定年退職の後や年金受給の時期など、考えなければならないことが山ほどある「老後の暮らし」。哲学者・小川仁志さんは、これから訪れる「人生100年の時代」を楽しむには「時代に合わせて自分を変える必要がある」と言います。そんな小川さんの著書『人生100年時代の覚悟の決め方』(方丈社)から、老後を楽しく生きるためのヒントをご紹介。そろそろ「自分らしく生きること」について考えてみませんか?
シューティングゲームは人間の本能にあっている
ゲームには大きく分けて二種類あるように思います。
ロールプレイングゲームとシューティングゲームです。
ロールプレイングゲームというのは、RPGとも略されるもので、自分の選んだキャラクターを使って、ほかのメンバーと協力しながら冒険などをするゲームのことです。
「ドラゴンクエスト」(通称ドラクエ)や「ゼルダの伝説」など、私が子どもの頃から続いている人気ゲームもあります。
これに対してシューティングゲームというのは、STGとも略されるもので、砲弾やレーザーを用いて敵を撃つゲームです。
古くはインベーダーゲームなどがありますが、やることが単純なだけにこれについては無数の種類のゲームがあります。
人生をゲームにたとえるなら、一般にはロールプレイングゲームのほうがふさわしいように思うでしょう。
キャラクターである自分がロール、つまり役割を果たしながら成長していくわけですから。
まさに人生そのものです。
実際、ボードゲームの定番「人生ゲーム」をロールプレイングゲームにしたものもあります。
たしかに客観的に見れば、人生はロールプレイングゲームのようなものなのかもしれません。
でも、それがいいかどうかは別問題です。
私は人生100年時代においては、むしろシューティングゲーム型で生きればいいのではないかと思っています。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、ずっと成長していく必要はなく、その日をしっかりと生きればいいと思うからです。
シューティングゲームをやる人はみなこぞってこういいます。
ストレス解消になると。
敵をやっつけてすっきりするのは、人間の本能でしょう。
その意味では本能的に生きるということです。
生産性など考えたら、こんなゲームをしていてもなんの得もありません。
時間の無駄です。
ただ、それは人生をあまりに単純に考えすぎです。
人生は何かを成し遂げるためのプロジェクトではないのです。
100年も続く人生は、その日その日をどう生きるかということこそが大事で、100年だからこそすべてが一期一会なのです。
生産性信仰から抜け出す発想が必要
ただし、それは快楽にふけって生きていればそれでいいという話ではありません。
だからここでも享楽的ではなくて、「今日楽的」という言葉を使いたいと思います。
その日をいかに楽にするか、それこそが長く厳しい人生において最大のプロジェクトだと思うのです。
そのためには、生産性信仰の呪縛から自由にならなければなりません。
働き方改革とかいいながら、結局はいかに短い時間で成果を上げるかが主目的になっています。
つまり生産性の議論になってしまっているのです。
本来は、人間らしい生き方が主目的であるはずなのに。
そもそも働き方などという労働主体の発想でこの議論をしている点に、限界があるのかもしれません。
働き方改革イコール仕事の改革ですから。
そうではなくて、人間らしい生き方改革であれば、働き方や仕事、ましてや生産性など度外視して、まずは人間とは何かを改めて議論すべきでしょう。
でも、産業革命以来資本主義に洗脳されてしまったこの国に、そんな発想はないのです。
いや、産業革命以前ではまだ不十分でしょう。
もっと太古にまでさかのぼってはどうでしょうか。
人間がまだ働くことを当然視する前の時代、そう遊びのほうが当たり前だった時代まで。
それくらいやらないと、生産性信仰から抜け出すのは容易ではありません。
だからこそ、人生100年時代をもっと大局的に捉える必要があるわけです。
これぞまさに人間らしい生き方を考えるための問題提起にほかならないのですから。
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