家族に仕事、人間関係など、人生にはさまざまな悩みがつきもの。精神科医として、70年近く働いてきた中村恒子さんの著書『うまいことやる習慣』(すばる舎)には、そんな悩みとの向き合い方や受け流し方のヒントが詰まっています。多くの人を勇気づけてきた言葉から厳選して、連載形式でお届けします。
家庭の平和が、何においてもいちばん。それさえ守れれば、あとはぼちぼちで。
私が働く上で心がけてきたことは、「家庭の平和」です。
いざこざがあったり雰囲気がギクシャクしていたりすると、子どもたちの精神状態は確実に悪くなります。
夫婦ゲンカが絶えない家、家族の中で嫁姑が激しくいがみ合っている家など、家族の間の緊張度が高い家庭の子どもは、学校へ行かなくなってしまったり、非行に走ってしまったり、精神的な問題が出やすい。
これは、昔から変わらんのです。
特に大事なのは母親で、お母さんが安定していないと、もろに子どもの精神状態に影響が出てしまいます。
私も結婚して子どもができましたけども、そうなったら己が思うようにならないことがあっても、子どものために家庭の平和を第一に考えようと思いました。
しょうもないことでなんやかんやと言い争うことなく、家庭の雰囲気を穏やかにすることですわ。
何よりこれは、子どものためだけやない、親のためにも必要なことです。
子どもが病気になったり非行に走ったりしたら、気もそぞろになって、それこそ仕事どころやなくなってしまいます。
親の都合で子どもの心を乱したら、それはぜんぶ、親に跳ね返ってくるもんなんです。
我が家の夫は飲み歩いて散財する人でしたから、生活費は自分で働いて稼ぐ必要がありました。
ただ、なかなかまわりの理解も得られませんでしたし、買い物するお店も暗くなれば閉まってしまう時代ですから、まあ不便です。
医者の旦那さんがいるのに、なんでこんなことになったんやろうかと情けなくなったこともあったけど、不思議なもんやね。
他に選択肢がなくなって、やるしかならなくなれば、なんとかなる。
人間っていうのは、そういうもんやと思いますな。
いろいろ選択肢があると他の道が気になってしまうけども、「これしかない」となると、意外とやれてしまう。
それくらいに人は強いんやと考えておくと、気もちょっとはラクになるでしょう。
そうは言うても、子育ては大変。
今はシングルマザーの多い時代ですから、特に子どもが小さいうちは仕事と家庭の両立には苦労するやろうと思います。
患者さんや職場の若い女性と話をしていてもそう思います。
「自分はこんなにがんばっているのに、なんで思うようにならないんやろ?」と家庭のことがわずらわしくなることもあるやろうけど、そういうときは、あきらめられるとこは、どんどんあきらめたらええ。
子育ても家庭も、中途半端でええんです。
「ぼちぼち」ってことやね。
よその家庭はこうやから、世間では普通こうやからと、ヘタに比べるもんやなくて、「うちはこうやから、仕方ないんや」と開き直ってしまうことが肝心です。
よくないのは、「なんで自分だけ」とイライラがたまって、それを子どもにぶつけてしまうことです。
それは、ぜんぶ自分に返ってきてしまう。
それを覚えておくと、優先順位のつけ方も変わってきますわな。
完ぺきでありたいっちゅうのは、親側の勝手な都合なんです。
子どもの幸せにはまったく関係ないもんです。
理想だけ高くして、あれができない、これができないと悩むよりも、親がニコニコ笑って機嫌よく子どものそばにいてあげるほうが、よっぽど子どもの成長には大切なことです。
あれやこれやしてあげられなくても、親が精いっぱいの愛情とともに見守ってくれていることを感じられると、子どもは安心してがんばることができるんですから。
そもそも、子育ては永遠に続くわけではありません。
しんどいときもあるかもしれへんけど、子育てが終わったあとの人生も長く、おもしろいもんです。
それを楽しみにしておくのもええんやないでしょうか。
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