仕事や学校などの社会参加を避けて、自宅や自室から出ない状態が長く続いている「ひきこもり」の人が増えています。近年の調査では15〜39歳のひきこもりの人よりも、40〜64歳の中高年の引きこもりの人の方が多いという結果も出ています。ひきこもりの人のためのさまざまな支援を20年間行っている一般社団法人トカネット代表理事の藤原宏美さんに、ひきこもりの人の現状や支援内容について聞きました。
いまはひきこもりの子どもの年齢が高くなっています
ひきこもりとは厚生労働省によると、「学校や仕事に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6カ月以上続けて自宅にひきこもっている状態」をいいます。
2015年に内閣府が15〜39歳を対象に、「ひきこもり」の調査を実施した結果、「若年性ひきこもり」が54万人と推計されました。
18年には、国の初めての試みとして40〜64歳を対象とした「ひきこもり」についての調査が行われました。
その調査から「中高年ひきこもり」が61万人いると推計され、若い世代を上回っているという結果になったのです。
20年間ひきこもりの人の支援を行っている藤原さんは、「いまの時代、普通に大学を卒業して就職してもリストラに遭うことがあり、親の介護で一度、会社を辞める人もいます。しかし、もう一度働きたいと考えても、思い通りに就職することは困難です。中高年の場合は、それが原因でひきこもるケースも多いのです」と話します。
ひきこもり本人や家族の心の状態を大切に
藤原さんが主宰する「トカネット」(東京都)では、毎月、中高年のひきこもりの親の会を開催しています。
参加者の子どもは10〜20歳代に不登校や発達障害などでひきこもり、いまは30〜40歳代に達している人が多いそうです。
「子どものことを誰にも言えない親御さんたちが、子どもの様子を話したり、悩みを打ち明けています」
トカネット独自の活動が「メンタルフレンドによる訪問サポート(有料)」です。
ひきこもり経験者や社会人などの「メンタルフレンド」がひきこもりの人を訪問し、部屋の前で本人と会話を試みます。
少しずつ心を開いてくれる人もいます。
毎月、メンタルフレンドなどが中心となり、「ひきこもり、元ひきこもりの子どもたちのゲーム会」も開催。ゲームを楽しみながら、自分の悩みや心情を話せる場になっています。
ゲーム会では会話が必要なカードゲームを行います。終了後は参加者の顔もほがらかです。
中高年ひきこもりで問題なのが親の死後のこと
両親が亡くなった後の三つの問題点を藤原さんは指摘します。
一つ目は住む場所です。
親の死後に相続が起き、兄弟が自宅を売却して換金されてしまう恐れも。
二つ目は生活費です。
親の年金が途絶えて困窮することがあります。生活保護などの申請には第三者の協力が必要になります。
三つ目はひきこもりの人への声かけがなくなることです。
「ご飯食べてる?」「元気?」などと気にかけてくれる人がいれば、生きる希望が持てるのです。
「解決策として親御さんは、子どもが孤立しないように、子どもの状態をご近所や親戚、行政の人に伝えておくことが大事です」と藤原さん。
現在もひきこもっている息子・娘を持つ両親の心境
ケース1 Aさんの場合:両親60歳代/子ども30歳代女性
両親が顔を見ることもできなかった、6年間ひきこもりの娘に起きた"進歩"
娘がひきこもって6年になります。
親が家にいない時間を見計らって買い物に出る以外は、部屋に閉じこもったままでドアを開けず、だれも部屋に入れませんでした。
数カ月前、トカネットの訪問サポートの協力もあり、何年かぶりに娘の顔を見ることができました。
いまは相談員さんと娘の部屋に入っていろいろ話しかけていますが、返事も相槌(あいづち)もなく、反応がまったくありません。
次の目標は、問いかけに反応してもらって、話し合いのテーブルにつくことですね。
以前の食事はコンビニで買った物を食べていたようですが、いまは私たちが作った食事を食べるようになりました。
娘がひきこもってから10カ所くらい相談で回りましたが、ようやくの進歩です。
ケース2 Bさんの場合:両親70歳代/子ども40歳代男性
「ひきこもりの長男をいつまで養えるのか...」長男の将来に不安を感じ、両親は生活保護を検討
長男は高校時代に不登校が原因で、ひきこもるようになって約25年がたちます。
最初は家族4人で団地に住んでいましたが、19年前からは長男だけアパートに1人で住まわせています。
その後、私たち夫婦と次男は家を購入して引っ越しましたが、団地の家賃は払い続けています。
それは、めったに外出しない長男が団地を訪れて、料理をしたりお風呂に入るのがうれしいからです。
長男の生活費、アパートと団地の両方の家賃で、毎月約12万円かかっています。いまは私たちが働いているので払えますが、今後、年金収入だけになると貯蓄も底をつくでしょう。
長男は嫌がっていますが、生活保護を受けさせることを検討しています。
取材・文/松澤ゆかり