定年退職の後や年金受給の時期など、考えなければならないことが山ほどある「老後の暮らし」。哲学者・小川仁志さんは、これから訪れる「人生100年の時代」を楽しむには「時代に合わせて自分を変える必要がある」と言います。そんな小川さんの著書『人生100年時代の覚悟の決め方』(方丈社)から、老後を楽しく生きるためのヒントをご紹介。そろそろ「自分らしく生きること」について考えてみませんか?
マイホームは人生100年時代になじまない
かつて「憧れのマイホーム」という言葉をよく耳にしました。
都会で働くサラリーマンにとって、自分の家を持つというのはまさに憧れだったわけです。
35年ローンを組んで、定年までローンを払い続ける。
そうしてようやくマイホームを手に入れたときには、わずかな余生を送るだけの人生が待っているのです。
もう少し前向きな表現をするなら、「終の棲家」になるとでもいえましょうか。
マイホームが人生の最期を迎える場所になるのです。
こうした住む場所に関する考え方は、終身雇用で同じ会社に属して最後まで勤め上げるという生き方と連動しています。
35年間安定した収入があるという見込みのもと、はじめて銀行はローンを組んでくれるのです。
しかし、マイホーム型の人生は、100年時代にはふさわしくありません。
まず仕事がどうなるかわからないのに、35年もローンを組むのはリスクが高いでしょう。
それに同じ場所に住み続けるかどうかもわからないのに、家を買うと損なだけです。
住まない家ほどマイナスなものはありません。
人に貸していても同じです。
実は私もまさにその状況にあるので、日々痛感しています。
旅先で死んでもいい、お墓もいらない
では、100年時代における住まいの考え方はどうあるべきなのか?
名づけるならグローブトロッター型でしょうか。
グローブトロッターとは、世界旅行者という意味で、仕事で世界を飛び回っている人のことをいいます。
そういう人は一か所にとどまるよりも、色んなところを見てみたい人です。
だからマイホームや終の棲家にはあまり関心がないのです。
なんだったら旅先で死んでもいいとさえ思っています。
なぜそんなことがわかるのか。
何を隠そう、私自身がそうなのです。
かつての私は、住まいに関してマイホーム型の発想を持っていました。
だから35年ローンを組んだのです。
なんのためらいもなく。
当時は市役所職員でしたし。
しかし、哲学者になって生き方が180度変わりました。
世界に目を向け、海外に住み、旅するうちに、グローブトロッターになっていったのです。
そして住まいに関しても、グローブトロッター型の発想を持つようになりました。
今はどこか知らない世界に住み、そこで死んでもいいと思っていますし、旅先で死んでもいいとも思っています。
お墓もいりません。
人生100年もあると、この先どこで何をするかは予測不能です。
環境も大きく変わるでしょうから、必然的にその環境に影響を受けるに違いありません。
それくらい柔軟に考えておけば、少なくとも土地に縛られることはないでしょう。
かといって、故郷を軽視すればいいとか、捨てればいいという意味ではありません。
これから住む場所と違って、故郷は変えることができませんから。
それはアイデンティティの一部のようなものであって、いつまでも大切にすべきです。
遣唐使として派遣され、かの地で亡くなった阿倍仲麻呂のように。
「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」。
故郷を離れて27年、彼の歌はいつも私を勇気づけてくれます。
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