選ぶ、捨てる、NOと言う!50代の哲学者が考える人生100年時代の「欲望のコントロール」

定年退職の後や年金受給の時期など、考えなければならないことが山ほどある「老後の暮らし」。哲学者・小川仁志さんは、これから訪れる「人生100年の時代」を楽しむには「時代に合わせて自分を変える必要がある」と言います。そんな小川さんの著書『人生100年時代の覚悟の決め方』(方丈社)から、老後を楽しく生きるためのヒントをご紹介。そろそろ「自分らしく生きること」について考えてみませんか?

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地球に負荷をかけず、シンプルに生きる時代

知識については蓄積型ではなく使い捨て型がいい、これはあらゆる物事に当てはまります。

そこであらゆる物事に当てはめる場合は、収集型ではなく、片付け型がいいと表現したいと思います。

どう違うかというと、たとえば物の場合、集め出すとどんどんたまっていきます。

だから片付ける必要が出てくるのです。

これは必ずしも使い捨てのものばかり利用すればいいというのとは違います。

それでは環境にもよくないでしょう。

使い捨てでいいのは、形の残らない情報だからそう表現したまでです。

基本的に物の場合は、そもそも手に入れないようにしなければなりません。

でも、必要最小限の物はいるでしょうから、いかにうまく選択するかです。

長持ちするものを選ぶ力といってもいいかもしれません。

人生一〇〇年時代の到来と軌を一にして、地球規模で生じている新しい地質学上の時代に入ります。

地球の歴史において、初めて人類が地球に大きな影響を与える時代が訪れたのです。

これまでは逆でした。

地球の自然が人間に影響を与え、支配してきたのです。

ところが、地下資源の採掘、地球温暖化、海洋汚染などを見ても明らかなように、地球は完全に人間の支配下にはいってしまっています。

こうした時代にあって、私たちは今、生き方の転換を迫られているのです。

100年という長きにわたって、一人の人間が地球に負荷をかけ続けたらどういうことになるか。

だからもっとシンプルに生きなければならないのです。

その危機感はあの大量消費大国アメリカにさえ生じ始めているといっても過言ではないでしょう。

『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)で有名な片付けコンサルタントの近藤麻理恵さん、通称コンマリがブレークして彼女の番組がエミー賞まで受賞したのは、その証左です。

欲望を絶つことはできないが、コントロールすることはできる

シンプルに生きるためには、選ぶ力、捨てる力、ノーという力の三つが求められます。

いわゆる断捨離はこうした三つの力を一つの思想に昇華したものですが、私にいわせると少しずつ異なります。

断捨離の「断」は、入ってくる不要な物を断つという意味ですが、私の場合はもっと積極的に本当に必要なもの、本物を選びましょうといいたいのです。

その点でよりポジティブな発想だといえます。

断捨離の「捨」はいらない物を捨てる勇気を指していますが、同じ捨てるでも、私の場合はいるものも捨てるという、より積極的なものです。

シンプルライフは、生活そのものの転換ですから、今まで必要だと思っていたものでさえ根本的に見直さなければならないのです。

断捨離の「離」は、物への執着から離れるという高尚なものですが、私のいうノーという力は逆にもっと現実的なものです。

物欲を捨てるなどというのは、なかなかできるものではありません。

それに、人間の欲望は一つの大きなエネルギーのようなものなので、物欲だけ捨てるということは本来不可能なのです。

それをすると、ほかのエネルギーも弱まってしまいます。

そこで、私たちがすべきは、欲望をコントロールすることだと思います。

強い意志を持つことです。

強い意志さえあれば、欲望を捨てずとも、飼いならすことができるはずです。

ノーというのには強い意志がいりますが、それができるようになったとき、ようやく私たちは、人新世と100年時代が織り成すこれまで見たこともない二重の螺旋階段を上っていく力を手にするのです。

選ぶ力、捨てる力、ノーという力は、断捨離よりも積極的な「選捨ノー」です。

奇しくも私は、昔から洗車があまり好きではありません。

大きな車を洗う水がもったいないし、大量の洗剤を流すので環境にもよくないと感じていました。

車は消費社会の象徴のような存在です。

だからこそ「洗車ノー」ならぬ「選捨ノー」をスローガンにしてはどうかと思うのです。

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選ぶ、捨てる、NOと言う!50代の哲学者が考える人生100年時代の「欲望のコントロール」 117-H1.jpg哲学者が語る20の人生訓や新時代への考え方など、人生を豊かにしてくれる言葉が全5章にわたってつづられています

 

小川仁志(おがわ・ひとし)
1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。大学で新しいグローバル教育を牽引するかたわら、「哲学カフェ」を主宰する。NHK・Eテレ「世界の哲学者に人生相談」に指南役として出演。最近はビジネス向けの哲学研修も多く手掛けている。

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『人生100年時代の覚悟の決め方』

(小川仁志/方丈社)

現在40歳の人の平均余命は残り44年。人生もう1回分あるのが今の時代です。これまでの価値観や方法は通用しないかもしれません。時代の変化に合わせて、自分を変えて、老後や余生を自然体で生きれるように。これからの人生を準備するための一冊です。

※この記事は『人生100年時代の覚悟の決め方』(小川仁志/方丈社)からの抜粋です。

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