趣味と習い事の日々から、友人に頼まれて週2の接客業を始めたTさん/ちょこっと稼ぐコツ

60歳をすぎても、「今日行くところ」と「給料日」がある......これって思った以上に幸せなこと。趣味に、おけいこに、交友関係にと、老いの時間を豊かに生きるためには毎月ちょこっとでも現金が必要。「年金だけでは暮らせない」と不安に怯えるよりも、仕事を探して働きませんか。いきいきと働くシニアに取材して、仕事を得るノウハウや、自分らしく働き続けるコツを、実例を交えてご紹介します。

※この記事は『65歳で月収4万円。 年金をもらいながら ちょこっと稼ぐコツ』(阿部絢子/KADOKAWA)からの抜粋です。

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定年退職後、悠々自適に暮らしていたのに、友人に頼まれて
断りきれずに飲食店の店員に転身したT・Mさん(63歳)

大手企業を定年退職後、趣味や習い事に忙しく走り回る日々を満喫。あるとき、近所の方に頼まれ、断りきれずに、その方の勤めるとんかつ屋でパート勤務することに。
 (参考)年金受給額:ひと月あたり約130000円(厚生年金)
     時給:1000円 *繁盛した日は大入り袋500円のおまけ付き
     月収:約40000円
     勤務時間:週2日 10:00~15:00

 

会社の規則通りに勤め上げ、61歳になる前日に停年退職を迎えたT・Mさん。
「停年後は好きなことをやろう!」と決めました。
そして、やり始めたのが、週1回の園芸教室と卓球のサークル。園芸教室は区が主催するカルチャースクールが募集していたもので、応募したら当選し、いまは1年生。4年生まで続けて卒業となったら、自宅のベランダで花など植えて実習する予定です。卓球は「ちゅーずクラブ」と名付けて、近所の友だちを誘って始め、コーチもご近所の方にお願いしています。

月1回は、茶道と山の倶楽部。茶道はバスと電車を乗り継いで通っています。山のクラブは「ハイキングクラブ」と呼んでいますが、登山もするそうで、この前は鳥取県の大山に登ってきたと言います。ほぼ毎日、趣味や習い事に、忙しく動き回っているTさんです。

ちょうど一年前、初釜に行くバスの中でした。ご近所の方とたまたま一緒になり、この方が勤めるとんかつ屋さんで働く女性が病気で辞めることになり、人手がなくて困る、という話になったそうです。その日は、「本当に困ったら、ちょっとくらい手伝ってもいいですよ」ということで、話は終わりました。

その数日後、その方から電話があり、「ちょっと家に遊びに来ない?」と誘われたので、お宅に伺うと、そこには共通の友だちが数名、勢ぞろいしていました。
「あらら~」って思っているうちに、「2月からどうかしら?」と、話は進んでいきます。「いや、私、ちょっと考えます。揚げ物も好きじゃないので......」と、その日はキッパリと断われずじまい。

それで、そのとんかつ屋さんに、とにかく一度食べに行ってみて、無理そうなら断ろうと、出かけることに。ところが、その店が、大繁盛しているのです。
「あまりの繁盛ぶりに、私、『えーっ』とビックリしたんですけれど、『本当に困っているのよ』と、現実を目の前にして言われると、断るに断れなくなって、結局、引き受けてしましました。あとで、『何で引き受けてしまったんだろう』って思いましたけど、まあ、いいかという感じで。いざ働いてみると、接客業はそれほど苦になりません」

すでに、厚生年金は前倒しで61歳からもらっているそうですが、国民年金が出る65歳まではまだしばらくあるので、退職金に手を付けるよりはと、2015年2月から働くことに。週2回、10時から15時まで5時間、ちょうど混雑するランチタイムだけ働いています。時給は950円からスタートし、1000円に昇給。週2日合計10時間働いて、月4万円の収入です。交通費は全額支給され、大混雑した日には、500円の大入り袋も出ます。

「大入りのTさん」と呼ばれるほど、彼女が働く日にはほとんど大入り袋がもらえ、それがずいぶん貯まったそうです。とんかつ屋のフロアは33席、2名でそれを担っています。特に月曜日は、上ロースかつ定食が980円になるので、常連さんで大混雑。通常でも、ランチタイムには140名のお客さんが訪れる、とにかく忙しいとんかつ屋さんです。

