もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。
超高級シニア向けマンションは夢のような設備だった!
高齢者施設も、住まいの選択肢のひとつです。
見学は早いうちからがいいと、前にファイナンシャルプランナーの畠中雅子(はたなかまさこ)さんがおっしゃっていました。
差し迫らないうちからたくさん見ておいた方がいい、将来どんなところが自分に合うかとか、自分の中でだいじにしたいこととかがわかるからと。
私も見る機会は何回かありました。
印象的だったのは、俳句のご縁で存じ上げている80代後半の女性のマンション。
行くときは高齢者向けシニアマンションとは知らず、したがって見学という意識はなかったのです。
マンション内にみんなで集まれる部屋があり、食事もとれるので句会をしましょうとのお誘いでした。
二十人くらいの句会だったと思います。
行ってみたら、臨海地区にある三十何階建てのタワーマンション。
句会をする部屋もマンションによくある集会室を想像していたら、結婚式場の一室のような、広くてきれいなガラス張りの部屋で、テーブルには白いクロスが掛けてあります。
二方を占める窓からは、隅田川を行く船が見下ろせて、右手にスカイツリー、左手に東京タワー、目の前には聖路加病院、がんセンターと、医療機関にも恵まれたロケーションです。
句会がはじまったのは夕方の早いうちで、暮れてきたらもう夜景が美しいこと。
食事はお弁当と聞いていましたが、折詰ではなく塗りの器に入ったものを、黒服の給仕係りが一人、一人に出してきます。
ご飯は温かく、お吸い物は熱々で。
入っている業者さんは関西の有名割烹でした。
句会と食事の後は、最上階の天空ラウンジで、夜景を眺めながらコーヒーを。
建物内にはフィットネスあり、プールもあり。
クリニックもあって、ちょっとした不調はそこで治せて、対応できないときはクリニックと提携の病院に行ける。
認知症になっても出なければならないことはなく、認知症のケアの受けられるフロアに移って終生そこで介護を受けられるそうです。
後で人に話したら、そこは有名な高齢者施設で、「あそこを最初に見たらだめ。他のどこを見てもちゃちく思えてしまうから」と言われました。
帰りに玄関にあったそこのパンフレットをもらってきましたが、月々の支払いは20何万で意外と高くない。
でも入居一時金が5000万とか1億とか。
そこから仕事に通っている人もいるそうです。
現役まっただ中なら高齢者向けマンションに住む必要などないのではと思うけど、現役は現役で忙しいのでハウスキーピングまで手が回らない。
こういうところに早々と移り、将来の保障も確保しつつ働く、という生き方もあるでしょう。
住むだけでなく、食事も運動もクリニックもよそに行かなくてすむ。
ワンストップ型というのでしょうか。
元気なうちからそういうところに住み、将来の不安なく、現役時代を謳歌する。
ひとつの理想形かなと思いました。
でも資金的に、それができる人は限られるでしょう。
【まとめ読み】「ひとり老後、賢く楽しむ」記事リストはこちら!
70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています