もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。
80代父親の介護経験が役立ちました
36歳のときにローンを組んで今の家を購入し、引っ越さずになんとか住み続けてきて、病気との向き合いも一段落したところで、家のリフォームをしました。
エイジングを考えてのリフォームです。
この家の弱点でもあった、窓の多さから来る外気の影響の受けやすさは、インナーサッシを取り付けて二重窓にしたり、それができないところは窓ガラスそのものを2枚重ねのものにしたりして対応しました。
1階のため下の冷えも厳しかったのです。
これも36歳で購入するときは「1階で専用庭がついているから、年をとったら庭いじりができていいわ」と脳天気に考えていて、下からの冷えにまったく気づきませんでした。
それに対しては、床下に断熱材を張り込み、その上にガス床暖房の設備を敷き、その上に床を張りました。
老後を見据えての工夫は、他にもあります。
扉も左右に引く方が、手前に引く方より高齢になると開け閉めがしやすいので、引き戸に変えました。
高齢になると夜中のトイレが頻繁になるので、トイレと寝室を近くしました。
トイレは独立させず、脱衣所兼洗面とつなげて、浴室の前までひと続きにしました。
リフォームより前に親の介護を在宅で5年間していて、そのとき得た気づきが大きかったです。
介護に通いやすいよう、自分の家の近所にマンションを探して、親に住んでもらったのですが、そのときでさえ、親の老いの予測と現実がどんどん離れていくことを経験しました。
例えば探しはじめたとき、親が将来、室内で車椅子で暮らすことになることを考え、「車椅子で入れるトイレのあるマンション」を条件にしていました。
でもふつうの民間住宅のトイレはそんなに広くなく、それを条件にしていたらいつまで経ってもみつからない。
車椅子で入れるトイレは諦めて、「では緊急時に通報のできるマンション」をと。
購入したマンションにはセコムの通報システムがついていて、何かあったら緊急時対応センターと話ができるし、通じて、来てもらえるというので、私はこれは万全だなと思ったのです。
ところが85歳の親が住んでみると、通報スイッチがもう覚えられなかった。
認知症もはじまっていたようです。
スイッチは大きくて目にはつきやすいので、何だろうと思うのか、押してはセコムの人が来てしまうことを繰り返し、ガムテープで保護して「さわらない」と赤で書いて、親が押せないようにするという、悪い冗談みたいになってしまった。
ことほどさように、年をとってどんな住まいが最適かは予測しきれない。
リフォームに生かせる学びは、他にもありました。
親のために買った家は手すりはついていませんでした。
介護保険を申請したら、専門家が来て親の動作を見て、それに合わせて必要なところに手すりをつけてくれました。
費用も1割負担ですみました。
エイジングを見据えたリフォームというとまず、手すりって思うけれども、必要になってからでいいのだと思いました。
前もって予測でつけるより、必要に応じたものになるでしょうし。
私のリフォームでは手すりはつけず、将来つけることになった場合に備え、つけられる下地を壁に仕込んであります。
外からは見えませんけれど、叩くと音でわかるそうです。
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70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています