もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。
今の家、何歳まで住むつもりで選びましたか?
老後を考える上で住まいは、多くの人が考える問題だと思います。
住まいについて考えるタイミングは、たぶん二段階があるのではないでしょうか。
30代~40代に、賃貸のままか持ち家にするかをまず悩み、どちらを選んだとしても60代ぐらいからまた、その家でいつまで暮らせるかが気になりはじめる。
いわゆる老人ホームや高齢者向けの施設も視野に入ってきます。
二段階を合わせれば、住まいについて悩んでいる時期は結構長いです。
これでだいじょうぶ、という落ち着きを得られるときが、なかなかこない。
私は36歳のときにローンを組んで今の家を購入し、住み続けて20年以上になります。
30過ぎで購入を考えはじめたときから、高齢者のための福祉が充実している自治体に住むという方針がありました。
そのとき住んでいた市が、高齢者のそうした施策が割合行き届いており、全国でも先進的な取り組みをしていると聞いて、なら、この市で探そうと。
例えばリバースモゲージと言って、持ち家があると将来介護を受けるとき、そのときの家の評価額、例えば2千万としたら、家を売らずに住み続けその2千万円の範囲で、有償のケアをいわば「買う」、亡くなった後に清算する、という仕組みがあります。
ふつうはサービスを「買う」とすると、まず家を売ってお金に替えないといけないわけですが、すると、住むところはどうしましょう、となる。
そこを、持ち家を手放さずに死後清算できる。
その仕組みをこの市がはじめたと聞き、心強く思い、でもその制度を活用するには、持ち家がなければだめなのだなと。
マンションのチラシをずっと見ていましたが、これはと思う物件になかなか出会えませんでした。
後で気づいたのですが、チラシは新築物件の広告がほとんどなので、限られるんです。
36歳のあるとき、駅前の不動産仲介会社にふっと立ち寄り、「この市で探しています」と話したら、中古物件を含めて紹介され、その中のひとつが今の家です。
20年前に想像した「老後」、今想像する「老後」は違う
ただ36歳で「ここだったら老後もいいな」と思うのと、実際に20年住んでみた感じは違ってきます。
「年とってからは無理かな」と感じることがいっぱい出てくるのです。
例えばうちはマンションの割に天井が高いです。
36歳ではそれも「年をとってずっと家にいるようになっても、開放感があっていいわ」と思っていました。
窓も結構多いです。リビングも三方に窓がある。
それも同じく「年をとってずっと家にいるようになったら、開放感があっていいわ」と。
でも天井が高いと、電球を替えるのに脚立の最上段に登らなければならない。
3段の脚立を買って、その最上段でつま先立ちしていましたが、危なっかしくなって、4段の脚立、しかも最上段に手すり付きのに買い替えて、それでも電球の取り替えはやはり負担に。
窓が多いのも、外気の影響を受けやすくて、冬は寒く夏は暑くて、体にこたえます。
そういうふうに、36歳の時点では年をとったときの利点だと思っていたことが、体の状況がだんだんに変わってくると、「そういうもんじゃなかった」とわかってきました。
家の内部だけでなく場所も、1回変えようかなと思ったことがありました。
40歳で病気をし、それは36歳でここの住まいを購入したときは計画にまったくなかったことです。
通っていた病院が都心にあって、到着までに1時間はみないといけない。
治療したばかりの頃は通院も頻繁で、弱った体には負担だし、治療の後遺症でまだときどき入院もしていました。
突然の入院で、後から何かを家に取りに行きたいなと思っても遠いし、タクシーだとお金がかかる。
病院に近い都心に家を買い換えるか、買い換えずにこの家を人に貸して、その収入で自分はワンルームでもいいから都心に借りて住もうかと、病院の近くの不動産仲介会社に行くまで、思い詰めたのです。
でも都心は買うにしろ借りるにしろ高いので諦め、がんばって通院しているうちに、通院も入院も頻繁でなくなって、結果的には今の家に住み続けられました。
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70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています