具体例から学ぶ。「中高年ひきこもり」を持つ親は、20年後をどう考えるべき?

中高年の人で、経済的に自立できずに親の収入に頼った暮らしをしている人は少なくありません。その親世代は、子どもの将来に不安を感じているようです。収入面に不安がある人の親からの相談を受けているファイナンシャルプランナーの阿部達明さんに、「中高年ひきこもり」を持つ親の考え方について聞きました。

具体例から学ぶ。「中高年ひきこもり」を持つ親は、20年後をどう考えるべき? pixta_50051640_S.jpg資産や年金でのやりくりを考える

ひきこもりの子どもを持つ親は、子どもの10年後、20年後のお金について、どのように考えればいいでしょうか。

「自分の老後の生活も考えながら、子どもの将来についても、見通しを立てておくことが大事です」と阿部さんは話します。

まず現在の家計を把握するために、毎月の収入と支出の金額、預貯金などの資産額を書き出してみましょう。

いまのお金の流れをつかみ、減らせる支出があればできるだけ減らして将来に備えます。

不足しそうなお金が月に数万円程度のときには、アルバイトをするなどの方法もあります。「いま賃貸住宅に住んでいる人は、子どもが1人になったときの住居についても考える必要があります。『居住支援法人』の利用を検討するといいかもしれません」

具体例から学ぶ。「中高年ひきこもり」を持つ親は、20年後をどう考えるべき? 1911p030_01.jpgひきこもりの子が将来も生活を維持するための方法

・1か月の生活費が3万円不足:アルバイトをする

毎月、不足する3万円分を補うために、無理のない範囲でアルバイトをします。

月に十数万円の給与をもらうことは難しくても、例えば教えるのが好きな人なら、週に数回、塾で1対1の個別指導の講師をします。

・資産がなく生活費が足りない:生活保護を受ける

国が定める最低生活費よりも世帯収入が少ないとき、不足分が生活保護費として支払われます。

最低生活費は家族の人数や年齢、地域で異なります。

例えば東京23区内の50歳で単身世帯では月額13万2,530円。

・持ち家がない:居住支援法人を利用する

無職で1人暮らしの人は住宅を借りにくいですが、自治体が指定する「居住支援法人」に無料で相談でき、不動産会社に同行してもらい住宅探しができます。

入居後も見守りや生活相談などの支援があります。

将来のお金について悩んでいる親は多い

ひきこもりの子どもがいる家庭の中には、子どもの将来のお金に不安を感じて、阿部さんに相談しながら、少しずつ対策を立てている場合もあります。

相談に来る親からよく質問されるのが、ひきこもりの子どもの小遣いについてです。

「子どもに小遣いは必要です。支出を減らしたいからと小遣いをなしにすると、お金を管理する練習ができず、自立に向かいにくくなるからです」と阿部さん。 

飲み物などの購入、外出時の交通費、身なりを整えるためのTシャツの買い替えなど、自分でお金を管理するようになるそうです。

「渡す金額は、家計に合わせて毎月5千円から2、3万円ぐらいが適当だと考えられます」

生活保護も一つの手段として検討

親の死後、ひきこもりの子どもが1人暮らしになると、年金などでは収入が足りず、預貯金も底をついてしまう恐れがあります。

生活に困るようなら、「生活保護」を受けるのも有効な手段です。

「ひきこもりの子どもが、生活保護を嫌がることもあります。しかし、生活保護は一生、受け続ける必要はなく、生活を立て直すことができれば、受給をやめることも可能です」

将来、ひきこもりの子どもが国の制度を利用しようとしても、「一人で外出できないので、申請できない」「相談する相手がいない」などのことから、制度を利用できないことも考えられます。

「親は元気なうちに、将来の子どものお金のことを専門家に相談しておくと安心です。ひきこもり支援団体などとつながりを作っておけば、情報が得られます。親御さんが1人で抱え込まないことが重要なのです」

「お金の悩み」どんな相談が多いのでしょうか

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<相談内容>

次女は大学卒業後、正社員として働き、うつ病になり27歳で休職。発達障害と診断され4年間ひきこもる。次女に家計を助けてほしいという親からの相談。

<阿部さんの回答>

相談後、家計を助けようと就職した次女は、人間関係が悪化し3カ月で退職。資格を取る意欲があり簿記2級を取得しました。就労移行支援の利用をすすめると、次女はそこに通い障害者枠で就職。いまは経理で働き月収は約15万円で、家計を助けられるようになりました。

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<相談内容>

長男は高校中退後、仕事を転々として35歳からひきこもるが、よく外出はする。父の老健の入所費用が月に約21万円で、赤字だという長女からの相談。

<阿部さんの回答>

家計を圧迫しているのが父親の入所費用なので、自宅介護に切り替えます。母は持病があるため、家にいる長男と、近所に住む長女が介護を協力すれば支出は抑えられます。金融資産が少ないので自宅を処分するなどの方法を検討するため、早急に家族会議を開く必要があります。

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<相談内容>

長男は大学卒業後に就職したが、仕事のトラブルで24歳から20年以上ひきこもる。月に数回、外出する程度。社会に復帰してほしいという親からの相談。

<阿部さんの回答>

家計の予備費が足りないですが、両親の収入を増やすのは無理。食費から1万円を削り予備費に回します。長男は投資に興味があり、パソコンを使い収入を得たいと考えています。また、甥に勉強を教えるのが上手なので、塾の1対1の個別指導講師に就職できれば収入増に期待。

※表はすべて固定資産税を含む


取材・文/松澤ゆかり  

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<教えてくれた人>

阿部達明(あべ・たつあき)さん

「居場所&相談室オープンハート」責任者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士、キャリアコンサルタント。三井住友銀行、東京都若者社会参加居場所責任者、東京都就労訓練アドバイザーなどを経て現職。

問い合わせ先/居場所&相談室オープンハート責任者 阿部達明さん 

電話090-2744-6184 
メールアドレス animism9@gmail.com  
阿部さんは関東地方で活動。このような支援団体は全国にあり、自治体に問い合わせると教えてもらえます。

この記事は『毎日が発見』2019年11月号に掲載の情報です。

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