「お金のためと割り切ってええやない」キャリア70年の精神科医が教える「なんのために働くのか」

家族に仕事、人間関係など、人生にはさまざまな悩みがつきもの。精神科医として、70年近く働いてきた中村恒子さんの著書『うまいことやる習慣』(すばる舎)には、そんな悩みとの向き合い方や受け流し方のヒントが詰まっています。多くの人を勇気づけてきた言葉から厳選して、連載形式でお届けします。

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「お金のために働く」でええやない。

精神科医の仕事をしていると、「なんのために働くのか」と悩んでいる人にしょっちゅう出会います。

仕事の内容にやりがいがない、誰にも褒められない、人間関係がつらい、原因はそれぞれ。

みなさんつらそうにされてます。

でも、考えてみてほしいんです。

そもそも、人はなんのために働くのでしょうか?

「やりたいことを実現するため」やったり、「夢をかなえるため」やったりするかもしれません。

それも、正解だとは思います。

でもね、もっと根本的なことを言えば、生活をするため人は働くんです。

それは、大昔から変わりません。

自分を食べさせていくため、家族を食べさせていくために働く。

それが仕事のいちばんの目的です。

心身にハンディキャップのある人は別やけど、健康な人はみな自分を養っていく責任があるんです。

自分自身を食べさせていくことができるようになって、己の足だけで社会に立てるようになって、はじめて「一人前の大人になったなあ」と認めてもらえる。

だから、お金のために働くっていうのは、何も恥ずかしいことやない。

あたりまえのこと。

とっても立派なことやと思います。

直接お金になってはいなくても、旦那さんや奥さんが働いているのをサポートして、家庭を守る。

子どもや家族のめんどうを見る。

それも大事なお仕事ですな。

お金の額は関係ありません。

自分や家族が生活できているんなら、それで十分。

人はそうやって生きてきたんです。

そもそも私が医者になったのも、「人を助けたい」なんてたいそうなもんではありません。

「いろんな流れでたまたま」そうなっただけですわ。

私は1945年6月、16歳のときに広島の尾道から大阪へ向かいました。

終戦直前やったので、列車はぼろぼろで、デッキも入口も人でいっぱいのすし詰め状態。

親切なおばさんが窓から引っ張り上げてくれて、やっと乗り込んだのを覚えてます。

私の家は父がしがない小学校の教員で、子どもが5人。

両親は弟2人を溺愛し、私は「女学校を出たら教師になるか嫁に行くかして、できるだけ早く自立するように」と言われて育ちました。

何も特別なことはない、田舎の子だくさんな家庭ではそれがあたりまえやったんです。

そんな環境なので、私は早く働き口を探さんといけなかった。

そんなとき、大阪で開業医をしていた叔父が「親族で医者になりたい者がいたら、学費を全部めんどう見る」と申し出てくれたんです。

当時は、男性の医者がごっそり軍医に取られてしまって極端な医者不足だったんですね。

そんな経緯で、私は医者の道を目指すことになりました。

楽しいか楽しくないか、やりたいかやりたくないかではなく、それしかなかった、だから働いている。

そんな感覚です。

ちなみに私は、開業医ではありません。

70年くらい医者をやってますけど、その間はずっと勤務医。

サラリーマンなんですわ(笑)。

特に野望もなく、子どもを育てるためにお金が必要やから働いてきた。

そしたら子どもたちもとっくに独立して、私もええ歳になったからやめたいんやけど、なじみの患者さんもいてなかなかやめられへん......。

そんなこんなで、気づけば約70年です。

よく言えば、流れに身を任せていると言うんでしょうかな。

大げさなことは考えんようにしてます。

仕事に対する構え方は、そんなもんでええのでないでしょうか。

今は人を不安にさせるニュースやったり、誰がどんな暮らしをしてるとか、いろんなことが見えやすい時代なんやと思います。

せやから、不安や不満で大変な気持ちになってしまうのはわからんでもない。

でもね、先行きが不安、どうなるのかわからないのは、いつの時代も一緒なんですわ。

もうこれは、私たちがちょっとあがいたところでどうしようもないことが多い。

政治や経済がなんやかんやの前に、目の前の生活があって、自分を、家族を守っていかないとなりません。

せやから、「なんで働くんやろ?」と迷ったときには、単純に「働くのは、自分が食べていくお金を稼ぐため」と割り切ってええと思いますよ。

それが、人間が働く原点なんですから。

「生きがい」とか「己の成長」なんていうのは、自分をちゃんと食べさせられるようになったあとに、余裕があったらボチボチゆっくり考えていけばええと思います。

人生は長いんです。

今すでに自分を食べさせるだけのお金を稼いでいる方は、十分立派。

それで満足できないのなら、何かが欲求不満なんでしょうな。

じゃあ、なんの欲求が足りてないのか、すこーし考えてみてもいいかもしれません。

生きるために働くことは、何も恥ずべきことではないんです。

生きるのがラクになる「うまいことやる習慣」記事リストはこちら!

105-H1-umaikoto.jpg「仕事」「人間関係」「生き方」などの6テーマから、キャリア70年を誇る精神科医が考え至った37のメッセージがつづられています

 

中村恒子(なかむら・つねこ)
1929年生まれ。精神科医。1945年6月、終戦の2カ月前に医師になるために広島県尾道市から1人で大阪へ。混乱の時代に精神科医となる。子育てを並行しながら勤務医として働き、2017年7月(88歳)まで週6日フルタイムで外来・病棟診療を続けた。「いつお迎えが来ても悔いなし」の心境にて生涯現役医師を貫く。

奥田弘美(おくだ・ひろみ)
1967年生まれ。精神科医・産業医。日本マインドフルネス普及協会代表理事。

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『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』

(中村恒子・奥田弘美/すばる舎)

悩んだり、立ち止まったり、いろいろあるのが人生。本書は、そんな人生をたんたんと生きてきた精神科医・中村恒子さんの波乱万丈な半生を軸に、「うまいことやる考え方」がつづらています。彼女のどこまでも自然な姿に、「こんな生き方でもいいのか」という気づきを与えてくれる一冊です。

※この記事は『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(中村恒子・奥田弘美/すばる舎)からの抜粋です。

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