もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。
ペットを含めて家族計画を考える
いろいろな人の話を伺い気づいたのは、関係とは人間との間に限らない、ペットとの関係が生活の中心になっていたり、心のかなり大きな部分を占めていたりするということです。
50歳の女性は娘と二人暮らしですが犬を飼っており、とにかくもう可愛い、疲れたら犬に抱きつきほんとうに癒やされている、いろんなことを教えてもらっていると言っていました。
服を買って着せたり、写真に撮ったりするのが好き。
他に趣味はありません。
ちょっとした手術を受けさせても十万円するなど結構お金はかかるけれど構わない、自分は車も乗らないし旅行もそんなにしないので、と言います。
「家族」なんだなと思います。
犬の年と自分の年とを見据えて、将来も考えています。
犬は今7歳、あと10年は生きてくれるとしてそのとき自分は60歳。
その後は比較的年をとった犬を飼うことを考えています。
子犬からだと、自分にもしものことがあったとき責任が持てないので。
体力のことを考えたら小型犬を収入に合わせて飼っていきたい。
散歩やトイレや食事の世話はシッターさんにも頼めるそうです。
何らかの方法でずっと飼っていきたい、「娘が家を出て行った後も犬とはずっといっしょに生きていきたい」ということです。
似たようなことを話していた女性がいました。
下町で飲み屋さんをしていて、年は80歳近いと思います。
のら猫を保護したのがお店にもたくさんいて「猫のいない人生は考えられない、最期の日も猫に看とられながらあの世に行きたい」って。
まさに人生の伴侶なのです。
自分の老後は猫を看取ってから心配すればいい
68歳の女性も、保護猫だった猫を2匹飼っていました。
1匹を5年間の看病の末に看取ったところです。
週1回点滴を受けさせていたので、その間旅行なんてまったくしなかった。
もう1匹残っているので「この子がいる限り死ねない」と、「夫婦二人のプロジェクトはこの子を看取ることだ」と言っていました。
老後についての話を聞かせてもらおうとすると、自分のことよりまず猫でした。
飼い猫の老後が頭にあって、その先はあんまり考えられないということです。
知人でペットを看病の末に亡くした人がいます。
彼女の言うには人間と違って彼らは、どこが痛いとか苦しいとか自分では言えないので、飼い主が判断して、必要な治療を受けさせるしかない。
人間の家族であれば、本人の意思がありますが、ペットの病気はすべての判断と意思決定を自分がするわけだから、亡くなった後も悲しい、寂しいだけでなく、「もっと早く気づいていれば」とか「受けさせた治療が間違っていたのでは」とかと自分を責める気持ちや後悔がいつまでも続くそうです。
それだけ責任の重いことを引き受けるのは、裏返しで言うと、たいへんな目的意識と張り合いです。
可愛いとか癒やされるといった以上の何か強いものが、ペットとの間にはありそうです。
世話をしながら支えられている。
猫の看取りのことでいっぱいで、自分の死にはまだ実感を持てないというのは、それはそれで心の健康になっているのかもしれません。
先のことまで考えず今に集中できます。
95歳で猫を飼っている女性も言っていました。
「もう、つまらないし退屈だから早く死にたい」っていうことはペットがいたら絶対あり得ないと。
自分が先に死んだらどうしようというのは、元気でいることへの動機付けになります。
ペットがいると毎日忙しいそうです。
ご飯の世話やトイレの始末、犬だったら散歩にも連れていくし。
一日にリズムができるし「ご飯だわ」「散歩に行かなきゃ」とか毎日していたら、ペットに引きずられて長生きすることもありそうです。
さきのご夫婦が猫のことに集中しているのは、子どもがいないこともあるかもしれません。
私も実は家に犬がいたらいいなとはずっと思ってきましたが、仕事で家を空けることが多いので飼えませんでした。
自分の不注意とか世話が行き届かないとかで死なせてしまったら立ち直れないかもと。
ペットの最期まで責任を持ちたいという願いには、深く共感します。
【まとめ読み】「ひとり老後、賢く楽しむ」記事リストはこちら!
70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています