際は、毎月5~10万円程度の赤字になると考えておいた方がいいでしょう。
3-2.夫婦2人世帯の老後の収入
引用:家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要
次に、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における実収入ですが、平均で255,660円となっております。
内訳として、公的年金をはじめとした社会保障給付が85.7%(219,976円)で、その他はパートや仕送りなどで14.3%(35,684円)です。
先ほど見た夫婦2人世帯における生活費の平均255,550円より1,111円とわずかに黒字にはなっていますが、ほぼ収支トントンであり余裕がないことが分かります。
仮に公的年金の減少などにより、実収入が20万円程度となった場合には、毎月の赤字は約5万円となり、30年間で約2,000万円の取崩しが必要になってしまいます。
これこそがいわゆる「老後2,000万円問題」の発端となったケースであり、さらにゆとりある老後生活費も考慮した際は、不足額がいっそう増える恐れもあるでしょう。
4. 老後資金のための資産運用とは?
では、老後資金を今から準備していく方法を考えていきます。
これは定年後も仕事を続けるなど、色々な考え方がありますが、今回は資産運用に注目していきましょう。
老後に向けて2,000万円を用意するとなると、貯金だけでは現実的に難しいと悩む方もいるはずなので、選択肢の1つとして、投資でお金を増やしていくことを知っておいてもらえればと思います。
仮に40代の方であれば、老後まではまだ20年程度はありますから、月3万円を投資に回して、年利5%で運用できたならば、20年後には約1,200万円もの資産になります。
月3万円を20年間貯金した際は720万円ですから、約500万円も差が出ると思うと、この違いは大きいでしょう。
ただ、投資と言っても何から始めればいいか分からない方も多いと思うので、初心者の方におすすめなつみたてNISAとiDeCoを紹介します。
4-1.つみたてNISA
4-1-1.今さら聞けないNISAとは?
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
NISAとは、Nippon Individual Savings Accountのことで、少額投資非課税制度とも言われますが、投資の利益に税金がかからないお得な口座だと思ってください。
たとえば利益に税金がかかる課税口座で、株式などの金融商品を買って、値上がりにより売却時に10万円の利益が出たとします。
すると本来、投資の利益には約20%の税金がかかるため、2万円が差し引かれて、手元に残るのは8万円になってしまいます。
しかしNISA口座だと利益に税金がかからず、10万円がまるまる受け取れるので、課税口座よりも優先して使うのがおすすめです。
4-1-2.つみたてNISAの特徴は?
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
NISA口座は現状、一般NISA、つみたてNISA、そして未成年者向けのジュニアNISAがあります。
つみたてNISAのみ詳しく紹介しておくと、非課税枠(1月1日から12月31日までの1年間で投資できる上限額)は40万円とやや小さいものの、非課税期間(利益に税金がかからず運用できる期間)は、金融商品を購入した年から数えて最長20年と長いのが最大のメリットです。
また、つみたてNISAで選べる商品は、低コストなど金融庁が定めた一定の条件を満たした190本程度の投資信託(様々な株式や債券などが袋詰めになった商品)などに厳選されているので、初心者でも迷わず選びやすいのも魅力です。
買付方法については、積立投資に限定されていますが、積立投資は相場の下落時に安い価格で買うことができて精神的な余裕を持ちやすいので、投資初心者にもピッタリです。
ちなみに、非課税枠40万円を12カ月で割った約33,000円が、つみたてNISAにおける毎月の積立額の上限としてよく使われるので、覚えておくといいでしょう。
4-1-3.つみたてNISAで老後資金2,000万円も夢じゃない
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
つみたてNISAは非課税期間が最長20年と長いのが最大のメリットとお話ししましたが、もう少し具体的に解説します。
たとえばつみたてNISA口座で2021年の1月1日から12月31日までに積立をした投資信託は、2040年12月31日まで非課税期間が続いていきます。
また2022年に積立をした投資信託は2041年まで非課税期間が続くので、毎年積立を続けると非課税期間の終了は1年ずつズレていくと思ってください。
仮に年間40万円、運用期間20年、運用利回り年5%としたら、5年目は元本200万円に対してまだ約27万円の利益ですが、20年目には複利効果もあって元本800万円に対して約558万円もの利益に増えます。
ただ実際はここまで綺麗には増えず、時には暴落してマイナスになることもあるため、上下に値動きしながら長い目で見て複利が効いていくと思えばいいでしょう。
つみたてNISAを夫婦それぞれで月3.3万円ずつ満額積立した場合は、元本と利益合わせて約2,700万円もの資産になるので、今のうちからつみたてNISAを始めておくだけで、老後資金2,000万円の用意も夢ではないことが分かります。
なお、つみたてNISA口座でよく選ばれている銘柄は、将来的な値上がりが期待できる全世界株式や米国株式の投資信託です。
そのため長期運用を前提に、低コストで人気のeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)やeMAXIS Slim米国株式(S&P500)などをまず検討してみるのがよろしいかと思います。
4-2.iDeCo
4-2-1.そもそもiDeCoとは?
