【森永卓郎さんコラム】「投資はギャンブル」「老後資金の投資運用には向かない」という提言

大人世代で心配になってくるのが老後。生活費などの資金や健康に対して不安はつきものです。そんな不安に立ち向かえるヒントを与えてくれる、森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」をお届けします。今回は、「投資はギャンブル」がテーマです。

この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年2月号に掲載の情報です。

【森永卓郎さんコラム】「投資はギャンブル」「老後資金の投資運用には向かない」という提言 pixta_92766304_M.jpg

大恐慌直前に似てきた現在の状況

政府が資産運用元年を宣言し、新NISAが始まるなか、2023年12月には、ニューヨークダウが過去最高値を更新しました。

国民の投資への意欲は、ますます高まっていると言えるでしょう。

ただ、私は、いまは株式投資に手を出す時期ではないと考えています。

バブル崩壊の可能性が、とても大きくなっているからです。

私は、いまの世界経済の状況が1920年代の末によく似ていると考えています。

1920年代のアメリカ経済は、自動車と家電のバブルに沸いていました。

一般家庭に普及し始めた自動車と家電を主に作っていたのは、アメリカの企業でした。

フォードやGM(ゼネラルモーターズ)の自動車、GEやウエスチングハウスの冷蔵庫、ゼニス社のテレビは、技術的にも世界をリードしていて、世界中の消費者の憧れの存在でした。

そうした状況のなかで、「アメリカの繁栄は永遠に続く」、「ニューエラ(新しい時代)」がやってきたと、自動車や家電製造業の株価はどんどん上昇し、本来の実力をはるかに上回る株価がついていました。

しかし、1929年10月24日の暗黒の木曜日にゼネラルモーターズの株式に大量の売り注文が入ったことをきっかけに、バブル崩壊が始まりました。

ニューヨークダウは、アップダウンを繰り返しながら下落を続け、最終的に底値をつけた1932年7月には、暴落前の90%ダウンになりました。

株価が10分の1に下落したのです。

このことの教訓は、分散投資をしておけば大丈夫だという認識が間違っているということです。

バブルが崩壊するときは、あらゆる資産価格が下落するのです。

ただ、そんな事例は、100年前の話だという人もいます。

しかし、数年前に「これからの投資は、新興国株式への投資だ」という話がさかんにされました。

そのなかでBRICSが特に注目だと多くの経済評論家が主張しました。

ブラジル、ロシア、インド、チャイナ、そして南アフリカです。

それを信じて、ロシア株の投資信託を買った人も多かったのですが、その後のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア株ファンドの価格は10分の1に下がりました。

これは、いま起こっている話です。

「確実にお金が増える」投資はない

もう一つ、経済の専門家のアドバイスを聞けば大丈夫という認識も間違っていると思います。

友人に山崎元という経済評論家がいます。

彼は長年資産運用に携わってきたプロ中のプロですが、私にこんな話をしてくれました。

「運用という文字は、運を用いると書きますよね。投資は、運なんです」。

どんなプロでも、未来のことなんて分かりません。

だから、投資はギャンブルだと割り切るべきなのです。

ギャンブルで確実に儲かるのは、胴元と政府だけです。

なぜ金融機関が投資信託を勧めるのかと言えば、彼らが「胴元」だからです。

例えば、投資信託を購入すると、売買手数料のほかに信託報酬という形で、残高の0.1%から3%くらいの金額が毎年取られます。

投資信託の価格が上がって利益が出るのなら、そこから払えば問題ないのですが、価格が下落して、投資家に損失が発生したときも、同じ金額の信託報酬を取られます。

金融機関が本当に資産運用に自信を持っているのなら、成功報酬方式でよいはずなのに、価格が上がっても、下がっても報酬は取るのです。

そして、彼らが共通して言うセリフは、「投資は自己責任」というものです。

自分たちの見立てが間違っていたとしても、一切責任は取らないのです。

もちろん、私は、ギャンブルがいけないと言っているわけではありません。

私自身も、馬券を買ったり、宝くじを買ったりしますし、株式も少しは持っています。

ただ、資産の大部分を注ぎこんだりはしていません。

ある会社の社長で、株式で一度も損をしたことがないという人がいたので、どうしてそんなことができるのかを聞いたことがあります。

彼は、資産総額の数%だけを株式投資に回しているそうです。

そして、株式相場が下がったら、少しずつ買い増しをしてきたそうです。

もちろん、株式投資の総額は、全資産の1割以下に抑えていたそうです。

つまり、ギャンブルで生活を破綻させない最大のコツは、無くしてもよいくらいの少額でやることなのです。

だから、老後資金全体を株式投資や投資信託で運用するのは、もってのほかだと、私は考えています。

株式投資で儲かったら、そのお金で旅行に行ったり、おいしいものを食べに行ったりするくらいの余裕資金で、ギャンブルは楽しむものなのです。

特に中高年以降は、お金にお金を稼がそうなどと考えてはいけません。

お金が確実に増えることはありませんし、ましてや放っておいても増えるなどということは、絶対にありません。

繰り返しになりますが、投資はギャンブルです。

自分の老後資金を競馬や宝くじで運用しようとする人はいませんよね。

株式投資も、実はまったく同じことなのです。

※この記事は1月4日時点の情報を基にしています。
※記事に使用している画像はイメージです。

 

森永卓郎(もりなが・たくろう)

1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』(角川新書)がある。

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