日々のストレスから、体も心もなんだか重い...そんな人は、ぜひ「自律神経」を整えてみて! 自律神経研究の第一人者の小林弘幸さんとミュージッククリエイター・大矢たけはるさんがタッグを組み、『医者が考案した聞くだけで自律神経が整う15曲』(アスコム)を出版。その中から「音楽を聴くことで自律神経が整う仕組み」「自律神経タイプチェック」など心身の不調を解消するヒントをご紹介します。
私が自律神経に注目したのは、これが理由でした
私は若い頃から自律神経を専門に研究してきたわけではありません。
本腰を入れて研究し始めたのは、教授になる5年前のことです。
どうして自律神経に着目するようになったのか。
それは、私自身が「悪い流れ」を断ち切って、「いい流れ」に乗っていきたかったからです。
その経緯をここで少しお話ししておくことにしましょう。
人間関係のストレスで「サザエさん症候群」になる
私は30歳のときから35歳のときまで、イギリスの大学病院に留学していました。
とても有意義な留学生活であり、多くのことを身につけて帰国した私は、その知識や技術を生かして仕事に励もうと、気持ちも新たにはりきっていました。
ところが、そんな私に大きな壁が待ち受けていたのです。
帰国してから教授になるまでの10年間は、私の人生にとって、もっとも厳しい時期となってしまいました。
いちばん疲弊させられるのは、人間関係のストレスです。
どんな社会でも人間関係は一筋縄ではいきません。
誰それと誰それが敵対しているとか、誰それは、誰それの昇進に嫉妬しているとか、とにかくめんどう極まりないのが現代社会です。
何か新しいことでも提案しようものなら、あっちに話をつけ、こっちのご機嫌を伺い、周到に立ち回ってかなりの労力を費やさなくてはなりません。
それに、上から理不尽な要求を突きつけられたり、めんどうな仕事を押しつけられたりすることもしょっちゅうでした。
そんな環境で働いていて、ストレスがたまらない人などいません。
しかも、その頃の私は、毎日朝から晩まで仕事漬けの生活を送っていました。
朝7時には病院に来て、日中は手術や診療で昼食をとる暇もないほどに忙しく、夜は日付が変わる時間まで残務整理をしているのが当たり前。
家には寝に帰るようなもので、病院で夜を明かすこともしょっちゅうでした。
いま考えると、当時の私の自律神経は、かなりめちゃくちゃな状態になっていたのではないかと思います。
どっぷりとストレスにハマっているうえ、休む間もなく、時間に追われるように次から次へと仕事、仕事......。
私は、別に仕事に邁進(まいしん)することが嫌いではありませんでしたが、きっと、自分でも気がつかないうちに、心と体をパンク寸前まで擦り減らしてしまっていたのではないかと思います。
何ものかにとりつかれたように仕事をするうちに、心身に不調を覚えるようになっていきました。
みなさんは「サザエさん症候群」をご存じでしょうか。
じつは、私は30代の終わり頃にこれになったことがあるのです。
「サザエさん症候群」とは、日曜日の夕方、テレビから『サザエさん』のテーマソングが流れてくる頃合いになると、〝ああ、明日はまた仕事かあ〟という思いから憂うつになってしまう病態のことです。
私は自分の仕事が好きだったので、この症状に気づいたときはけっこうショックでした。
いくら気持ちを切り替えようとしてもダメ。
日曜日、美しく沈む夕日を見ていると、心までどんどん沈んでいってしまうのです。
もっとも、私も医者のはしくれですから、自分に現われた症状が「自律神経のSOS」であることはすぐにわかりました。
そして、その後は生活を見直し、できるだけ自律神経のバランスを整えるように心がけました。
自分からブレーキをかけて無理を慎み、休めるときはしっかり休むようにしたのです。
すると、忙しいなかでも、少しずつ心と体に余裕を持って行動できるようになり、「サザエさん症候群」の症状も、いつの間にか現われなくなっていきました。
「音楽が自律神経に効く」ことを実感する
ですから、自律神経を整えるために役に立ちそうなことは、何でもやってみるようにしました。
まっさきに飛びついたのが音楽です。
それまでの人生でも音楽を聞いて救われた気持ちになったことが何度もあったので、私は「音楽が自律神経に効く」ということに自信を持っていました。
実際に大きな効果が感じられ、以来私は、余裕のないときや落ち込んだときには、決まって音楽を聞くようになりました。
そのほかにも、日記をつけるようにもなりましたし、香りの効果を試したりもしました。
そして、そうやって自律神経をバランスよくキープしていれば、心も体もいい状態にシフトしていけることがわかるようになってきました。
自律神経というメカニズムに人を変える大きな力が潜んでいることも、おぼろげながら見えるようになってきました。
それで教授になって、私は自律神経の研究に本腰を入れる決意をしたのです。
つまり、私が自律神経研究にたどり着いたのは、自分自身が早く悪い流れから脱出したかったから。
〝自分のこの状況を変えたい〟という一心があったからこそ、「いまの私」があるのです。
自律神経は自分でコントロールできるものです 自律神経には「交感神経」と「副交感神経」とがあります。
私たちの体のなかで、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキの役割を果たしています。
交感神経のアクセルを踏み込むと、血管が収縮して心拍数や血圧が上がり、気持ちが高ぶってアグレッシブな方向へシフトすることになります。
一方、副交感神経のブレーキを踏むと、血管が拡張して心拍数や血圧が下がり、気持ちが落ち着いてゆったりリラックスする方向にシフトするわけです。
現代人は交感神経ばかり上がりっぱなし
この交感神経と副交感神経は、両方とも高いレベルでバランスよくキープされているのがベストです。
両方ともハイレベルで安定しながら、日中は交感神経が少し高いくらい、夜間は副交感神経が少し高いくらいになるのが理想的です。
反対に、どちらか一方にバランスが偏った状態が続くと、心身にさまざまなトラブルが生じることになります。
ところが、現代人には、このバランスを大きく崩している人がたいへん多いのです。
とりわけ目立つのは、交感神経ばかり上げっぱなしで、副交感神経の働きを落としているタイプです。
なお、このように交感神経優位タイプの人が多くなっているのは、「交感神経が上がりやすいから」でもあります。
交感神経は身に危機が迫ったときに〝緊急スクランブル〟的に心身機能を引き上げる役割をしているため、もともと上がりやすくできています。
これに比べると、副交感神経の上がり方は緩慢(かんまん)です。
要するに、自律神経は、交感神経だけを上げるのは簡単なのですが、交感神経と副交感神経の両方のレベルを引き上げるのはけっこう難しいのです。
車にアクセルとブレーキの両方が必要なように、交感神経と副交感神経との両方が高いレベルで安定していてこそ本来の力を発揮するようにできています。
ですから、自律神経のバランスを整えたいなら、まずは下がりっぱなしの副交感神経を引き上げるのがファーストステップ。
そのうえで、交感神経と副交感神経が「両方ともハイレベルで安定した状態」をキープしていかなくてはならないということになります。
そして、その状態をコントロールする最良の方法が「音楽」なのです。
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