会話でマウントをとるのは人間の本能。そういうときは「すごい」と奉ると相手が落ち着く。

初めての人と話すのが苦手! 1対1で話すのが怖い! どうでもいい会話の対処がわからない! 最近は、スマホの普及によりそう感じている人が増えていると思います。元コミュ障のアナウンサー・吉田尚記さんは「会話のテクニックを覚えたらちょっと楽しいと思えるようになります」と言います。そこで、吉田さんの著書『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(吉田尚記/アスコム)より、日常生活の中でいろいろ使える会話術をお届けします。

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悩み マウントを取りたがる自分の心を何とかしたい

答え マウントを取りたくなるのは自然なこと。ある意味「一生懸命」な証拠!


マウントを取るのは、生物の本能だった

吉田アナ 実は私、マウントを取りたいと思ってしまう自分に、気づいてしまっているんです。

うわっマジかよ、と思った人はごめんなさい。

いちおう言い訳をしておくと、たぶん人様に迷惑をかけるようなことにはなっていませんが、心の中にはどうしてもマウントを取りたい自分がいる自覚がある。

たとえば、お仕事を通じて親しくしている(とこちらは考えている)アイドルや声優さんの結婚を、直前にお目にかかる機会があったにもかかわらず後からニュースで知ったときに、「なんで私に教えてくれなかったんだ......」と思ったりします。

「吉田さん、いつもお世話になっているのであらかじめお知らせしておくんですけど、実はあさって、かくかくしかじかの発表が......」「えーっ!それはそれは、おめでとうございます! いやぁ知らなかったなぁ」みたいに、事前に教えてもらいたかったなぁという気持ちが出てしまいます。ご本人にはいいませんけど。

自分でも実に浅ましいと思うんですが、人より上位にいたいという形ではないけれど、「大切に思われたい、重く扱われたい、重要人物として処遇されたい」という感情は否定できません。

コミュニケーションにおいては、この意識はすごく邪魔な存在です。

自分が誰かにとって大切だと思われたいがために、ないがしろにされると冷たい気持ちになってしまう。

この悩みについては、あなたにもマウントを取りたい気持ちがあるかもしれないし、取りたがる人のせいで迷惑を受けているときの対策にもなるはずです。

たとえば、キャバクラってマウント大会です。

お断りしておくと、お付き合いや話の流れで相当前に行ったきりですけど、たまに行くと、そこらじゅうで「オレすごいんだよ」の繰り返しなんです。

そういうとき、私自身の「マウント」問題にも気づかされてしまう。

向後先生、いかがでしょう?

向後先生 マウントを取りたくなるのって、ごく自然なことだと思いますよ。

私はアドラー心理学の専門家という立場で呼ばれていますが、最近は「進化心理学」がめちゃくちゃ面白いんです。

研究自体は80年代から始まっていたんですがなかなか世間に受け入れられず、最近やっと本が出てきたんです。

吉田アナ どういうものなんですか?

向後先生 生物は何百万年かけて進化してきたわけですが、人間の脳の大きさはこの1万年ほど、ほぼ変わっていないらしいんです。

つまり、現代人である我々は、農耕以前の木の実を拾ったり、イノシシを見つけて追いかけたりしていた狩猟・採集時代と同じ認知システムで生きているということなんです。

当時は、マウントを取ることがまさに死活問題だったんですね。

特に男にとっては。

吉田アナ 男は元来、マウントを取るものなんですね。

向後先生 そう。なぜなら、女性は限られているから。女性は男を選べるけれど、男は競争の果てにしか女性を獲得できないんです。

力がある、財力がある、優しくできる、権威がある......そんな競争社会の「マウント」が今まで生きているわけです。

マウントはナチュラルで、原始人的なものなんです。

吉田アナ 脳というハードウェアは1万年前から変わっていなくて、本来的な「マウント」が残っていて、今になってみるとちょっと不具合に感じてしまう。

向後先生 いえ、不具合でもないですよ。マウント欲求のおかげで多くの人が上昇志向を持ったり、功名心を争ったりするわけですから。

ファッションに気を使ったり、高い車や時計を買ってSNSに載せたりするのもマウントのせいかもしれないけれど、新しいことを発明したり、新規ビジネスを起こしたりするのもまたマウントあってこそなんですよ。

そのモチベーションの源泉は、女性に対するアピールなので、自分をよく見せようという気がなくなったらピークアウトしてしまうんです。

吉田アナ ということは、結婚する前くらいまでが、パワーの使いどころなんですか。そんなこと、考えたこともなかった......。

向後先生 実は、科学でも芸術でも、大傑作、大発明、大発見をした人の年齢を調べると、だいたい思春期終わりから成人前期なんです。

20代ぐらいまでにピークがきて、そのあとは、まあ惰性なんですよ。女性にいいところを見せる必要がないから。進化心理学は、そういうことをまじめに議論するんです。

吉田アナ かの有名な建築家・ガウディは生涯童貞だったといわれていますよね。

向後先生 そうなんですか?それは知らなかった。

吉田アナ それでサグラダ・ファミリアとかを造っちゃうというのならわかりやすいですね。マンガ家の永井豪先生も、ものすごいですよ。

当時、センセーショナルなエロをマンガに投入していたのは、先生が童貞だから描けたというんです。

当時の編集者の一番大切な仕事は、永井豪に女性を近づけないことだったという(笑)。今の向後先生のお話を聞くと、その対策は間違ってなかったかもしれない。

向後先生 ですね。結婚して安定すると、そういう傑作は出ないのかもしれない。

吉田アナ ということは、進化心理学的には、マウントを取りたいと思っていると良い仕事ができるということなんですね。

向後先生 だから、相手にマウントを取られて嫌な思いもするかもしれないけど、基本的にはそのままにしていていいと思います。

吉田アナ マウントを取る人も、マウントを取りたがる自分も変える必要はないってことですね。迷惑をかけられている人は、相手を原始人だと思えば、少し溜飲が下がるかもしれませんね。

向後先生 もうひとつの見方としては、マウントを取る人って「一生懸命」だな、地位を上げるために努力していてかわいいところがあるな、と思えばいい。

吉田アナ そうか、原始人が一生懸命生きていると思えばいい。だいぶ受け入れやすくなった。そして、私は原始人ですね......!

【武器】マウントを取られたら「すごい!」と奉ってしまおう


悩み 女性がマウントを取る目的は?

答え パートナーを逃がさないため!


格差社会はマウント社会?

質問者 反対に、女性のマウントにはどんな意味があるんですか?

吉田アナ 確かに、女性にもマウント問題はありますよね?どちらかというと女性同士で取り合うことが多いのかな。

向後先生 男性は1人の女性をめぐって競争しますが、進化心理学的には、女性は自分が結婚して子孫を残せれば勝ちなんです。パートナーがいること自体が、自分の価値を高めるわけですね。

吉田アナ 彼氏や夫がいることは、やはり女性にとってはうれしいことになるわけですね。でも、パートナーが、ただ「いればいい」んじゃなくて、やっぱり成功したIT社長とかがいいよね、ということにならないんですかね?

向後先生 原始人の女性にとっての成功とは、パートナーを見つけて子孫を残し、その上で自分と子どもをパートナーがずっと援助、保護してくれることなんです。

女性同士でマウントを取っているように見えたり、やたらと彼氏や夫を周囲に見せたがるように感じられたりするのは、自分から逃げられなくするためなんです。自分のパートナーだと証明し続けることが大事になるわけです。

吉田アナ すごい話だ。男性が、他の女性に逃げる可能性があることが前提なんですか?

向後先生 進化心理学の研究者たちがいうには、基本的に人間は、昔から今までずっと一夫多妻制なんです。

イスラム教世界は、今も一夫多妻ですね。

日本やアメリカ、欧州などでは制度的には一夫一妻制ですが、それは見かけにすぎないというんです。

簡単に離婚できる社会というのは、実質は一夫多妻ということなんですね。

吉田アナ 2回離婚して再婚した人は「一夫三妻」と数えるほうが自然だと。

向後先生 それが理にかなっているんです。反対に、子孫を効率的に残すためには、飛び抜けて優秀で財力がある男性を複数の女性で分割・共有したほうがいいんです。

吉田アナ おお!ということは、ごく普通の平凡な男性は必要ないと......。

向後先生 そう、下層の男性は危ないですよ。格差社会であればあるほど、一夫多妻になる傾向があります。それほど格差がない場合は、男と女が全部マッチングできて一夫一妻に近くなるので、種族としての繁栄を考えたら、格差は早く解消したほうがいいかもしれませんね。

吉田アナ 怖い、怖い。こういう質問もアレですが、下層の男性はどうすればいいのでしょう。

向後先生 あまり答えがないな......。今後も結婚できない人たちは増えていくと思います。

ただ、格差が広がったことと、マウントを取る人が増えて きたということの関連は、現象としては説明がつくように思います。

がんばって下層から抜け出したいということの証明でもありますよね。


悩み いちいちマウントしてくる先輩や上司の扱いに困る

武器 マウントを取られたら「すごい!」と奉ってしまおう


向後先生 マウントを取られて、こちらがストレスを感じる必要はありません。むしろ、取ろうとする人の方は原始人的でつらそうだな...と一歩引いて見てあげればいいんです。

具体的な対処としては、その人をリーダーのような存在として「奉ってあげる」こと。

マウントを取りたがる相手と競争しない、させないことが重要で、自然に「上の立場にいるように仕立て上げておく」と本人も落ち着きます。

相手が上司や先輩など、上の立場の人の場合、中間管理職の人や部下は大変ですよね。

しかし、マウントしている本人も精神的に余裕がなくて、つらいんです。

「奉る」が不自然なら、「○○課長も大変ですよね」というようになぐさめる、あるいはリーダーとしてほめる、という対処が効果を発揮しそうです。

本人のつらさが解消されていけば、マウントを取る行為も少なくなります。その他のメンバーには、折をみて気持ちを聞いてあげて、「奉る」作戦をよく説明しておき、共闘できるといいでしょう。あとは、その人の能力をうまく使ってしまえばいいのです。

相手「この仕事、私が担当していたときは、毎月の売上⃝百万くらい取れてたんだよね」

× 自分「先輩が担当されていた頃は、今とやり方が違いますもんね。今は毎月●十万ですけど、ノルマはちゃんと達成できているんですよ」

相手「この仕事、私が担当していたときは、毎月の売上⃝百万くらい取れてたんだよね」

○ 自分「すごいですね!先輩の仕事のやり方をいろいろ教えていただければ、みんな助かります」

《実践例》

質問者 マウントを取る人が1人だったらいいのですが、複数いるので困っています。奉るにしても、あちらを立てればこちらが立たず......。どうしたものでしょうか?

向後先生 マウントを取りたがる人同士が競合すると絶対うまくいきません。

これは、ちょっとマネジメント的な話にもなりますが、メンバーと相談して、チーム分割を検討しましょう。

その際は、全員が納得した上で進めることが大切です。

アドラー心理学では、チーム運営においては、全員が対等な立場で話し合うことが重視されます。

問題が起きていることは恐らく誰の目にも明らかなのでしょうから、上司も部下もなく、それこそ腹を割って話し合う機会を定期的に設け、双方納得の上で分割に持ち込めるといいでしょう。

【登場人物】
吉田アナ=吉田尚記
向後先生=向後千春先生
(早稲田大学人間科学学術院教授)

※コミュ障は「コミュニケーション障害」の略称。本来、言語障害や語音障害など、医学的な診断基準に基づく疾患として分類されるもの。現在は一般的に「他人とコミュニケーションをとることが苦手であることを表す俗称」として使われることが多い

【まとめ読み】『会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』記事リスト

H1_話し方・聞き方の教科書.jpgキャリア20年のアナウンサーが自身の学んできた会話術を全4章にわたって紹介。心理学の研究者などの解説付き。

 

吉田尚記(よしだ・ひさのり)
ニッポン放送のアナウンサー。ラジオ番組のパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など幅広く活躍。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人となるなどアナウンサーの枠にとらわれずに活動中。2012年に「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。著書も多数。

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元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書

(吉田尚記/アスコム)

自身も「コミュ障だった」と語る現役アナウンサーが「会話が苦手だ」と思う人のために書いた一冊。実際に「どんなことで困っているか?」をアンケートで集計し、その中から日常生活でコミュニケーションにしんどさを感じている人のために「会話の仕方」を具体的に説明してくれます。心理学の研究者などにもわかりやすく解説してもらい、一般人向けに会話術をやさしく教えてくれる良書です。

■『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』の紹介動画もチェック!

※この記事は『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(吉田尚記/アスコム)からの抜粋です。
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