介護保険が使える福祉用具は1割から3割の自己負担。1カ月単位でレンタル、あるいは購入もできる/在宅介護

介護が必要になったとき、自宅に住み続けながら介護を受けることを「在宅介護」といいます。内閣府の調査によると、在宅介護を望む人は男女とも7割を超えています。今後、親や家族、配偶者、そして自分の介護などに、直面することもあるでしょう。在宅介護を行う上で、どのように介護保険を使ったらいいのか、ケアマネジャーとの関係や家族の関わり方などについて、現役の主任ケアマネジャーである田中克典さんに聞きました。

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介護が必要な人が自立した生活をするために、家の中や外出するときに使う道具を「福祉用具」といいます。介護保険が使える福祉用具の種類は決まっていて、1割から3割の自己負担で1カ月単位でレンタルしたり、あるいは購入することができます。利用したい「福祉用具」については、介護が必要な人の要介護度に合わせたものをケアマネジャーに相談しながら決定します。


●レンタルできる福祉用具

介護保険を使ってレンタルできる福祉用具には下記のものがあります。要介護度によっては利用できないものがあります。レンタルのメリットは、介護の状態に応じて借り換えができることです。要介護度が上がったときなどに機能が高いものに変更できます。

<要支援1・2、要介護1・2・3・4・5の人が利用可>
・手すり、スロープ(どちらも工事を伴わないもの)
・歩行器、歩行補助つえ(松葉づえ、多点つえなど)

<要介護2・3・4・5の人が利用可>
・車いす、車いす付属品(クッション、電動補助装置など)
・特殊寝台:介護ベッド。背中や足がリクライニングでき床板の高さも変えられる
・特殊寝台付属品
 (サイドレール)ベッドの側面に取り付けて転落やふとんの落下を防止
 (マットレス)通気性や寝心地などを選べる
 (スライディングボード)ベッドと車いすの間を座ったまま横滑りで移動するための板
 (入浴用でない介護ベルト)腰に巻く幅広のベルト。立ち上がるときなどに介護する人がベルトの持ち手をつかんで引き上げたりして介助
・床ずれ防止用具:柔らかい素材のマットレスや空気圧を自動調節するエアーマットなど
・体位変換器(起き上がり補助装置含む):寝返り動作を補助するために体とベッドの間に入れる空気パットなど
・認知症老人徘徊感知機器(離床センサーを含む):認知症の人が部屋や家から出るときにセンサーで感知して知らせる機器
・移動用リフト:体を釣り上げてベッドから車いすなどに移動する装置
(次のものを含む)
  立ち上がり座いす:電動で座面が上昇して立ち上がり時の負担を減らせる座いす
  入浴用リフト:体を釣り上げて脱衣所から洗い場や浴槽へ移動する装置
  段差解消機:段差のある玄関の上り框で使用。車いすに乗ったままボタン操作で高さを変えられる装置
  階段移動用リフト:座ったまま階段を移動する器具

<要介護4・5の人が利用可>
・自動排泄処理装置:排尿を感知して尿を自動で吸引する装置

「介護保険では介護サービスの費用は国が定めていますが、福祉用具だけは自由価格だったので、同じ商品でも事業者によって価格が高かったり安かったりしました。それが2018年10月からは、レンタル費用については商品ごとに貸与価格の全国平均が公表されることに。貸与価格の上限額も設定されて、上限額を超えた場合は保険給付対象外となりました。極端に高い値段を提示される心配がなくなったといえます。事業者は機能や価格帯の異なるいくつかの商品を提示することも義務づけられ、選択の幅が広がりました」と田中さん。

 
●トイレ、入浴関連の福祉用具は購入が必要

汚れたりして使い回しができない福祉用具は、レンタルではなく購入して使用することになります。介護保険を使うと年間10万円までの福祉用具を購入でき、その1割から3割が自己負担額です。利用者がいったん全額を支払って、後日申請すると自己負担額を差し引いた金額が支給されます。翌年には再び10万円の購入枠ができますが、同じ用具を毎年購入することはできません。例えば何年か使って入浴用のいすが壊れるなど、買い替えが必要になってからとなります。購入の対象となるのは下記の品目です。

<介護保険を使って購入できる福祉用具>
・腰かけ便座:和式便器から洋式への変更、洋式便器の高さを補う便座の底上げ部材など
・入浴補助用具:入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内すのこ、入浴介助ベルトなど
・簡易浴槽:空気式や折り畳み式の浴槽
・自動排泄処理装置の交換部品
・移動用リフトのつり具部分

福祉用具を購入するときに注意しなければいけないのは、必ず指定を受けている事業者から購入することです。それ以外のお店で購入しても申請できないので注意が必要です。また、対象となる品目も限定されています。対象ではないものを購入しても申請できません。事前にケアマネジャーに相談して、欲しい商品が介護保険の対象となっているかどうかを確認しましょう。そのうえで、介護保険の指定事業者から購入する必要があります。

 
●福祉用具購入の失敗例

80歳で要介護2のBさんと同居する息子夫婦は、介護に必要なものなら何でも介護保険の対象になるのだと誤解して、風呂場に敷く滑り止めマットをホームセンターで購入しました。ケアマネジャーに領収書を渡して申請してもらおうとしたところ、「福祉用具事業者で購入したものではなく、また滑り止めマットは介護保険の対象品目ではないので介護保険は使えません」と言われました。息子夫婦は立ち上がりが不安定になってきたBさんのために、数十万円するリクライニングベッドも購入しました。リクライニングができて便利なのでBさんは喜んで使っています。後日、介護保険で介護ベッドがレンタルできることを知り、息子夫婦は「レンタルにすればよかった」と後悔しました。

「福祉用具については、ちょっとしたことでもケアマネジャーに相談しながら進めるとよいでしょう」と田中さん。

 

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取材・文/松澤ゆかり

 

 

田中克典(たなか・かつのり)さん

1962年、埼玉県生まれ。日本福祉教育専門学校卒業後、東京都清瀬療護園、清瀬市障害者福祉センターなどで介護経験を積む。2000年に介護保険制度発足と同時にケアマネジャーの実務に就く。現在、SOMPOケア株式会社で主任ケアマネジャーとして勤務。著書に『現役ケアマネジャーが教える介護保険のかしこい使い方』(雲母書房)ある。

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