森永卓郎さんが考える「防災対策と家」。まず確認したい自宅周辺のハザードマップ

定期誌『毎日が発見』の森永卓郎さんの人気連載「人生を楽しむ経済学」。今回は、「防災対策と家」についてお聞きしました。

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まず確認したい自宅周辺のハザードマップ

私はいまから28年前にいまの家を建てました。

トカイナカのうえに、駅から歩いて15分はかかるので、決して立地条件はよくないのですが、一つだけこだわったことがありました。

それは、地盤が強くて、高台にあるということです。

我が家は狭山丘陵の上にあるので、1万年以上前から陸地でした。

しかもずっと竹林だったところなので、地盤が強く、地震がきても、あまり揺れません。

そして高台にこだわったのは、学生時代に住んでいた東京都新宿区の家で、神田川が氾濫して、胸まで水に漬かって家に帰った記憶があったからです。

いまの我が家から150m先くらいに小さな川は流れているのですが、そこまではずっと坂を下っていくので、我が家が浸水する可能性はほとんどありません。

さらに、隣の家との距離がある程度離れているので、延焼のリスクもさほど高くありません。

私がニュース番組に携わるようになって四半世紀がたちましたが、私は土砂崩れや川の氾濫、大規模火災などが起きるたびに、その地域のハザードマップをみるようにしてきました。

その経験で言うと、行政が作るハザードマップは、完璧ではないものの、かなり正確に被害の予想をしています。

ですから、家を買う場合には、まずハザードマップを確認すべきでしょう。

ただ、いくらハザードマップを確認して、立地を選んだところで、災害の影響を避けられるわけではありません。

例えば、30年以内に大地震が起きる確率は、首都直下地震が70%、東海地震が88%、東南海地震が70%、南海地震が60%とされています。

つまり、少し長いスパンで考えれば、ほぼ確実に太平洋側を大地震が襲うのです。

また、これらの地域に限らず、日本中どこでも大地震が起きる可能性はあります。

さらに、気象予報士に聞くと、日本中どこに線状降水帯が居座るか分からないし、どこを台風が襲うかも分からないそうです。

トイレ、洗濯...生活用水の確保が難題

大地震や台風や豪雨による河川の氾濫が発生すると、長時間の停電がしばしば発生しています。

現代生活は電気がないと成り立ちません。

そのため、私はスマホ用に複数のモバイルバッテリーを用意して、常備しているのですが、スマホ以外の照明やパソコンなどのために、大容量の蓄電池を購入しました。

ただ、停電が長引くと、充電が切れてしまうので、蓄電池に充電するための太陽光パネルも購入しました。

蓄電池や太陽光パネルは随分安くなっていて、10万円くらいで、ある程度使える容量のものが購入できます。

問題は、マンションの場合です。

仙台市によると、東日本大震災の際、停電がおおむね復旧したのは5月10日ということですから、2カ月もかかったことになります。

その間、エレベーターが使えなかった高層階の住人は、一時避難を余儀なくされました。

そのことを考えると、マンションの高層階はリスクが高いと私は思います。

また、東日本大震災では、物流が止まったため、食糧不足も深刻化しました。

我が家は、ある程度の飲料水や食料を備蓄しているので、1カ月くらいは大丈夫だと思いますが、その他に30坪ほど畑をやっているので、季節にもよりますが、もう少し長い期間、食糧危機に耐えられると思います。

野菜はありますし、畑を掘れば芋が獲れるからです。

ただ、大地震の経験者に聞くと、いちばん困ったのは生活用水だそうです。

トイレを流すにも、洗濯をするにも、大量の水が必要だと言うのです。

「なるほど」と受け止めて、考えたあげくの結論は、井戸を掘ろうということでした。

井戸があれば生活用水に困ることはないからです。

問題は、どれだけ掘れば、地下水が汲めるかということです。

そこで我が家は、井戸掘り専門の業者に調べてもらうことにしました。

その結果、我が家は台地・段丘に立地していて、後期更新世の中位段丘堆積物という地層であることが分かりました。

そして、地面から1mほどの表土の下に8mほどのローム層、その下にも8mほどの礫れき・礫質土が続いていることが分かりました。

ところが、この礫質土のなかには含水が少なく、安定した水源とはなり得ないとのことでした。

そこで近隣の井戸の情報を集めると、我が家で安定した水源を獲得するためには55.3mの掘削が必要だという結論になりました。

もちろん掘れない深さではありませんが、この規模の井戸を掘ると、ポンプも含めて100万円以上のコストがかかってしまいます。

もともと手動の井戸を考えていたこともあって、井戸掘りは断念せざるを得ませんでした。

井戸掘りの業者から聞いた話では、低地だと1m掘っただけで井戸ができるところもあるが、高台の場合は、深く掘らないと水源に到達しないことが多いということでした。

熟慮を重ねて選んだ土地でしたが、全ての要件を満たすということは、なかなか難しいことのようです。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)
1957年生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。東京大学卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て現職。50年間集めてきたコレクションを展示するB宝館が話題。近著に、『なぜ日本経済は後手に回るのか』(角川新書)がある。

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『なぜ日本経済は後手に回るのか』

(森永 卓郎 森永 康平/KADOKAWA)

新型コロナウイルス感染症によって生じた日本経済の失速。その原因は長年続いている「官僚主義と東京中心主義」にあると、森永さんは分析します。では今後どうすれば感染拡大を抑え、経済的苦境を脱することができるのか――。豊富な統計やデータを基に導き出された、未来への提言が記された一冊です。

この記事は『毎日が発見』2021年11月号に掲載の情報です。

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