そうした忙しい日々を縫って、Tさんはもう一つの好奇心を満たすチャレンジをしていました。それは、観光庁が認定する「総合旅行業務取扱管理者」という国家資格。その試験に一年間かけてチャレンジし、めでたく合格したのです。
「総合旅行業務取扱管理者って、海外の旅行業務ができる資格なので、絶対に受からないと思っていたんです。受験科目は法律、旅行業、国内実務、海外実務の4科目。私、シニア女性向けの旅行を企画する仕事を、ちょっとやってみたいな、という軽い感じで勉強を始めましたけど、最後は必死でした」と、合格した喜びが体中からあふれていました。それもそのはず、2015年は全国で60代の全科目合格者は20名しかおらず、そのうち女性はたったの3人! どこまでも、好奇心満載、そして頑張り屋さんのTさん。夢はいろいろと膨らんでいきます。
「とんかつ屋さんは、たまたま人手がなくて困っていたので入ったところですが、お客様の満足そうな笑顔と「ごちそうさま」への言葉に励まされて働いています。退職した会社の人にも『私いま、とんかつ屋で働いているのよ』って話したので、元上司が食べに来てくれて、『なかなか、板についてるね』なんて、言ってましたね(笑)」

それに、とんかつ屋のある市ヶ谷は、靖国神社や桜をはじめとする樹木が多い街並みで、歩いていて歴史のパワーを感じるそうです。
異色の勤め先ではあるのですが、Tさんの好奇心と、チャレンジ精神をもってすれば、取得した資格を活かして、さらなる新しい仕事に精を出す姿が想像できます。やっぱり、60代の秘めたパワーを実感しました。

後日、とんかつ「うちの」に食べに行きました。お昼どきを過ぎ、14時近くになろうとしているのに、6~7名の行列ができていました。メニューを見て、とんかつ大好きな私は、迷ってしまいました。「ヒレかつ」「ロースかつ」「かつ盛り合わせ」。どれも、おいしそうです。食べている人たちのお皿を見ると、想像以上にとんかつが大盛りで、キャベツの盛りもいいのです。並んでいる間に注文を聞かれ、困った挙句、「かつ丼、ご飯少なめ」にしました。

席に着き、10分もしないうちに、かつ丼が運ばれてきました。「えっ、これがご飯少なめ? 間違いじゃない?」と思うほどの大盛り。とんかつサクッと、卵半熟、ご飯ふっくら、やや硬め、私の好みの味付けです。しかし、食べても食べても、ご飯が減りません。ようやく、ご飯を少し残し、食べ終えました。「ああ~、おいしかった」。このボリュームなら、多くの人たちに喜ばれるでしょう。

席を満席にする実力の第一は、とんかつのおいしさとボリューム、そして、価格。あと一つは、働く人のいきいきとした気働きではないでしょうか。残念ながら、Tさんのいない日でしたが、ほかの方の働き方、声の張り方などから、Tさんの楽しそうに、笑いながら働く姿が、想像できました。ごちそうさまでした。

 

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阿部 絢子(あべ・あやこ)

1945年新潟県生まれ。生活研究家。洗剤メーカー勤務を経て、百貨店の消費者相談室に30年間勤務し、現在に至る。家事研究の第一人者として、食・掃除・洗濯・整理収納・片付けから環境問題まで。生活全般にわたる豊富な知識と実践的なアドバイスは幅広い世代から支持されている。近著に『老いの片付け力』『60代の生き方・働き方』(共に大和書房)がある。

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『65歳で月収4万円。 年金をもらいながら ちょこっと稼ぐコツ』

(阿部絢子/KADOKAWA)

年金暮らしは、なんと人生の3分の1を占めるほどの長さ。「年金だけでは暮らせない」と不安に怯えているよりも、仕事を見つけて毎日ちょこっとでも現金を手に入れませんか。ちょっとの現金が趣味やおけいこ、交友関係と、暮らしをより豊かにし、ゆとりを産んでくれるのです。なにより、いくつになっても「今日行くところ」と「給料日」がある幸せは大きいもの。いきいきと働くシニア世代に、仕事を得た方法と働き続けるコツを取材。シニアを受け入れる企業や一緒に働くヤング世代の声、働きたいシニアをあと押しする公的支援などの情報もまとめました。これから年金生活を迎えるみなさんが、自分らしく働き続けることができるためのノウハウが詰まっています。

この記事は書籍『65歳で月収4万円。 年金をもらいながら ちょこっと稼ぐコツ』からの抜粋です

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