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
iDeCoとは個人型確定拠出年金の愛称ですが、個人型確定拠出年金は、「個人型」と「確定拠出」と「年金」の3つの言葉に分けると理解しやすいです。
まず「個人型」とは、国や企業に頼るのではなく、自分で用意するものだと思ってください。
次に「確定拠出」とは、掛金の額は決まっているけど、運用成績によって将来受け取る額が変わるという意味です。反対に将来もらえる額が決まっているのは、確定給付と言います。
最後に「年金」とは、60歳以降に受け取れる年金制度になります。
ただ年金とは言いつつも、iDeCoは申込時に専用の口座を開設するため、金融商品を入れる箱のイメージを持っておくと分かりやすいでしょう。
つまりiDeCoとは、「個人が掛金を出して、自ら金融商品を選んで運用を行い、老後資金を作る年金の箱」なんです。
年金制度は3階建てになっており、1階は国の公的年金、2階は会社が用意する企業年金、そして3階は自分で用意する個人年金で、iDeCoもここに含まれます。
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
iDeCoの掛金は、月5,000円以上1,000円単位で設定できますが、公的年金の被保険者種別やお勤め先の企業年金制度の加入状況により上限額が決まります。
たとえば第1号被保険者と呼ばれる自営業者の方は月6.8万円、第2号被保険者と呼ばれる会社員などの方は会社に企業年金がない場合だと月2.3万円、第3号被保険者と呼ばれる専業主婦(夫)の方は月2.3万円が上限です。
掛金額の増減も可能で、掛金自体を止めることもできます。
またiDeCoに加入する場合、iDeCoを取り扱う金融機関(運営管理機関)を選ぶ必要がありますが、この金融機関選びは特に重要で、理由は手数料の違いがあります。
iDeCoに関する手数料はいくつか種類がありますが、掛金を出して運用する際には、支払先に応じて3つの手数料が毎月かかります。
iDeCoの実施機関である国民年金基金連合会(月105円)と、iDeCoの資産を管理する信託銀行(月66円)への手数料は、どの金融機関でも基本変わりません。
ただ金融機関へ支払う運営管理手数料は、大手銀行などでは月300円程度かかるところもあります。
仮に月300円の運営管理手数料を30年支払ったとすると、108,000円もの費用になりますが、楽天証券やSBI証券などのネット証券であれば、この運営管理手数料はかからないので、コストを大幅に抑えることができます。
最後に、iDeCoの運用商品についてもお話ししておくと、大きく分けて元本確保型商品と投資信託の2つに分類されます。
元本確保型商品とはその名の通り、元本が確保されている運用商品のことで、定期預金や保険商品などがあります。
投資信託については金融機関ごとにラインナップが異なりますが、つみたてNISAと同じように長期運用が前提となるため、やはり全世界株式や米国株式の投資信託が人気なので、検討してみるといいでしょう。
4-2-2.iDeCoのメリット
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
iDeCoには2つの税制メリットがあり、まず通常であれば、運用で得た利益の約20%は税金として納めなくてはいけませんが、iDeCoはNISA制度と同様で非課税となります。
ただし、つみたてNISAの非課税期間は積立を始めた年から最長20年と決まっていますが、iDeCoの非課税期間には制限がありません。
仮に30歳からiDeCo口座で投資信託を購入して60歳まで保有した場合、30年間は非課税で運用できるため、早く始めるほど非課税期間が長くなります。
さらにiDeCoは掛金が全額、所得控除になる大きなメリットがあります。
控除とは一定の金額を差し引くことで、所得控除は個人の所得税や住民税を計算する際、その人の所得から一定額を差し引き、税金の負担を軽くすることを指します。
少し細かいのですが、所得控除には基礎控除や配偶者控除、医療費控除など様々な種類があり、iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除に該当します。
要するにiDeCoの掛金で所得控除が増えれば課税所得は減って、所得税と住民税の負担を減らせるという認識でOKです。
仮に毎月の掛金が10,000円の場合、年間の掛金120,000円に所得税10%、住民税10%をそれぞれ掛けると、合計で年間24,000円もの節税になります。
所得税の税率は課税所得により決まるので、課税所得が多い人ほどiDeCoにおける節税効果は大きくなります。
一方、パートで働く主婦の方などは課税所得が比較的少ないため、節税効果が小さくなってしまう点は注意しましょう。
4-2-3.iDeCoの注意点
※『これだけやれば大丈夫! お金の不安がなくなる資産形成1年生』より
ただしiDeCoは決してメリットばかりではなく、2つの注意点もあります。
まずiDeCoは年金制度のため、原則60歳になるまで年金資産(掛金と運用益)を引き出すことはできません。
これを資金ロックと言いますが、仮にiDeCoを始めた後に子どもが生まれて、教育資金や住宅購入資金などでお金が必要になったとしても、iDeCoで運用しているお金を途中解約することはできません。
このようにiDeCoはライフステージの変化による支出に対応できない点はじゅうぶん気を付ける必要があり、将来の資産設計をきちんと行った上で始めることが大切です。
またiDeCoは受け取る方法で、税金が変わるので注意が必要です。
iDeCoは運用益が非課税で掛金も所得控除になりますが、60歳以降に年金資産を受け取る際、税金がかかる仕組みとなっています。
この受け取り時の課税はやや複雑で、受け取り方によって税金の計算方法が異なります。
iDeCoは一時金として一括で受け取るか、年金として分割で受け取るか、もしくは金融機関によっては一時金と年金の併用で受け取るかを選択できます。
この話はかなり複雑なのですが、ひとまずは一時金として受け取る場合は退職所得となり、退職所得控除によって税金負担は大きく軽減されることを知っておけばよろしいかと思います。
ここまで見てお分かりの通り、iDeCoはやや複雑な制度となっているので、つみたてNISAとどちらを利用するか迷ったら、まずは比較的シンプルで分かりやすいつみたてNISAから始めるのがいいでしょう。
5.老後の生活費の準備に早めに取り組もう
いかがだったでしょうか。
最初にお話しした通り、老後の生活費の平均は、65歳以上の単身無職世帯で144,687円、夫婦のみの無職世帯で255,550円とそれなりにかかってきます。
ゆとりのある老後を送りたいならさらに多くの老後資金が必要となりますが、けっして慌てる必要はありません。
つみたてNISAやiDeCoなどの資産運用に今から取り組めば、老後資金を着実に用意していくことができますので、思い立ったらぜひ始めてみましょう!