「在宅介護」を支える新しいサービス。「地域包括ケアシステム」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」とは/在宅介護

介護が必要になったとき、自宅に住み続けながら介護を受けることを「在宅介護」といいます。内閣府の調査によると、在宅介護を望む人は男女とも7割を超えています。今後、親や家族、配偶者、そして自分の介護などに、直面することもあるでしょう。在宅介護を行う上で、どのように介護保険を使ったらいいのか、ケアマネジャーとの関係や家族の関わり方などについて、現役の主任ケアマネジャーである田中克典さんに聞きました。

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●住み慣れた地域での生活を支える「地域包括ケアシステム」

これからの日本はますます高齢化が進み、認知症になる人も増えていく見通しです。介護保険や医療保険などの国の制度だけで高齢化社会を支えていくのはむずかしくなっていきます。そのため国は、高齢者ができるだけ住み慣れた地域で自分らしく生活していけるように、住まい、生活支援(福祉サービス)、医療、介護、介護予防を一体的に提供する「地域包括ケアシステム」というしくみづくりを推進しています。

「『地域包括ケアシステム』は全国共通のしくみではなく、地域の特性に応じてそれぞれの市区町村や都道府県が独自に作り上げます。なぜかというと、地域によって抱えている課題はさまざまだからです」と田中さん。

例えば都市部では一人暮らしの高齢者の孤独死や、商店街の小売店が閉店し高齢者が「買い物難民」になることなどがよく取り上げられています。一方、地方では過疎化が問題になっていることが多いです。このような地域の課題に自治体だけが取り組むのではなく、民間企業、NPO、ボランティアなどが地域支援のネットワークを作って解決を目指すのが「地域包括ケアシステム」です。「地域によって『地域包括ケアシステム』の普及状況はさまざまです。全国どこの地域でも機能するようになるまでには時間がかかりそうです」と田中さん。


●地域包括ケアシステムの例(埼玉県和光市の場合)

・医療と介護の連携
自宅に住む要介護・要支援などの高齢者が市内にある埼玉病院に入院して家に戻るとき、必要な介護サービス・医療リスク・疾病管理などを病院と介護保険事業者が事前に調整。万全な体制で退院できるように支援します。

・和光ゆめあいサービス
日々の生活での困りごとを住民同士で支え合って解決するしくみです。例えば買い物代行、通院の付き添い、部屋の掃除、洗濯、繕い物、代筆など。利用会員は協力会員からサービスを受け、協力会員に1時間800円のチケットで支払います。チケットは500円相当の地域通貨券と交換できて、加盟店での買い物に使えます。年会費は利用会員、協力会員ともに500円です。

・和光市介護予防ヘルプサービス
家事などを行うのがむずかしくなった高齢者などに対する家事支援や、生活機能の低下を予防するための支援です。利用料の一部を市が助成しています。

 
●利用者に合わせて柔軟に対応する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」

介護保険には、住み慣れた地域でいつまでも生活できるようにする「地域密着型サービス」という介護サービスがあります。市区町村が事業者を指定し、その市区町村に住む人だけが利用できるのです。地域密着型通所介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)など8種類のサービスがあります。

「地域密着型サービス」の中で、日中も夜間も高齢者のニーズに柔軟に対応し、きめ細かなサービスを行うのが「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」です。2012年に創設されたサービスで、訪問介護と訪問看護が一体化または緊密に連携しながら、定期巡回と随時対応を行います。

定期巡回はヘルパーなどが利用者の家々を1日に何度か定期的に巡回。それぞれの家に短時間滞在し、食事、入浴、排泄などの日常生活の介護を行います。随時対応では利用者宅に緊急コールボタンが取り付けられ、利用者がボタンを押すと24時間オペレーターが対応し、必要に応じて訪問し介護サービスが行われます。1回の訪問ごとに利用料が発生する通常の訪問介護などとは異なり、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」では要介護ごとに月額料金が定額になっています。

「『定期巡回・随時対応型訪問介護看護』は、夜間のスタッフがなかなか集まらないなど、人材確保が課題となっています。また、利用者が減ると事業として成り立たなくなる、利用者が広い範囲に点在している地域では採算が取りにくいなどの問題もあり、普及はそれほど進んでいません。都市部や行政が後押ししてくれる地域などに限られているのが現状です。今後の展開に期待します」と田中さん。

 
●「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の利用例

一人暮らしで78歳のAさんは軽度の認知症で要介護1です。生活全般に介護が必要ですが、自宅での生活を希望しています。認知症の薬を1日3回飲むことになっていますが、自分で管理できずほとんど飲んでいませんでした。

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を利用するようになってからは、あらかじめヘルパーが薬をカレンダーに貼り付けることになりました。そして朝昼夜の3回、ヘルパーがAさん宅を巡回訪問したとき、薬を飲むように声掛けを実施。そのおかげで薬の飲み忘れはなくなり、認知症の進行を抑えることができています。

1日3回の訪問は短時間ですが、食事をしているか、何日も同じ服を着ていないか、冷蔵庫に古い食材が入っていないかなど、Aさんとコミュニケーションをとりながら生活全般を把握しています。頻繁に訪問しているので、Aさんがストーブの上に洗濯物を干していて、それが落ちそうになっていたときにもすぐに気づくことができ、大事に至らずにすみました。

 

取材・文/松澤ゆかり

 

 

田中克典(たなか・かつのり)さん

1962年、埼玉県生まれ。日本福祉教育専門学校卒業後、東京都清瀬療護園、清瀬市障害者福祉センターなどで介護経験を積む。2000年に介護保険制度発足と同時にケアマネジャーの実務に就く。現在、SOMPOケア株式会社で主任ケアマネジャーとして勤務。著書に『現役ケアマネジャーが教える介護保険のかしこい使い方』(雲母書房)ある。

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